序
診断や治療面における著しい進歩と共に,近年,それらを施行するにあたっては患者さんへ説明したうえで了解を得ること(informed consent)が,診療をする際の基本要件となっています.すなわち,診療行為には一定の科学的根拠(evidence)に基づいた情報が不可欠で,この情報を診療の施行者と受療者の間で共有することにより,はじめて診療を行う基本的環境が整ったことになります.この手順を踏みながら検査や治療を進めていく医療体系をEBM(evidence based medicine)と称しており,この10年の間に様々な疾患に対する診療ガイドラインが多く作成されていることと,軌を一にするものです.
ところで,呼吸器領域では感染症,非感染性炎症性疾患,アレルギー疾患,悪性腫瘍など扱う疾患の範囲や種類が著しく多く,いずれの疾患に関しても罹患数は増加の一途をたどっています.このような状況下にあっては,個々の医師がそれぞれの疾患に関する正確な医療情報を入手し把握することは極めて困難です.コクラン・ライブラリーなどにみられるような医療情報の環境整備が進行しつつありますが,臨床の場で実際に使用し,その実をあげることはできないのが現状でしょう.
「EBM呼吸器疾患の治療」と題した本書では,これまでに行われた多くの臨床研究から得られた膨大な成績の中から,重要疾患を対象として,治療に必要と思われる臨床課題を抽出し,それらの成績についてエキスパートの先生方にまとめて戴き,その評価をもしていただきました.紙面の都合上,本書では採り上げることのできなかった事項もありますが,呼吸器疾患の診療で欠かすことの出来ない内容に関してはほぼ網羅されるように配慮いたしました.最新の情報を基に呼吸器疾患の診療を行うためには必携の書として位置づけられ,臨床の場でご活用いただければと願い編集された一冊です.
最後に,本書の編集に多大なるご尽力をいただきました中外医学社の荻野邦義氏,秀島 悟氏に深く感謝致します.
2003年2月吉日
編 者