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書籍詳細

ブランチ先生の診察術

ブランチ先生の診察術

35のエピソードが伝えるアプローチ

ジョエル・ブランチ 著 / 中西俊就 訳 / 赤澤賢一郎 訳 / 西口 翔 訳

A5 244頁

定価3,960円(本体3,600円 + 税)

ISBN978-4-498-14850-5

2023年10月発行

在庫あり

この本が,研修医として大海原に出ていくときのオールになる.

医学部では教えないけど医師になったら必須の知識,教えます!
ベッドサイドの診察でのピットフォールとコツ,つらい経験の乗り越え方,病棟回診,病歴聴取,回診時の症例提示のやり方など研修医が知りたいことをブランチ先生が伝授!
研修医や医師を目指す皆さんが,本当に知っておくべきである実臨床現場で起こる重要なことだけをまとめました.

著者からのコメント


前書き

 西口 翔先生の初の著作である「はじめての内科病棟 ただいま回診中!」(中外医学社)が2021年に刊行されました.この書籍に私も協力しましたが,出版後,ふとアイデアが浮かび,この本を書くことを決めました.
 最近の医学書の多くは,疾患に関する総説,あるいは症例を提示して診断法を解説した書籍が多い.本書はそうしたいわば主流とは一線を画すものです.研修医に起きた患者さんや同僚との経験だけでなく,物事が必ずしも完全に計画通りに進まなかった経験を記載しています.例えば患者さんがお亡くなりになった時など,医師ならばある時点で誰でも経験するが,どのように対応するか教わっていない内容を網羅します.本書は,緩和ケア,うつ,医療過誤など重要なトピックを含め,読者の皆さんにぜひ知っておいてもらいたい様々なテーマを扱います.
 簡単に私の実績を述べますと,長年,英国での初期研修,専門医研修中に経験した多種多様な実体験を踏まえ教育を行ってきました.そして今は,15年以上になる日本での臨床経験も活かして指導をしています.
 しかし,そうした,私が初期研修医にとって重要だと思っている知識は,これまで湘南鎌倉総合病院で私が実際に教えた初期研修医にしか知り得ないものでした.毎年,様々な大学から卒業して間もない初期研修医がやってきます.彼らの中には,もう研修は終わって,自分がもうすっかり一人前の医師になれるのだと思い込み,浮かれ気分でいる者もいます.しかし実際には,研修自体が終わっても,真の医師になるための研修は終わっておらず,むしろ始まったばかりということを,ほとんどの人が知りません.
 初期研修のトレーニングでは,私はまず重要な臨床概念について指導します.手洗い,カーテンを引いて患者ごとの空間を区切るといったベッドサイドのマナーや,患者に接する際のプロ意識などです.また,病歴と身体所見の取り方についても指導します.私の指導内容がイギリスをはじめ欧米医学教育の標準的な水準で,研修医になる時点で知っているべきことだと説明すると,多くの若手医師は,自身が求められているレベルの高さにショックを受けます.レベルの高さではなく,(カーテンの引き方とかもっと初歩的なことの)認識の違いみたいなニュアンスでしょう.なぜなら,現在日本では,こうした重要なスキルを卒前教育で十分に教えていないため,研修医たちにはわからないことだらけなのです.
 私の初期研修医への指導には,安全かつ効率的に働くためのコツも含まれています.したがって,本書の後半では,数々の実例を挙げて,病棟回診,病歴聴取,回診時の症例提示など,実際にどうすればよいのか解説しています.
 昔から,ポイントを記憶するための語呂合わせを考えることが大好きで,実際に500以上を書き留めてきましたが,ほとんどは未公開のものです.本書では,これまで作った中でも自身の傑作と言える救急医療に関連するものを紹介しています.どうして救急だけにしたのかって? それは,ひとまず救急医療を知っていれば,危機的な状況の患者さんの命を救うことができるので,一番重要なことと思うからです.初期研修医の段階では,今日の教科書を埋め尽くすように膨大に書かれた稀な疾患に対する診断を下す必要はありません.そのスキルは,卒後の研修で長年かけて学んでいけばよいものです.
最後に,海外でのキャリアを考えている医師に向けて私の意見やアドバイスを記載しました.
 本書は,中西俊就先生,西口 翔先生,赤澤賢一郎先生の協力や翻訳がなければ実現できなかったでしょう.中西先生との最初の出会いは,彼が初期研修医として宇部興産中央病院で研修中の頃です.私を送迎してくれた黄色い蛍光マーカーのような色の愛車が目に焼きついています(私が揶揄しすぎたせいか,彼は車を売却してしまいました).奥様と一緒に東京に引っ越されて,JADECOMの練馬光が丘病院で後期研修医として勤務することになった後も,彼とは連絡を取り続けています.中西先生は,本書の多くの部分を翻訳し,シニア・エディターにもなってくれました.彼の多大なサポートなくして,本書の完成はなかったでしょう.西口先生との出会いは,私が湘南鎌倉総合病院の臨床教育担当として教鞭をとり始めた17年前,彼がまだ医師1年目だった頃です.赤澤先生も,当時はまだ茅ヶ崎徳洲会総合病院の専攻医でした.今では彼らも,湘南鎌倉総合病院の総合内科の部長として活躍されています.本書への彼らの貢献にも大いに感謝しています.
研修医や医師を目指す皆さんが,本当に知っておくべきである実臨床現場で起こる重要なことを学びたければ,本書を読むべきだと断言できる内容になったと自負しています.
 本書では,私が重要だと感じる主要な知識のうち,いちばん大事なベースとなることだけを紹介しています.今回は述べていないけれども伝えるべきことがまだまだたくさんあります.次回作が出せるように期待して,まずは今回の書籍をしっかり学んでください!

