序文
プライマリケアの先生方や研修医のみなさんから,「腎臓病はわかりにくい」というお話をよくうかがいます.腎臓病が非腎臓専門医の先生方に敬遠されがちな理由は,この「わかりにくさ」にあるのではないでしょうか.なぜ「腎臓病はわかりにくいのか」,その一つの要因は,腎臓が多彩な生理作用を担っており,腎臓が障害された時に出現する病態が多様であるからではないでしょうか.本書は,この「わかりにくさ」を少しでも緩和し,腎臓病に対する苦手意識を克服していただくように企画されました.この「わかりにくさ」にもかかわらず,ほぼ全ての専門診療科の先生方が腎臓病の患者さんに関わりを持ち,また,プライマリケアの先生方は日常的に慢性腎臓病(CKD)などの腎臓病患者さんを診療されます.特に,CKDはまさに国民病というほど患者数の多い疾患です.また,わが国は台湾に次いで人口当たりの透析患者数が多い国であり,透析患者さんが,透析以外の病態でプライマリケアや非腎臓専門医の先生方を受診する機会がますます増えています.このような場合にお役立ていただきたいのが本書です.腎臓病診療のポイントを簡潔にお示しして,ややこしく思える腎臓病診療を解きほぐして解説しています.
本書では,プライマリケアや非専門医の先生方が遭遇することの多い腎疾患を取り上げています.日常診療でよくありそうな症例シナリオを冒頭に取り上げ,その解説を本文中に記述しています.一般の腎臓病の教科書とは違い,腎炎など腎臓専門医のみが診療することの多い疾患は思い切って割愛し,一方,CKDについてはいろいろな観点から取り上げました.複数のセクションで何回も記述されている部分がありますが,そのようなところはとりわけ重要な内容と考えていただければと思います.また,みなさんがおかれた医療環境に応じて読み分けていただけるような構成にもなっています.
本書は,プライマリケアの先生方,腎臓非専門医の先生方,さらには初期臨床研修医,今から腎臓専門医を目指すみなさんにもお役立てていただける内容です.本書を活用いただいて,腎臓病の「わかりにくさ」を克服し,「苦手意識」を解消いただければと思います.最後に,本書を執筆いただいた先生方,ならびに本書を企画いただき,多くの貴重な助言をいただいた上岡里織さんをはじめ,中外医学社編集部のみなさまに感謝申し上げます.
2023年5月
赤井靖宏