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書籍詳細

生理学をめぐる旅 ―研究を紡いだ若者たち―

生理学をめぐる旅 ―研究を紡いだ若者たち―

鈴木郁子 著

A5判 286頁

定価4,950円(本体4,500円 + 税)

ISBN978-4-498-00104-6

2023年10月発行

在庫あり

時代を紡ぎ,研究を繋いだ若者たち

生理学のテキストに登場する数多くの用語や法則は,ひとつひとつがそれぞれ研究を繋いできた当時の若者たちの手によって達成された成果である.また過去の研究者たちから学べるのはそれらの成果だけではなく,彼ら自身の研究者としての生き方から得られるものも少なくないだろう.本書では体性 -自律神経反射の研究経緯を中心に,研究を紡いだ古今の若者たちを鮮やかに活写する.

出版社からのコメント

お寄せいただいた書評をご紹介します


地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター
名誉理事長 井藤英喜

 自律神経系研究の発展の歴史がよくわかる、自律神経系研究の面白さがわかる本 

 自律神経系は、内分泌系と並び、体の恒常性を保つ(ホメオスターシス)、言い換えると命を保つ2つの大きな仕組みの一つである。本書は、自律神経系研究の大きな手段の一つである電気生理学的手法を用いた研究を中心に自律神経系研究の発展の歴史を、医学、薬学、獣医学、東洋医学に従事する人、学生、研究者はもとより、一般読者にも理解できる平易な文章で解説している好著である。

 本書では、私が所属する東京都健康長寿医療センターの前身である東京都老人総合研究所副所長であった故佐藤昭夫先生の研究についてかなりの紙数をさいているが、この分野の研究の発展に果たした先生の役割の大きさを考えると、それも当然と言える。先生は感覚神経刺激に対する自律神経反射における脊髄反射の意義に関する世界的な研究者であった。また、老人研に来られてからは、皮膚や筋への刺激に対する胃、膀胱、心臓などの自律神経系の反射を研究することにより東洋医学的手法(指圧、マッサージ、あんま,鍼灸など)に科学的根拠のあることを明らかにされた。また、皮膚刺激に対する内分泌臓器の反射を研究され、2大ホメオスターシス維持機構が、相互に密接に関係していることも明らかにされるなど、独創性の高い研究を展開された。本書には、それらの成果が要領よく記載されている。また、先生は、本書の著者である鈴木先生をはじめ自律神経系の研究に従事する多くの研究者を育てられた。

 研究の遂行、発展には、それぞれの時代に利用できる技術、人脈、研究費の確保などに加えて、研究上生じた問題を解決するための独創的な工夫など多くの要素の成否が関わってくるが、佐藤先生たちが、それらをどのように解決されていったかについても詳細が述べられている。いつも、にこやかに我々に接されていた先生の裏面に隠されていたご苦労を知り愕然とする部分もあったが、それらをいかに乗り越えられたかについて参考とすべきことが本書には多く記載されている。本書は自律神経系の研究の発展に大きな足跡を残された佐藤先生の評伝として、研究をするということの厳しさ、人を育てるということの困難さを日々感じているであろう研究者にとっても学ぶことの多い書である。

 今は亡き敬愛する佐藤昭夫先生の鎮魂の書ともいえる本書が、私共だけでなく、生理学を学ぼうとしている人、生命科学の興味を持つ人、生命科学の研究に携わる人の座右の書として、広く読み継がれていくことを願っている。

著者略歴
鈴木郁子(Ikuko Suzuki)
1962年北海道生まれ,1984年お茶の水女子大学理学部生物学科卒業,1995年東京医科歯科大学大学院歯学研究科高齢者歯科学専攻修了.歯学博士,医学博士.専門は生理学.東邦大学医学部生理学講座助手・講師を経て,2017年より日本保健医療大学保健医療学部教授,昭和大学医学部生理学講座客員教授兼務.
主な著書・編著書に『やさしい自律神経生理学 命を支える仕組み』(中外医学社),『やさしい環境生理学 地球環境と命のつながり』(錦房),『人間と生活 地球の健康を考える』(錦房),『自律神経の科学 「身体が整う」とはどういうことか』(講談社ブルーバックス)がある.

