呼吸管理トレーニング
諏訪邦夫 著
B5判 214頁
定価5,720円(本体5,200円 + 税)
ISBN978-4-498-03109-8
2001年02月発行
在庫なし
呼吸管理トレーニング
諏訪邦夫 著
B5判 214頁
定価5,720円(本体5,200円 + 税)
ISBN978-4-498-03109-8
2001年02月発行
在庫なし
呼吸管理の基本と実際,ARDSの成因,病態,対策の理解を図った書である.まず読者は“呼吸管理”で対象となる患者のグループ,考え方,用語,測定パラメータ,治療方針に馴じむよう症例にふれ,つぎに正しい呼吸管理の仕方,種類,注意,コツを学び,さらにARDSの概念,症状,メカニズムと予防を学習するよう構成されている.最後には,これらの復習と応用力養成のため問題とその解説の章を設けた.
第6版の序
今回の改訂は当初の予定よりやや大幅になりました.除去したのは「人工呼吸における死腔のつけ方」,「薬物を点滴で投与する場合の簡便計算法」,「軽症患者へのECMOの利用」などです.
明確な追加は,「経皮的気管切開法(PDT)」と「呼吸管理に使用する鎮静剤と筋弛緩剤」の二つで,さらにARDSの治療方針の変更に伴って「Permissive Hypercapnia」を,パソコン環境の変化に伴って「血液ガスと呼吸管理を学ぶコンピュータプログラム」となっていた項目をタイトル名も含めて,全面的に書き換えました.
インターネットを通じてメドライン情報やその他の雑誌の電子情報に日常的に接し,フォーラムやメーリングリストを通じても情報が入ると,つい新しいことを加えたくなります.しかし,新しいことは何が本質的で永続する情報か不明です.最新情報に振りまわされず,重要な進歩を逃さない努力の妥協点が,今回の改訂です.
本初に対する読者の方々の御支援に感謝します.
2001年1月
諏訪邦夫
第5版の序
今回は全体を見渡して改訂を加えました.改訂の内容は細かいところが多いのですが,現代の技術や考え方あるいは本書の他の部分と矛盾するような記述を中心に改訂しました.明確な追加は,VRS(肺気量減少手術)の項目を加えた点です.本書が寿命を失わないでいられるのも読者の方々の御愛顧の御蔭と感謝します.
1996年に,永年働いた東京大学を離れて現在の帝京大学市原病院麻酔科に移ったことを報告します.
1998年3月
諏訪邦夫
第1版の序
著者の旧著『呼吸不全の臨床と生理』が1978年に出版されてから7年余りを経過した.その間に急性呼吸不全の考え方や治療法にもいろいろと変革もあった.何よりも大変な変化は「呼吸管理」自体の普及とその基礎となるICU体制の確立である.知識面の普及には旧著とその前後から現在までに出版された沢山の呼吸管理関係の書籍の果した役割も大きいと思うし,何れも優れた内容を備えている.こうした状況を見るにつけ,著者自身は旧著に不満もあり,もちろん愛着もあって改訂の意欲を持ってはいた.なかでも「呼吸管理」の特殊性,つまり病態や病因の議論からスタートするのでなく処置・治療から開始しなくてはならない,という特殊性が,著者自身の旧著にも他書にも充分には強調されていない,という不満をいただいていたのである.
そうした状況から,旧著の書換えや改訂でなくて全く新しく書くことにしたわけであるが,これには三つのはっきりした契機がある.一つは恩師BENDIXEN教授が1981年秋に来日されたこと,二つめはもう一人の恩師PONTOPPIDAN教授がすぐ続いて来日されたことで,いずれえも各々1週間ずつ生活を共にすることができ,旧恩の一部を返せたのみでなく得るところも多かった.三つめは1982年暮れと1984年春の2回にわたるコロンビア大学滞在の経験である.三つの契機はいずれも何かを「学ぶ」というよりは,著者の頭の中で発酵していたものにはっきりと形を与えるきっかけになったという面が強い.その点で二人の恩師とコロンビア大学に強く感謝したい.
本書ではいくつかの工夫をこらした.第一は症例からスタートする形をとったことである.これは著者のかねてからの主張である,「具体的な問題から一般的な問題へ」,「臨床から基礎へ」,「まず治療し,次いで病態を考える」というアプローチを著書の上でもたどりたかったからである.第二は図を多用したことである.現実にICUなどで働いている医師の方々にとっては,文章で理解して戴く以前にまずイメージをつかんで貰うことが必要と考えたからである.第三は引用文献をすぐその箇所に掲載したことである.章末や巻末にまとめるよりも実際に内容のかかれているところに記載した方が,読者の方々は原論文にあたりやすいと考えた故である.
