序
脳動静脈奇形の手術の原稿書きや校正が一段落した.5年以上の歳月を要した.浅学非才の私には重い課題で何度も断念しようとした.今やっと失望と挫折の淵から抜け出せた感がある.
ある先輩から「にがい結末の症例に手術のコツが含まれている.一例一例とくに,失敗例こそ記録に残すように」と忠告をうけた.以後,この忠告を脳動脈瘤やAVMの症例について忠実に実行してきた.この教訓があって本書はでき上がったと思う.
某全国紙による手術ランキング本の発刊の初めから当院が脳動脈瘤の手術数全国1位を得,以降,何度か1位を占めていた頃に,師,半田 肇 先生(京都大学名誉教授)から「次はAVMだね」と言われ,口癖の「やるからには誰にも負けないように」と付け加えられた.私のライフワークに脳動脈瘤を選んでくれたのも,AVMに目を向けさせたのも恩師である.以来,誰が見ても恥ずかしくない手術をと念じながらAVMの手術に努めた.ときには見学に来られた当院外の先生方とアプローチや手技について議論を交した.端 和夫 先生(札幌医科大学名誉教授)や中冨 浩文 先生(東京大学脳神経外科准教授,現杏林大学脳神経外科教授)にはAVMの摘出に加わっていただいた.当院でのAVM手術の全例をライブ放映やhome pageの動画により紹介,公開し,手術例のご家族や紹介医に見学の希望があれば手術室に入ってもらうこともある.
往年に比べマイクロサージャリーの手術適応域が広く手術成績がよくなり,手術所要時間が縮まり,手術に伴う出血量も減った.しかし,摘出手術となり難い大きいAVMやdeep eloquent AVMが今日でも,依然として存在する.これらに挑戦するため,これまでに得られた知識を整理すべきときかと思った.
端 和夫 先生には適切な御校正,御校閲を賜っている.
本書は前半がAVM手術の基本的事項,後半がAVM摘出術の実際で構成されている.
AVMをその所在に基づき10 AVM type,36 AVM subtypeに分け,著者が2004年以降に執刀したAVM計415例の中から,Spetzler—Martin grade(SMg)3以上(SMg 3以上がないsubtypeはSMg 2)を選んで摘出術の実際を示した.
本書が脳動静脈奇形の治療の一助になればと切に願う.
端 和夫と中冨 浩文 両先生には心から御礼申し上げます.
中外医学社の鈴木 真美子 様,沖田 英治 様にはご支援を賜りました.当院医局の諸君と事務職員の諸君の御力添えを賜りました.感謝申し上げます.
2023年6月
富永紳介