呼吸不全の臨床と生理
諏訪邦夫 著
B5判 274頁
定価7,260円(本体6,600円 + 税)
ISBN978-4-498-03106-7
1997年12月発行
在庫なし
呼吸不全の臨床と生理
諏訪邦夫 著
B5判 274頁
定価7,260円(本体6,600円 + 税)
ISBN978-4-498-03106-7
1997年12月発行
在庫なし
改訂に際して
永年の懸案であった「呼吸不全の臨床と生理」をようやく改訂できる運びとなった.随分何年も前から,多数の方々から「改訂して欲しい」という希望をきかされており,自分でもその気は充分にあったのであるが,いざ腰をすえてとりかかると大きな仕事なので,のびのびにしてきてしまった.
本の改訂には2種類あるように思う.改訂によっても基本の構造はあまり変らない場合と,大幅に書き加えられて分量がずっと増える場合とである.本書の改訂は後者である.理由は簡単で,本書は何といっても「事実」「知識」そのものを取り扱っているので,時間が経過すればそれだけ事実が集積して「追加」が必要になるからである.
初版は「人体における酸素の役割とハイポキシア」が最後の章となっている.本書のそれ以降の章はすべて改訂で書き加えたものなので,かなりの追加となっている.ご存じの方も少くないと思うが,私の著わす本は一般には小型で薄い.本書は例外的に大きくなった.いろいろと検討してみて,短い簡単な本は市場にいろいろとあることだし,本書が受けて来た「がっちりした本」という評価を生かす方向としては,これ以外にはないと考えたからである.
本書の改訂に際して技術的に困ったことがひとつあった.それはワープロの使用についてである.私の場合,執筆が全面的にワープロ(パソコンワープロ)使用になったのは1984年初めである.本書の出版はそれ以前の1978年であるから,当然手書きである.原稿のディスクはない.それで,改訂も久方振りに手書きによる書き足しとなった.出版社にしてもこれは同じで,改めて版を組んでいくこととなった.ところが,印刷を担当する方々の癖らしいのだが,印刷された文章と手書きの文章が原稿として混ざりあう場合,手書き部分よりも印刷部分の組版に誤字が多いという.実際,ゲラをみると「人口呼吸」とか思いもよらない語が少し出てきて驚いた.これなどは,原文はもちろんちゃんとなっているし,コンピュータ処理なら誤りようがないのである.
丁寧に見直しして校正したつもりであるが,誤植が残っている場合はお許し願いたい.また,誤植だけでなく,内容に関する問題点や疑問点などもお知らせいただければ幸いである.できるだけ反応し,採用させていただくように考えている.
1990年5月
諏訪邦夫
著者連絡先
〒113 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学医学部麻酔学教室
電話 (03)3815-5411 FAX (03)5684-0218
初版のまえがき
呼吸不全とその治療に対する近年の興味,認識のたかまりと普及とには眼をみはるものがある.特にICUの運営における若い医師達とナースとの積極的な参加は,「経験を積んだ医師達」を逆にリードしているようにさえみえる.本書は,呼吸不全,呼吸管理の教科書を書こうという永年の著者の希望を,こういう状況下でようやく実現したものである.
本書の目的は2つある.一つは「呼吸不全」の多くの面をなるべく感覚的に提示し,呼吸管理の「コツ」(はやりの言葉でいえば“know-how”)をできるだけ伝えることであり,もう一つは呼吸不全を生理学的に説明することである.書名「呼吸不全の臨床と生理」は,現在流行の「基礎と臨床」に抗して付したものであるが,その理由は,基礎から説きおこして臨床にいたる通常のやり方(すなわち「基礎と臨床」)よりも,臨床の症例や事例をまず示しながら,それを生理学的な言葉で説明していく,という方向を採用したからである.
執筆にあたってはなかなか苦労した部分が多いが,その最大の理由は,本書が臨床に直結したものであるがゆえに,あまりに独断的であってはならないし,そうかといって網羅的で曖昧であっても役に立たない,という考慮が働いたからである.書物の執筆にあたっては自家薬籠中のもののみを内容としたい,というのが著者の希望ではあるが,本書の場合は「基本的な知識」を欠いてはならない性格を有するので,一部に付け焼刃的なものが加っている.そうした部分は読者にも感じとられるであろうし,不完全なまま出版することは不本意でもあるが,充分な発酵は不可能なのでお許し願いたい.なお,本書と前著「血液ガスの臨床」とは深く関連しており,一部は重複もしているが,大部分は異った内容であるので,併読していただければ幸いである.
本書の完成にあたっては数多くの方々の協力を得ている.ハーバード大学とカリフォルニア大学において著者が前後6年半教えをうけた現コロンビア大学のHH BENDIXEN主任教授,呼吸管理の手ほどきをうけた現ハーバード大学のH PONTOPPIDAN教授,著者のこの面の仕事を永年にわたって支持・協力して下さった東京大学 山村秀夫教授を始めとする教室諸兄,呼吸不全患者の管理に協力をいただいた東京大学医部付属病院各科各位,三井記念病院麻酔科,ICUおよび関連各科などに謝意を表したい.
教室の有田英子先生には原稿を通読して不適当な表現・わかりにくい文章などを指摘していただいた.
中外医学社の萩野邦義,久保田恭史両氏始めスタッフの方々には本書の成立に大変に骨折っていただいた.
以上,ここに著して感謝の意を表したい.
