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書籍詳細

明日からの診療を変える プライマリ・ケア/総合診療の最新論文70

明日からの診療を変える プライマリ・ケア/総合診療の最新論文70

水本潤希 著

A5判 184頁

定価3,740円(本体3,400円 + 税)

ISBN978-4-498-14840-6

2023年04月発行

在庫あり

著者が厳選した論文を日々の診療に役立てるための実践的な手引書

プライマリ・ケアや総合診療の分野で,診断に難渋するさまざまな症状や,社会的背景のことなる患者に相対するとき,既知の知識やスキルでは対応ができず困ることがある.それを解決する手段としては,世界中で同じように困っている医療者が発信し続けている論文を読むことだ.本書は,そのような考えをもつ著者が自ら選んだ最新の論文について,背景や結果などを踏まえて,要点をわかりやすく解説した実践的な書となっている.

著者略歴

水本 潤希(みずもと じゅんき)

愛媛生協病院家庭医療科
東京大学大学院医学系研究科医学教育国際研究センター医学教育学部門博士課程
2015年 東京大学医学部医学科卒業
2015年 愛媛生協病院研修医
2017年 医療福祉生協連家庭医療学開発センターレジデンシーせとうち 家庭医療専攻医
2020年 東京大学大学院医学系研究科医学教育国際研究センター医学教育学部門博士課程入学
研究テーマ:困難な状況にいる患者を診る医療者の困難とその解消

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まえがき

 私は,卒後10年未満の若手家庭医・総合診療医です.地域の小病院や救急外来で働きながら,診療所での外来や訪問診療もしています.ときには街に出て,路上生活者の健康相談をしています.このような勤務体系は,日本の家庭医・総合診療医としては,決して珍しいものではないと思います.
 いわゆる町医者として,未分化な健康問題を包括的に診療するためには,よくであう疾患・病態については少なくとも知識を最新のものにしておく必要があります.病気のことを知っているのは医師として当然のことです.幸い,信頼できる二次資料がありますし,診療ガイドラインやわかりやすい解説書もたくさんあります.最新論文について教えてくれるブログやSNSもあり,とても便利です.原著論文の批判的吟味についても,すっかり家庭医・総合診療医の教育のなかに組み込まれています.
 ただ,これだけで普段の診療がスムーズにできるのかというと,それは違います.家庭医・総合診療医の皆さまなら,おわかりいただけるでしょう.
 診察室には多様多彩な事象が持ちこまれます.それらが複雑に絡み合い,どこから手を付けていいのか途方に暮れることもしばしばです.純粋に医学生物学的な問題を追求すれば事足れり,とはいかないなかで,私たちはどうすればいいのでしょうか.
 家庭医療・総合診療をするなら,家庭医療・総合診療の論文を読まなくてはならない.
 私は日常的に家庭医療・総合診療の論文を読むようになって,自分の診療が大きく変わったと感じています.なにより,自分は一人ではない,という感覚を持つようになりました.
 古今東西,家庭医・総合診療医であれば,だいたい皆同じようなことで悩み,同じようなことで苦しみ,同じようなことで喜びを見出しているのです.論文を読むことで,この世界のどこかで頑張っている仲間の生の声をきくことができます.そこで何が起こっているのか,何を感じているのか,どのように汗を流し,そこから何を得ているのかを知ることができます.
 もちろん,様々な専門家・専門職の方から教えていただくことは,私たちにとってありがたいことです.自分は総合医だと胸を張ったところで,自分一人でできることはあまりありません.専門家・専門職の方から謙虚に学びを乞う姿勢はとても大事です.ですが,同時に,私たちにとって重要な知識・知見は,私たちが作り出し,私たちが学びとる必要があります.私たちの学問を他の誰かに仮託してはなりません.
 とはいっても,実際には論文を読むまで手が回らない,という方もいらっしゃると思います.すべての医療職にとって,コロナ禍は心身の脅威です.地域の健康問題に責任を持つからこそ,多忙を極めている方も多いでしょう.また,複雑系が対象となる家庭医療・総合診療の論文は,質的研究や複雑なデザインの研究が多く,慣れていないと読みとくのが難しく感じます.
 そこで,2021年から2022年8月末までに公開された家庭医療・総合診療の論文(2020年末公開も含みます)から,臨床の最前線で働く家庭医・総合診療医の明日からの診療を変える力があるもの,という基準で,70本を選びました.そして,できる限りわかりやすく解説しました.
 解説といっても,高い山の上から教え諭す,というものではありません.読者の皆さまと一緒に論文を読んで,一緒に診療を振り返って,一緒に次の課題を探し,一緒に自分の診療を変えていく,そういう営みをしたいと思います.ですから,解説には私の主観や意見が存分に反映されています.そもそも,論文を選ぶ,読む,解説する,という行為すべてが,私の主観を大いに反映したものです.
 この世界には絶対に真である唯一の答えがある,と信じる立場を実証主義といいます.私たちの受けてきた教育は,多くがこの実証主義に拠っています.実証主義的なものの見方はとても重要です.あなたにとっての虫垂炎は私にとっての虫垂炎ではない,なんてことを言い始めたら,まともな診断や治療はできないでしょう.ですが,それだけで十分に扱えない領域を本書は扱おうとしています.それは,複雑系の中で目の前の個別の事例に頭を悩ませる私たち家庭医・総合診療医にとって欠かさざるものであると考えます.本書は,あなたの世界と私の世界は違う,あなたはあなたなりの世界をあなたの視点で構築していて,私もまた然り,という立場(社会構築主義といいます)に基本的に立脚しています.それはまた,あなたの世界をなんとか理解しようと努めることが,私の世界に対する認識を深めることになるだろう,と信じる立場でもあります.
 小難しいことを言いましたが,世界のどこかにいる家庭医・総合診療医が書いた論文を,私は共感しながら解説しました.その共感を皆さまにも味わっていただければ嬉しく思います.本書を通じて,世界の家庭医・総合診療医がどんなことを考えて,何を大事に思っているのかを感じ取っていただければと思います.なお,研究の方法論や手法については記載を大幅に省略していますので,論文の正確な理解にはぜひ原典をお読みください.
 明日からの診療が変わる旅に,でかけましょう.
 (論文では,日本語に直すと「家庭医療」,「総合診療」,「プライマリ・ケア」といった言葉が登場します.本来はそれぞれ別の概念を表しますが,本書では厳密な使い分けはせず,以降は基本的に「プライマリ・ケア」という言葉を使います.)