本書の作成に際して残念に思っていることが一つある.本書の原稿はパソコンワープロ(NEC社のPC98+JWORD)で執筆した.書物全体に適用したのは著者としては初めての経験である.それ自体は大変うまくいき,得るところも多く満足しているのであるが,しかしフロッピィディスクから直接印刷原盤を作ろうという著者の意図はついに実らなかった.読者にとっては内容が重要なのであって,書籍製作の過程は興味の外のようにも思えるかもしれないが,誤字のないこと,内容の新しいこと,価格の安いことなどは書籍の重要な条件であり,ディスクから直接印刷機へ導くことによって,これらの点に大幅な改善が期待できるのである.したがって著者としても折角の機会を生かせなかったのはまことに残念に思う.この点を別にすると,中外医学社の荻野邦義・中川道郎両氏を始めとする各スタッフはいつものことながら充分に協力を戴いたし,その質の高さには充分に満足していることをここに記載しておきたい.
1985年7月
諏訪邦夫
目 次
1 症例を学ぶ
症例1 大腿骨骨折後の呼吸不全および全身の障害
2 原因不明の心原性ショック
3 慢性閉塞性肺疾患(COLD)の急性憎悪
4 肥満患者の術中術後の呼吸
5 食道静脈瘤破裂に続発した呼吸不全
6 脳梗塞と誤飲性肺炎
7 大腸菌による敗血症に基づく呼吸不全
8 特発性肺線維症に加わった急性憎悪
9 喘息発作による呼吸困難
10 薬物中毒による急性呼吸不全
11 テタヌスの治療過程でみられた呼吸循環不全
12 気管切開管再挿入の失敗による死亡例
13 術中の心停止から術後のウィーニングに失敗した例
呼吸管理の基本を学ぶ
2 気道確保
1.気道確保とは
2.気道確保の適応症
3.エアウェイ-使い方の注意
4.気管内挿管-気道確保の中心は気管内挿管である
a.気管内挿管に必要な器具・準備
b.気管内挿管のコツ
c.気道確保(挿管)によるデメリット
d.気管内挿管を開始する前に知っておいて欲しいこと
e.気管内挿管時の局所麻酔使用
f.挿管直後のチェック点
g.チューブの入れかえ時の注意
5.気管切開
a.気管切開の時点
b.気管切開の注意点
c.気管カニューレの交換とその危険
6.気道確保の合併症
a.片肺挿管の危険とその防止
b.チューブの閉塞
c.偶発的な抜去
7.気管内吸引とそれに伴う危険
3 人工呼吸
1.人工呼吸の概念
2.人工呼吸のセッティングと考え方-一回換気量・呼吸数・FIO2の組合せ
3.人工呼吸には高い気道内圧が必要
4.正常肺の人工呼吸と肺機能
a.人工呼吸の静力学-「弛緩」による肺気量の減少
b.呼吸筋の弛緩と胸腔内圧分布の変化-背側横隔膜の大きな移動
c.呼吸抵抗の意義-人工呼吸の動力源と「インピーダンス」との関係
d.圧関係の差
e.吸気の不均等
f.呼気の不均等
g.胸腔内圧の上昇と大きな動揺
h.肺血流不均等の増大
i.ガス交換の障害-A-aDO2とa-ADCO2の拡大-換気血流比の不均等
j.重量はコンプライアンスの低下である
k.人工呼吸による心拍出量の減少とその回復のメカニズム
5.呼吸不全の肺機能と人工呼吸
a.ARDSの肺の特徴
b.ガス交換の改善-圧をかけて脹らます
c.呼吸筋の酸素消費量
d.悪循環を絶つ働き
e.心拍出量は減るか
f.肝機能
g.水分の平衡
h.肥満者の人工呼吸はとても大変
i.慢性呼吸不全の急性憎悪の人工呼吸
j.CPAPを用いた呼吸管理
k.死腔の付け方
6.PEEP:呼気終末陽圧法
a.PEEPはどんな条件で必要か,どれだけかけるか
b.PEEPとプロスタグランディン
7.人工呼吸とPEEPの合併症
a.圧による肺の損傷
b.人工呼吸による気管の損傷
8.新しい人工呼吸
a.HFV(高頻度人工呼吸)
b.I/E比逆転の人工呼吸-IRV
c.MMV
d.ECMOと人工呼吸の組合せ
e.キューラスジャケット型の人工呼吸
f.PSV(pressure support ventilation)
9.新しい人工呼吸器
10.人工呼吸からの「離脱」と“ウィーニング”
a.「離脱」の条件
b.離脱時の注意とモニター