昭和53年 秋
諏訪邦夫
目 次
§1 急性呼吸不全とは
1.「急性呼吸不全」と「慢性呼吸不全」との差は,時間の差ではない
2.血液ガスと治療法との関係
3.ハイポキシアとハイパーカプニア
4.急性呼吸不全(ARF)とARDS
5.急性呼吸不全の肺の姿
6.急性呼吸不全の病態と症状
7.急性呼吸不全の治療の要点
§2 呼吸不全の治療総論
1.酸素をなぜ与えるか
2.酸素の与え方
3.気道確保の意味
4.気管内挿管と気管切開との使いわけ
5.人工呼吸の適応
6.人工呼吸器のセッティング
7.呼吸管理のルーチン
8.血液ガス分析とその評価
§3 呼吸不全の臨床症状と病態生理
1.臨床症状と機能検査との関係
2.症状の多様性と組合せ
3.呼吸困難
4.聴診所見
5.喀痰
6.中枢神経症状と意識障害
7.チアノーゼ
8.循環系の異常症状
9.症例
10.皮膚温・発汗・皮膚の色
11.尿量減少と濃縮尿
12.病態と症状との関連
§4 検査所見と病態生理
1.換気量とPaco2
2.Pao2・A-aDo2・シャント率
3.呼気と呼気のガス濃度
4.ピーク気道内圧(PPEAK)
5.FRCとCC
6.胸部X線撮影
7.呼吸面の特殊検査
8.血圧と心拍数の変動
9.中心静脈圧・肺動脈圧・左房圧
10.心拍出量
11.心電図
12.尿量
13.水と電解質
14.その他の血液生化学
§5 気道確保
1.緊急時の気道確保
2.気管内挿管
3.気管切開
4.給湿
§6 酸素療法
1.酸素療法の症例-3つのパターン
2.酸素療法の原理と意味
3.酸素療法開始の基準
4.症状と生理と酸素投与の適応
5.特殊目的での酸素療法
6.酸素療法の施行法
7.controlled O2 therapy
8.吸入酸素濃度の推定と測定
9.酸素吸入の効果と副作用
§7 人工呼吸
1.人工呼吸とは何か
2.人工呼吸の施行方法
3.人工呼吸の生理
4.PEEP
5.人工呼吸とPEEPの合併症
6.weaning 人工呼吸よりの「離脱」
§8 術後の呼吸不全と人工呼吸
1.手術で何がおこるのか
2.術前状態の評価
3.術前対策
4.手術のどの要因が呼吸不全をおこすか
5.麻酔と術後呼吸不全
6.術後呼吸不全への対策
§9 COLD患者の人工呼吸治療
1.はじめに
2.COLD患者と他の呼吸不全患者との差 人工呼吸に対する心拍出量変動を例に
3.「COLD患者に人工呼吸は無益だ」という主張
4.COLD患者の特殊性 麻酔医・外科医に
5.呼吸管理の際に知ってほしいこと 内科医に
6.COLD患者の人工呼吸への私案
§10 「悪循環」としてみる呼吸不全
1.急性呼吸不全の病態把握への種々のアプローチ
2.「悪循環」とは「正のフィードバック」のことである
3.「悪循環」としておこる病態の例
4.急性呼吸不全における悪循環
5.「悪循環」を治療するには
6.おわりに 「呼吸管理」は「治療」である
§11 呼吸管理のシステム化
1.RCUは本来システムである
2.なぜRCUにシステム化が必要か
3.RCUシステムの要素と2,3の考慮
§12 呼吸性アシドーシス
1.呼吸性アシドーシスとは
2.呼吸性アシドーシスの化学
3.呼吸性アシドーシスの生理
4.呼吸性アシドーシスの臨床像
§13 人体における酸素の役割とハイポキシア
1.代謝からみた酸素の働き
2.ハイポキシアの臨床と生理
3.高地居住の生理 Pao2低下の好例
4.中枢神経系とハイポキシア
5.心臓とハイポキシア
6.肺血管系とハイポキシア
§14 酸素中毒
1.酸素中毒の化学と生化学
2.酸素中毒の細胞化学・組織化学
3.肺の酸素中毒
4.肺酸素中毒の臨床
§15 呼吸不全と呼吸筋
1.筋肉と運動の生理
2.呼吸筋の生理と疲労
3.呼吸不全における呼吸筋の問題
4.トレーニングとは
5.呼吸筋からみた呼吸管理の問題
§16 ARDSの化学と生化学
1.肺構造蛋白の化学とARDSとの関係
2.作用物質の化学(1) 正常肺での役割の明確なもの
3.作用物質の化学(2) ARDSでの役割が特に強調されているもの
4.薬物の作用と可能性
§17 ARDSの発生・進行の機序と体液の反応
1.ARDSの特徴と解釈の進展
2.肺胞の構造
3.肺胞の炎症
4.ARDSにおける諸因子の役割
5.急性呼吸不全の肺高血圧症
6.肺線維症
7.一酸化窒素 NO
付I 呼吸管理と血液ガス学習プログラム
1.プログラムの基本
2.プログラムの実際
3.プログラム使用の結果
4.考察
§18 Permissive hypercapnia-人工呼吸の概念を根本から変えられるか
1.歴史と概念
2.PaCO2=40mmHgを目指すことは誤りか
3.従来の解決法
4.PaCO2=40mmHgはなぜ困難か
5.permissive hypercapniaの基本方針
6.臨床経過と評価
付II 「圧」の表示とSI単位について
付III 参考文献
索引
執筆者一覧
諏訪邦夫 著
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