PREFACE
心エコーができるようになりたい.
多くの研修医,循環器専修医,そして臨床検査技師がそのようなモチベーションを持っていることだと思います.しかし,いざプローブを胸に当てても,先輩のような綺麗な画像にならずどう動かしたらよいかわからない,何か病気のようだけど,次に何の画像を撮ったらいいかわからない,気楽に質問できる「お兄さん・お姉さん」的な先輩も周りにいない.こうして,心エコーは難しい,自信がない,やめてしまおう,という気持ちになりがちです.
この本はまさに,心エコーを始めようと思ったけれど,うまくいかない,という状況にある皆さんのお役に立ててもらえたらと思って企画しました.心エコー図学会の若手組織である「若手心エコーフェローの会」のメンバーにも多く声をかけ,実際に現場で手を動かしている,今,日本の心エコーの世界で最も脂の乗った執筆陣となりました.心エコーには,学問としての側面もありますが,実際には勘と経験がものをいう,現場力の試される手技という側面もあります.本書が,いつも現場にいる,頼りになるお兄さん・お姉さんのような存在として機能するように願っています.
第1章「心エコーの基本と心機能評価」では,3D的な心臓の構造を理解して,どうプローブを動かし,計測すれば正常の心エコーが撮れるかを学びます.第2章「基本疾患」では,冠動脈疾患と心不全を中心に病的心の心機能評価を,第3章「弁膜疾患」では,心エコー検査の花形である弁膜症の評価を,第4章「その他の疾患」では,必ず出会う困った疾患の評価を学びます.付録の「Visual LVEF 10本ノック」では様々な心臓を実際にながめて,左室駆出率評価の客観的な感覚を身につけられるようにしました.
執筆陣には,なるべく多くの動画を用意してもらいました.他の画像検査と違う,心エコーの最も重要な特徴は動画です.静止画だけを学んでも,絶対に心エコーができるようにはなりません.2次元コードで簡単に動画が見られるようになっているのが本書の大きな特徴です.ぜひスマホ片手に動画を見てみてください.
また,疾患編では実際の症例に基づく診断プロセスから経過までをまとめてもらいました.「心エコーは臨床心臓病学である」とは,故吉川純一先生の言葉だと聞いていますが,正しく診断するには,目の前の心エコー所見が,治療を含めたその後の経過にどう関係するかを知らないといけません.心エコーが少し取れるようになってきたら,「意味のある」エコーが取れるように,症例の流れを学んでもらえることを祈っています.
本書の構成にあたっては,何より,現場の最前線でとても忙しい中素晴らしい原稿をくださった若手メンバーに心からの感謝を捧げます.また,中外医学者の編集者様方,とくに声をかけてくださった五月女様,実際に素晴らしい助言と校正をいただいた上村様,上岡様のご尽力がなければ,本書は存在しませんでした.心から感謝を申し上げます.
本書が多くの初学者,初心者の役に立ち,心エコーって面白い,と思ってもらえれば,編者としてこれ以上の喜びはありません.
2023年6月
鍵山暢之