c.人工呼吸からの離脱の生理-自発呼吸の生理と人工呼吸の生理との比較
d.離脱時の合併症
e.ウィーニングの語義とニュアンス
f.IMV
g.古典的なウィーニングとそのやり方(いわゆるon-off法)
h.IMVと古典的なウィーニングとの比較-on-off法の生きる道
i.ウィーニングとリハビリテーション・トレーニング
j.CPAPを用いた離脱
k.PSVによるウィーニング
11.人工呼吸器の方向と将来
a.ソフトとハードの分離
b.人工呼吸のパターンの今後の可能性
4 血液酸素化の問題
1.人工呼吸やPEEPも実は酸素化の問題である
2.鼻眼鏡型カテーテルの付け方
3.間歇的酸素投与に意味があるだろうか
4.マスク,鼻カテーテルのO2流量とFIO2
5.酸素テントの使いみち
6.酸素濃度を選ぶには-その1
7.酸素濃度を選ぶには-その2
8.酸素の身体への作用
9.酸素療法の危険と注意,特に酸素中毒の問題
5 気管支鏡と呼吸管理
1.気管支鏡の用途
2.器具と麻酔-患者の観察を怠らないように
3.手法
6 呼吸管理における薬の使い方
1.気管支拡張薬と去痰薬
2.利尿薬
3.カテコールアミン
4.ステロイド
5.アセタゾルアマイド
6.呼吸管理に使用する鎮静剤と筋弛緩剤
7.NOとそれに対する意見
7 モニターの問題
1.一回換気量,分時換気量,肺活量の測定
2.VD/VT
3.VD/VTを測定しよう
4.VCO2とVO2
5.コンプライアンス測定のいろいろ-実効コンプライアンス
6.パルスオキシメーター
7.スワン-ガンスカテーテル
8.心拍出量とPvo2
9.MIPとMEP(MIFとMEF)
10.カプノグラフ
11.肺内血管外水分量の測定
12.人工呼吸併在下での呼吸筋仕事の測定
呼吸不全を学ぶ
8 呼吸不全概論
1.呼吸不全とは
2.呼吸不全の原因は肺のみではないが-
3.急性呼吸不全と慢性呼吸不全
4.急性呼吸不全とARDS
5.ARDSの経過
6.慢性呼吸不全の急性憎悪
7.呼吸不全と呼吸筋不全
9 呼吸不全の臨床症状
1.自覚的呼吸困難感
2.他覚的な呼吸困難症状
3.個々の症状
4.チアノーゼ
5.呼吸管理を学ぶためのパソコンソフト
10 急性呼吸不全のメカニズム
1.ARDSは肺の炎症とその治癒の過程である
2.正常肺胞の構造は強い
3.肺胞の炎症:Alveolitis
a.炎症細胞と気管支洗滌による分析
b.障害パターン
c.肺組織障害の感受性と好中球の役割
d.創傷治癒と肺線維症
4.ARDSにおける諸因子の役割
a.補体の意義
b.白血球とにく好中球の働き
c.α1-アンチトリプシン
d.プロスタグランディン
e.血液凝固の障害・DIC
f.急性呼吸不全の肺高血圧症
g.酸素中毒症
h.肺線維症
5.Permissive hypercapnia
11 呼吸不全の予防
1.肺機能障害・呼吸機能障害と手術
a.評価において考えるべき因子:肺外因子
b.評価において考えるべき因子:肺の因子
c.老人と肥満者の%VC評価には要必要
d.対応
e.肺切除の場合の考え方
2.呼吸不全予防法のいろいろ
a.術前にできること
b.Incentive spirometer
c.術後鎮痛とくに硬巻外麻酔法の利用
d.選択的術後人工呼吸
3.肺気量減少手術(VRS)
4.ARDSを薬で防げるか
12 応用問題
問題1 肝切除術後3時間目の急性呼吸不全
2 気管切開の施行は?
3 気管切開の施行の考え方
4 気管内挿管不能の場合の対策
5 人工呼吸換気条件の設定
6 慢性閉塞性肺疾患患者の術中術後の管理
7 慢性呼吸不全患者の人工呼吸と人工呼吸からの離脱
8 MIPとMEP
9 肥満患者の人工呼吸
10 VD/VTの推定
11 代謝性アルカローシスの治療
12 人工呼吸器の接続のはずれ
13 PEEPに関する論争
14 IRV
15 換気の仕事量
16 「重量」に対する仕事
索引
執筆者一覧
諏訪邦夫 著
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