2022年10月
水本潤希

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目 次

CHAPTER 1 障害のある患者
1 電子カルテのアラートで,聴力障害の適切なスクリーニングが促される.
2 認知症患者の聴力障害の診断には客観的な測定が望ましい.
3 緑内障がある高齢者は,転倒して身体活動が低下してしまいやすい.
4 聴覚障害と視覚障害がどちらもあると,移動や日常生活動作が障害される.
5 知的障害のある患者が時間外プライマリ・ケアを受ける際に,関係者は混乱する.
6 プライマリ・ケア医は,自閉症スペクトラム障害のある成人患者のケアで様々な困難に直面する.
7 知的障害のある患者は,若い年齢で複数の慢性疾患を発症する割合が高い.
8 プライマリ・ケアチームの力で,障害者の医療アクセスが改善できる.
9 人間関係やコミュニケーションが,障害者のプライマリ・ケアアクセスに大きく影響する.
10 移動が困難な障害があると,がんの適切な診療・診断を受けるのが困難となる.

CHAPTER 2 がんの診断とケア
11 大腸がんを疑って,貧血がなく便潜血陰性なら,大腸がんの可能性は低い.
12 アウトリーチで,大腸がんスクリーニングの検査が増える.
13 郵送による便潜血を行うにはスタッフの総力戦が必要である.
14 便潜血陽性なのに内視鏡検査を受けない患者には,様々な障壁が存在する.
15 がんスクリーニングの中止決定は複雑なプロセスである.
16 稀ながんの診断には,スムーズな紹介ルートが必要である.
17 性的マイノリティにとって子宮頸がん検診には様々な障壁がある.
18 がんの治療は,生活空間での移動の制限と関連する.