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序文
 「やさしい自律神経生理学 命を支える仕組み」が中外医学社から刊行されて8年になる.アショフの概日リズム,キャノンの交感神経‒副腎髄質系,ヘスの防衛反応など,本著には前著の図が多く登場する.その一つ一つの現象が,いかにして導き出されたのか,解説しているのが今回の書である.「ベル・マジャンディーの法則」や「全か無かの法則」,「刺激伝導系」や「侵害受容器」など,解説しているのは自律神経系の現象に留まらない.生理学のテキストに記されているこれらの用語や法則は,命を支える仕組みの研究に命を燃やした若者たちの渾身の成果であることを,読者は知ることができよう.
 本書は「体性‒自律神経反射」の研究経緯に主眼を置いているが,この研究はそもそもは第2章に登場するシェリントンの「体性‒運動反射」の研究に端を発している.シェリントンは20代のときに脊髄性反射に興味をもち,その詳細を調べるようになっていった.神経系の基本「シナプス」という概念に彼が辿り着けたのは,膝蓋腱反射などの脊髄性反射を観察し続けたからである.実験を通して人間の本質を追求したとして,シェリントンを敬い,憧れた科学者らは20世紀に数知れない.その偉業はクッシングやペンフィールドら臨床で活躍する人々にも受け継がれ,脳神経外科領域の発展へと繋がった.抗菌薬を生み出したフローリーも弟子のひとりである.
 シェリントンの仕事に影響を受けた研究者は日本にもおり,その人はシェリントンの脊髄性の運動反射を内臓の反射に広げていった.体性—自律神経反射といわれるこの反射は,マッサージや温冷湿布,鍼灸,按摩,カイロプラクティックなど,今日の物理療法を支えるメカニズムであることがわかっている.しかし脊髄性の内臓反射は長い間受け入れられず,意味がないと言われ続けた.人ひとりが一生になせる仕事は多くないが,小さな成果であっても事実でさえあれば,研究を積み重ねることで医学に貢献できる日はやがて来るのだろう.
 本書の医学的な内容はもちろん事実だが,会話や人物の心境等に関する記述は,論文や総説等から読み解いた筆者の想像にすぎない.若い読者層が読みやすいようにこのような形式をとったが,誤りがあった場合は許していただきたい.
 本書に記されている生理学的な事実は,動物実験によって得られた.電気生理学が大きく進展した20世紀とはそういう時代であり,動物と真摯に向き合う生理学者らにとって徹夜は当たり前だった.今とは違う世界かもしれないが,彼らのまっすぐな生き方が,現代を生きる人々のなんらかの励みになれれば幸いである.
 本書執筆のきっかけを下さった日本良導絡自律神経学会会長・伊藤樹史氏に感謝の意を表する.第7章と第8章に関し,筑波技術短期大学名誉教授・西條一止氏,元東京カレッジオブカイロプラクティック副校長・村上佳弘氏,BAS社 社長・山本勝信氏にお話を聞かせていただいた.執筆にあたり,東京医科歯科大学名誉教授・大塚正徳氏と筑波技術短期大学・人間総合科学大学名誉教授・佐藤優子氏,医師・鈴木聖梧氏に多くの助言をいただいた.本書は中外医学社の格別なるご厚意なしには出版に至らなかった.コロナ下にもかかわらず,ご尽力いただいた取締役の小川孝志氏,企画部の岩松宏典氏,鈴木真美子氏,編集部の歌川まどか氏をはじめとする中外医学社の皆様に,心より深く敬意と感謝の念を表する.
令和5年夏
鈴木郁子

