序
“少なくとも80年前は,腎不全の患者は100%亡くなっていた”.私が医師になってから教わった,この言葉に衝撃を受けました.透析医療も,本格的に普及したのは,たった50年前のことです.本邦では,透析を受ける費用は公費でまかなわれ,今や透析患者は35万人に迫ろうとしています.一方,透析による救命と社会復帰が可能になったため,本来患者が透析導入をしないで済むような治療を行うべき腎臓内科領域の進歩は,遅れを取ってきたような印象をうけていました.しかし,近年の腎臓内科学は,CKD(慢性腎臓病)を始めとする各種のガイドラインが整備され,特に,ここ最近,私達が使用できる治療の選択肢は,年々増えていることを実感します.是非,本書を手に取った先生方には,この腎臓内科領域における目覚しい進歩をきちんと理解し,実地臨床の現場に活かして欲しいと願っています.
本書は,腎臓内科専門医を目指す方〜腎臓専門医を取得して間もなくの真のエキスパートを目指す先生を対象に,知識の整理がしやすいように執筆しました.まず,腎臓内科で特に重要になる50の領域を選び,それぞれの分野のトップレベルの先生方に執筆を御願いし,各項目とも実臨床で特に重要な“掟”を5つに限定して提示していただきました.さらに,その“掟”について,最新のエビデンスに基づく知見をもとに,できるだけ分かりやすく説明をくわえていただきました.加えて,実際に経験された症例を提示していただいたた上で,更なる飛躍を期待して“1 STEP UP”を簡単に記載しました.今後の腎臓病学の発展に関わる先生方に貢献できるように,誌面の構成も工夫したので,是非,うまく利用してもらえればと思います.
最後に,本書の執筆いただいた期間は,COVID-19がまだまだ猛威を振るっていた時期であり,各先生方には御忙しい御時間を割いて記載をいただきました.本書の企画・完成まで中外医学社 上岡様,沖田様に様々な御尽力もいただきました.この場を御借りして,御礼を申し上げたいと思います.
ネット全盛の社会で,“紙”でしか伝えられないリアルがあると信じています.それでは,サイエンスを楽しみながら,一緒に学んでいきましょう.
2023年10月
高野秀樹
南学正臣