 あまり身構えず,楽しく読んでいただければ嬉しいです.
さあ,私と一緒に臨床の世界へ!

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はじめに

 日本で15年以上指導医として教えてきた間,初期研修での2年間のスーパーローテーション,後期研修,そして各自の希望する専門分野に数多くの研修医を送りだしてきました.私自身は1990年代初頭に英国で10年間の研修医期間でトレーニングを受けました.
 “Before the Beginning”で後述するように,亀田総合病院の常勤臨床医であるジェラルド・スタイン先生から学ぶために,医学生として初来日しました.スタイン先生から学んだ,初期研修医を励まし褒めるアメリカ方式の教育は,英国式の研修とは全く別物でした.私は英国に戻り卒後医師として働き始めた6ヶ月のうちに,早くもスタイン先生のもとで目にした状況と英国の研修医の置かれた状況がかけ離れていることに気づきました.研修医というよりはむしろ,求められる責任と担当業務という意味で,若手医師相当といえます.
 この本を書こうと思ったきっかけは,英国のシステムでは初期研修・専門研修中に患者と関わる中で実際にどんなことを経験するのか,また研修医が指導医からいかに素晴らしいことを学び,一方でひどい扱いを受けているのか具体的な例を見せたいということでした.
この本は4つの主要なセクションで書かれています.第1章では,内科と外科での研修1年目の経験,そして専攻医に至るまでのいくつかの印象的な経験を紹介しています.各項目ではラーニングポイントとして,そうした経験が医師としてそして人として私に教えてくれたことを詳しく述べました.同じ経験をしなくても,皆さんに学んでほしいことがここにまとめてあります.
 第2章では,指導医との回診のための準備方法,当直で燃え尽きないための方法,病歴の記載やプレゼンテーションの仕方など,医師の本質として身につけなくてはならないことを解説しています.
 第3章は,救急医療で役立つポイント暗記の語呂合わせです.予期せぬことが起こる緊急時に判断の指針となる重要所見を簡単に覚えることができます.
 第4章は,海外での経験があるだけでなく,イギリス人である私だからこそ伝えられる,日本人初期研修医のための海外研修についての私の現在の見解と,海外研修の前によく考えてほしい理由を述べました.
 なお,本書で紹介している研修中の私の経験は,すべての患者,医師,および個人・固有施設を特定できるような情報をすべて匿名化して記載していますが,全体的な経験と学ぶべきポイントは変わりません.
 私の経験を読めば,研修医がいざ医師として臨床現場で働き始める時に直面する様々なことに対して,いかに無知で準備できていないかおわかりいただけるでしょう.最初の2年間の講義で基礎医学を,その後3年間の臨床実習を通じて臨床現場を知っていると思っていたにもかかわらず,こうした経験の多くはショッキングで戸惑いの連続でした.
 皆さんには本書を読むことで,20年前の英国医学教育の特色を体感していただければ幸いです.かなり昔のことではありますが,私や他の登場人物が経験したことの多くは,今日この瞬間もどこかの病院で同じことが起きているのです.
私の紹介する経験とアドバイスが,すべての読者が日本での研修を最初から最後までやり遂げるのに役立ち,将来,専攻医となってからも安全に診療することができる一助となる価値あるものとなることを願っています.