CHAPTER 3 周縁化された集団
19 人種・民族的マイノリティへの差別は医療不信の増大と関係する.
20 社会的孤立について尋ねるのに,過度に尻込みしなくてもよい.
21 社会的孤立と孤独は別物である.
22 プライマリ・ケア従事者は,性的マイノリティへのケアに及び腰である.
23 プライマリ・ケアでの支援的な経験がトランスジェンダーの方の心理的苦痛の低下と関連する.
24 移民に対する認知症スクリーニングに対し,プライマリ・ケア医は様々な困難に直面する.
25 薬代のために生活費を切り詰める患者は,それでもなお薬を継続的に飲むのが難しい.
26 親密なパートナーから暴力を受けた被害女性は,特定の徴候,症状を示すことがある.
27 物質使用障害のある出所後の女性は,医療現場に迎え入れられていない.
28 物質使用障害のある若年成人は,従来の回復モデルにはなじまない.

CHAPTER 4 多疾患併存と薬剤
29 多疾患併存のある患者では失禁のリスクが高い.
30 多疾患併存高齢者の降圧薬に関する意思決定には暗黙のプロセスが存在する.
31 リスクの高い薬剤の中止に関する話し合いはためらわれてしまう.
32 訴えられるという不安が,多疾患併存患者との意思決定を困難にする.
33 勉強していない医師は不適切な処方が多い.
34 高齢者施設入居者に処方されている抗うつ薬は,なかなか止めづらい.

CHAPTER 5 医師自身を知ること
35 新しい推奨に基づいた実践がなされるには様々な障壁がある.
36 プライマリ・ケア従事者のニーズに応える研究は少ない.
37 良好な患者報告アウトカムの裏には,燃え尽きつつもがむしゃらに働く医師の姿がある.
38 複数の問題を扱う診療では,セーフティ・ネットがカルテに書かれにくい.
39 プライマリ・ケア医は,自殺企図はないと答えさせるように患者を誘導しているかもしれない.

CHAPTER 6 慢性疾患
40 若年の2型糖尿病患者のセルフマネジメントは家族から様々な影響を受ける.
41 糖尿病患者のケアの対象には支援者も含まれる.
42 HbA1c 10%以上の糖尿病患者には2つのパターンがある.
43 妊娠糖尿病に対するプライマリ・ケアは改善の余地が大きい.
44 重度精神疾患がある糖尿病患者は死亡のリスクが高く,心血管疾患が過小評価されている.
45 血圧の厳密なマネジメントは患者にとって負担である.
46 男性の病気と思われている冠動脈疾患の影響が,女性では過小評価されてしまう.
47 心筋梗塞後の患者が,何を求めているのかを知ることが重要である.
48 プレフレイルをみたら,いずれ心不全を発症するかもしれないと注意する.
49 男性の排尿に関する症状にはセルフマネジメントが効果的である.

CHAPTER 7 ヘルスケアシステム
50 患者が予約に来ない理由は様々である.
51 高齢者は様々な理由で救急外来を頻回に受診する.
52 退院後の外来フォローは1週間以内に行うのがよい.
53 ケアの継続性の価値は,患者と医師が共有している.
54 認知症のある患者にとっても,ケアの継続性はケアの質の高さと関連している.
55 在宅診療チームは,柔軟にケアを行いながら,複雑な問題に対応している.
56 在宅緩和ケアは,患者の抱える経済的困難に対応することができる.
57 チーム医療により,重度精神疾患患者のケアの質が向上する.

CHAPTER 8 患者の理解
58 自傷行為を行う若者は,プライマリ・ケア受診において障壁とつながりを経験する.
59 虐待を受けた人はプライマリ・ケアを頻回に受診する.
60 持続性身体症状のある患者はプライマリ・ケアに中心的な役割を期待する.
61 医療者と患者がそれぞれ経験する心房細動は異なるものである.
62 処方されたスタチンをそもそも飲んでいない理由は様々である.
63 閉じこもっている認知症高齢者は死亡のハイリスク群である.

CHAPTER 9 診療の質
64 認知症高齢者に赤ちゃんのように話しかけると,ケアの拒否が増えるかもしれない.
65 肺塞栓症はプライマリ・ケアでよく見逃される.
66 マルチモーダルなプログラムにより高血圧管理の質が向上する.
67 COPDは過小診断も過剰診断もされている.
68 COPD急性増悪の方針決定にEXAGGERATEスコアが使えるかもしれない.
69 乾癬は湿疹や白癬とよく間違えられる.
70 プライマリ・ケア医は高齢者の終末期を見誤る.

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