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目 次

第1章 ● サーカディアンリズム 不思議をさかのぼる
 1.地球と昼夜のリズム
 2.花時計とミモザの研究
 3.ネズミとムクドリ,人のリズム
 4.アショフの時間隔離実験
 5.リズムの所以を遺伝子に求めて
 6.ショウジョウバエに至る道
 7.メンデルとエンドウ豆
 8.ボヴェリと馬の回虫 受け継がれる染色体
 9.サットンとバッタ 染色体と遺伝子
10.モーガンとショウジョウバエ
11.ハエ部屋
12.時計遺伝子の発見

第2章 ● 近代神経生理学の夜明け イギリス・フォスターの研究室より
 1.カタツムリの鼓動 鼓動の源
 2.犬とカエルの筋血流
 3.カエルと亀の心臓 自動能
 4.刺激伝導系の発見
 5.カエルとワニの心臓 心臓の神経支配
 6.不随意神経系
 7.情報を運ぶしくみ
 8.まず脊髄から攻めよ
 9.体性—体性(運動)反射の反射電位
10.シナプスのしくみ

第3章 ● 体性―自律神経反射を訪ねて 研究のはじまり
 1.内臓を調節するしくみ
 2.心を映す皮膚
 3.汗の話
 4.汗と指先の血流 交感神経活動
 5.2種類の波 脊髄性反射と脳を介する反射
 6.体性—交感神経反射電位とは
 7.シェーファーの論文と矛盾
 8.ハイデルベルク大学と頸部交感神経幹の実験
 9.友との出会い
10.豪傑ヒルトン

第4章 ● 近代神経生理学の夜明け 感覚器と神経の電気活動
 1.シュミットの研究 船旅からシナプス前抑制,痛みへ
 2.五感
 3.皮膚の感覚と受容器
 4.神経線維の束
 5.全か無かの法則
 6.ラジオの真空管
 7.ギャッサーの増幅器
 8.感覚を伝えるしくみ
 9.神経線維の分類

第5章 ● 体性―自律神経反射を訪ねて アメリカ編
 1.キャノンとホメオスタシス,消化と心
 2.火事場のバカ力
 3.見かけの怒り
 4.キャノンの弟子,日本へ
 5.2つの反射電位
 6.ソルトレークシティーとパール
 7.頸動脈小体と洞神経
 8.single—unit recordingsに挑む
 9.故郷は遠きにありて
10.パールと侵害受容器
11.皮膚の神経,筋の神経

第6章 ● 体性―自律神経反射を訪ねて ドイツ編
 1.居候と論文 その1
 2.1本の自律神経線維の電気活動 その1
 3.居候と論文 その2
 4.分節性反射と全身性反射
 5.延髄性反射と上延髄性反射
 6.無髄の神経線維刺激による体性—交感神経反射
 7.1本の自律神経線維の電気活動 その2
 8.日本へ

第7章 ● 体性—自律神経反射を訪ねて 東洋医学のミステリー
 1.小さな研究室
 2.流行おくれの研究へ
 3.皮膚から胃への反射
 4.皮膚から膀胱への反射
 5.皮膚から心臓への反射 その1
 6.自律神経研究者たちの国際シンポジウム
 7.高血圧ラット
 8.皮膚から心臓への反射 その2
 9.国際自律神経雑誌の創刊
10.カイロプラクティック
11.鍼灸との関わり
12.鍼と体性—自律神経反射
13.東西医学の融合

第8章 ● 体性—自律神経反射を訪ねて その後 
 1.皮膚から胃への反射 その2
 2.皮膚から膀胱への反射 その2
 3.皮膚から心臓への反射 その3
 4.痛みと自律神経
 5.体性—交感神経反射と鎮痛薬
 6.体性—内分泌反射 副腎髄質ホルモン
 7.体性—内分泌反射 loving touch
 8.体性—免疫反射
 9.皮膚から心臓への反射 その4
10.局所循環の神経性調節
11.脳の局所血流調節
12.アルツハイマー病
13.脳内自律神経系
14.体性—脳血流反射
15.認知・記憶・においとアセチルコリン
16.大きな家族
17.いばらの道
18.友とは

参考文献・引用文献
あとがきに代えて
索引

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執筆者一覧

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