皆さんの研修と医師人生に幸あれ!

2023年9月
八尾徳洲会総合病院
ジョエル・ブランチ

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Contents
Before the Beginning:The Stein or Stone
石の上にも3年

Chapter 1
 After the Beginning
 Experiences and Teaching Points from Working in the U.K. as a Scut Worker
 
 The First Hospital
  Case 01 初仕事 ―消化器内科ローテーション
  Case 02 プルーム先生と曰く付きの病棟回診
  Case 03 上級医からの最初のアセスメント ―才知は身の仇
  Case 04 クリーカー先生の教え
  Case 05 肝性脳症のジム
  Case 06 善人は早死にする
  Case 07 クリーカー先生の苦悩
  Case 08 アイルランド人のトニー
  Case 09 ハンバーガーマン
  Case 10 カリウム事件
  Case 11 コーネリアス,発熱と腰背部痛
  Case 12 聞かない患者と診れない教授
  Case 13 壊れた除細動器
  Case 14 ピンポイントピューピル,徐呼吸,ピクつき
  Case 15 嘘はがんよりも酷
  Case 16 フィルとCRP
 The Next Hospital
  Case 17 夜中3時の呼び出し 〜診断を指し示すばち指〜
  Case 18 詐病の患者と「精巣反射」
  Case 19 72時間の連続勤務
  Case 20 外科研修
  Case 21 ギデオンくん
  Case 22 胸腔内へのTPN漏出
  Case 23 外勤先の方が重要? ―とある大腸手術の場合
  Case 24 マック先生 ―不思議な出会い
  Case 25 事前の診察記録と胸部レントゲン検査の拒否
  Case 26 話し下手なバタック先生
  Case 27 リック先生と消化管出血
  Case 28 消防士のトニー
 Experiences from Other Hospitals during My Training
  Case 29 看護師のロード
  Case 30 叫ぶ患者に怒鳴る医師
  Case 31 眠たげなティーンエイジャー
  Case 32 下痢と失神の原因はあなたが考えているものではないかもしれません
  Case 33 真冬の日焼け
  Case 34 排泄と尊厳
  Case 35 様々な“死”

Chapter 2
 How to Survive Residency
 Pearls for Daily Clinical Work
 
  仕事の効率化と時間の節約
  チーム回診までの準備
  To-Doリストを作ろう
  オンコールの心構え
  病歴聴取と症例プレゼンの心構え
   現症と現病歴について
   既往歴,手術歴,外傷歴
   内服歴,アレルギー歴
   家族歴
   社会歴
   渡航歴
   性交渉歴
   Review of Systems
  病歴のカルテ記載とプレゼンは全くの別モノです!

Chapter 3
 Emergency Medical Mnemonics
 
 緊急医療のニューモニック(語呂合わせ)
  バイタルサインの覚え方
  緊急時のベッドサイドアセスメント
  狭心症の基本的特徴
  急性冠症候群の非典型な症状
  2型心筋梗塞
  心筋梗塞の治療法
  心不全の要因
  胸部レントゲンで心不全を疑うサイン
  喘息の鑑別診断―“喘鳴イコール喘息”ではない
  Stridor
  慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪
  COPD増悪時の救急対応
  喀血の原因
  高カリウム血症の原因
  低カリウム血症の原因
  低カリウム血症の心電図異常
  高アンモニア血症
  糖尿病性ケトアシドーシスへの対応
  カリウム補充
  外液補充
  インスリン投与
  有機リン酸中毒
  セロトニン症候群
  機械的腸閉塞と麻痺性イレウス
 
Chapter 4
 Almost at the End of the Book
 
 海外留学を希望している日本人医師へ 〜理由を考えよう〜
  何に影響されたのか?
  本当に海外留学する必要があるのか?
  あなたの英語力は?
  臨床留学にかかる費用―文化の違いや現実と期待の乖離
  食習慣
  配偶者
  帰国後〜再び日本のやり方に順応できるのか〜
  苦労の先に成功が待っています!
  研究留学・短期研修
  まとめ

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執筆者一覧

ジョエル・ブランチ 八尾徳洲会総合病院 著
中西俊就 練馬光が丘病院総合救急診療科 訳
赤澤賢一郎 湘南鎌倉総合病院総合内科 訳
西口 翔 湘南鎌倉総合病院総合内科 訳

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ブランチ先生の診察術
   定価3,960円(本体3,600円 + 税)
   2023年10月発行
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