巻頭言
超音波装置の進歩に伴って,周術期における神経ブロック法は格段に普及し,手術を受けられる患者さんの術後鎮痛に大きく寄与する結果となりました.それに伴って,日本区域麻酔学会をはじめとして,多くの学会ではセミナーやワークショップが盛況となり,日本麻酔科学会会員の知識と技術の向上に寄与しています.テキストなども,ある団体や個人から,さらに超音波装置や局所麻酔薬を扱う担当会社からも多くの指南書が発刊され,会員の益するところとなっています.
これだけ情報が多く提供されている環境の中,今回は「上肢」の神経ブロックに特化した著書の発刊に挑戦してみました.先人達の歴史にも言及し,またCadaver所見も加えるなど,上肢の神経ブロックを深掘りした形を模索してみました.ゲラ原稿を読み直してみて,“上肢のブロックは得意!”と思っていた自分でも,あらためて大変勉強になる内容でした.是非,本著を手にしていただき,新たな知見を得ていただければ,監修者として望外の喜びです.
上肢に特化した著書を発刊したわけですから,シリーズとして「体幹部」,「下肢」,そして「頭頸部」なども発刊したいと考えております.このシリーズ企画も,本著の評判に依るところが大きいと思いますので,是非ご意見をいただければと思います.
当講座では今までも何冊かの著書を発刊してきました.読者の知見や技術向上に結びつくのはもちろん,ここから湧いてくる研究マインドに火をつけ,さらなる患者の安全やQOL向上に資する研究活動に繋がることを期待しております.是非,何らかの研究ヒントを得ていただければ幸いです.
2023年3月吉日,コロナ禍の収束を願って……
札幌医科大学医学部麻酔科学講座 教授
山蔭道明
序 文
神経ブロック領域では,日々新しい知見が生まれています.
「新しいブロック」
「目標点は同じだけど,より確実なアプローチ法」
「合併症を少なくする,より安全な局所麻酔薬の使い方」などなど.
超音波機器がこの10年で格段に改良されてきたのと同様に,神経ブロックの知識も技術も洗練されてきていると感じています.同じブロックでも,アプローチ法や局所麻酔薬の使い方はずいぶんと変わってきました.そして,より質の高い鎮痛を提供することが麻酔科医には求められていると感じています.
新たな知見を全て把握するのは大変なことなので,皆さんが「神経ブロックについてアップデートしたい!」と思った時にお手伝いできる本があればと考えたのが本書の趣旨です.いきなり全部は難しいので「上肢の超音波ガイド神経ブロック」に絞って解説しました.
解説は,4つの観点からしてみました.
1.腕神経叢ブロック各アプローチについて,始まりの歴史からここ5年くらいの文献まで
2.整形外科視点での術式ポイント・適応・合併症などについて
3.初心者からベテラン麻酔科医までの,あらゆる臨床上の疑問について
4.局所麻酔薬の広がりを三次元的にイメージできるよう,キャダバーを用いたブロックについて
気になるところから目を通してください.体位や穿刺法も,局所麻酔薬の投与法も,そして執筆いただいた専門家の先生が気を使っているポイントも,本当にさまざまなところに「こだわって」いて,進化してきたことがわかると思います.そして,神経ブロックが上手くなるためには「小さなことにもこだわる」ことがとても大切だと思っています.
神経ブロックをする際に,「指導者が近くにいてくれたら」と感じたことはありませんか.私はたくさんありました.本書がそんな方の助けとなり自信を持ってブロックできるお手伝いができれば,編者・著者としてこれほど嬉しいことはありません.
この活動を私に任せて監修いただいた山蔭道明教授,トラブルがあっても前向きに私の要望に応え続けていただいた中外医学社の上岡里織様,笹形佑子様,画像作成のために素晴らしい超音波装置を用意していただいたコニカミノルタジャパンの堀章大様,各分野の担当をしていただいた神経ブロックに情熱を注ぐ執筆者の皆様,そして本を書くことが決まったときから喜んで支えてくれた読書好きの家族に感謝して,序文を締めたいと思います.
2023年3月
札幌医科大学医学部麻酔科学講座
汲田 翔