改訂にあたって
本書を手に取ってくださった皆様! 本書は「解剖学は暗記しなければならない用語が多すぎる!」という絶望的状況に悩んでいる方に,少しでも希望を与えられればと思い,「解剖学用語という砂漠のオアシス」をめざし,「解剖学用語」を勝手に選んで編纂した事典です.「どこが事典?」とのご意見もあると思いますが,学生時代に「わからん」と感じた用語を集めたメモ帳と思って頂ければ幸いです.
本書は,22年前,「日本一読みやすい解剖学事典!」をめざし,昼間も寝ずに準備して作成したものです.日頃,解剖学用語は「憶える」のではなく「理解する」のだと豪語していましたが,それを具現化する機会を中外医学社からいただき,調子にのった次第です.
書き始めた当初は,「事典=簡潔かつ正確に定義された用語集」という鉄則に気づきませんでした.表記を勝手に変えることもならず,独りよがりな解釈を記すことも許されません.「オアシス」どころか「泥沼」にはまった気分の中,イラストの描画と説明文の執筆という孤独な作業を続ける羽目になりました.もっとも頭を痛めたのは漢字表記と読みの決定です.領域で異なる「医学用語」,「読み方」,「英語表記」などは本当に手を焼きました.本書が出版に漕ぎ着けられたことは「奇跡」そのものといわなければなりません.
さらに,誰もが「売れない」と断言していた本書が,20余年に亘って生きながらえてきたのも「驚き」です.出版社の販売努力の成果か,それなりに使い道があったのか,それとも誤って購入してしまった方が多かったのか.いずれにしても,本書をご購入頂いた皆様には衷心より感謝申し上げます.(願わくは,本書が書店の事典コーナーに置かれることを夢見ておりますが……)
今回の改訂にあたり,多くの皆様にお世話になりました.とくに,定年後も教室の一部屋を「執筆とイラスト作成の場」として使わせて頂いただけでなく,多くのご教示を頂いた,杏林大学医学部肉眼解剖学教室の長瀬美樹教授や教室員の皆様,無謀な出版と改訂を決断してくださった中外医学社企画部の小川孝志氏,同編集部の沖田英治氏には改めて御礼申し上げます.
2023年5月
松村讓兒
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はじめに
医療従事者をめざす人たちは「解剖学はとにかくたくさんの用語を憶える科目」と思っているようだ.そして,解剖学の授業が始まるとともに「訳の分からない解剖用語」が「津波のように押し寄せてくる」と感じるという.その結果,たくさんの人が「解剖用語の海」の中で溺れてしまうらしい.このまま行けば,今,この本を手にとっているあなたも「解剖用語の海に漂うモクズ」となってしまうかもしれない.
本書は,すでに溺れてしまった人も含め,「解剖用語の海」を泳ぐための手助けになるように,との願いを込めて作られた「解剖学事典」である.また「事典」としてばかりはでなく,見開き読み切り形式の「解剖学入門書」としても使えるよう,かつて「解剖用語の海で溺れかけた著者」が「ワラをもつかむ」気持でアレンジした.パラパラと気楽にめくりながら「クイズ」のつもりで読んで頂ければ本書の利用価値は倍増し,確信を持って「ワラよりずっと役に立つ」と断言できる.
この本は,これまでに献体された多くの方々から頂いた「無言の教え」や,学生から寄せられた「数々の不平や文句」があればこそできたものである.改めて感謝の意を捧げたい.
また,原稿作成中の平成12年度実習に亡父の遺体が供され,学生とともに解剖を行うことができた.これにより,いくつかの記載を確かめることができたことは望外の喜びであった.
本書を書き上げるにあたっては,多くの方々にご教示・ご協力を賜った.とくに小林靖助教授をはじめとする杏林大学医学部第一解剖の方々には,ある時は尻を叩かれ,ある時は頭を叩かれながら「檄」を飛ばして頂いた.また,出版にあたっては中外医学社企画部の小川孝志氏,編集部の久保田恭史氏にお骨折り頂いた.この場をお借りして厚く御礼申し上げる.
末筆ながら,本書を購入された方には著者として最大の感謝を捧げたい.そして,もし不十分な記載や誤まりについてお気づきの点があれば,是非ともお知らせ頂き,ともに「解剖用語の海」を泳いで行きたいと願っている.
2001年1月
松村讓兒