患者・医療者の診療記録共有
世界の流れと群馬大学医学部附属病院における取り組み
対馬義人 著 / 小松康宏 著 / 斎藤 繁 著 / 塚越聖子 著
A5判 126頁
定価2,640円(本体2,400円 + 税)
ISBN978-4-498-14834-5
2022年11月発行
在庫あり
患者・医療者の診療記録共有
世界の流れと群馬大学医学部附属病院における取り組み
対馬義人 著 / 小松康宏 著 / 斎藤 繁 著 / 塚越聖子 著
A5判 126頁
定価2,640円(本体2,400円 + 税)
ISBN978-4-498-14834-5
2022年11月発行
在庫あり
診療記録は究極の個人情報であり,決して医療従事者の私的な記録やメモではありません.国際的には診療記録を患者と共有する流れが進んできており,日本においても近い将来,患者が当たり前のように診療記録へアクセスしているかもしれません.そのとき,個人としても病院としてもカルテを患者に見せられますか? 患者参加型医療が叫ばれて久しいですが,具体的に何から始めたらよいのか,臨床医目線でも病院管理者目線でも有用な一冊となっています.
出版社からのコメント
お寄せいただきました書評をご紹介
京都府立医科大学放射線医学教室 教授
山田 惠 先生より
本書は単なる医療系の実用書ではありません。その内容は日本の十年後を先取りしています。つまりこれは未来の医療を垣間見る材料です。
日本の社会には父権主義的な文化が随所に息づいています。「プロに黙って任せるべしっ」といった無言のプレッシャーが社会の随所に存在するわけです。医療も例外ではありません。もちろん、この種の高度なプロ意識はすべての局面で悪だと言っている訳ではありません。時には好ましい効果を発揮することだってあります。例えば寿司屋で「おまかせで!」という依頼を発する時はむしろ愉快です。眼の前で展開される匠の技への期待が膨らみます。
しかし飲食と医療を同列で語ることは困難です。自分の体を完全に他人の判断にまかせてしまって良いと思っている人は少数派です。つまり医師の行う診断・治療に対して、患者は監視の姿勢を持つべきなのです。と言っても説明を求めるのに使用できる時間にはおのずと限界があります。そうすると不足する情報は、患者自身が能動的にうごく必要がでてきます。その際に、自らの診療録を閲覧可能であれば、どれほど有用なことでしょう。これはある意味、患者の権利だとすら言えます。
私のバックグラウンドを少し説明すると、大学病院の放射線部で責任者をやっています。ですので職務上、院内の様々な会議に出席しますが、中でも医療安全の会議は最も重要なものの一つです。そういった場で定期的に話題になるのが「画像診断レポートを患者に手渡しは行っても良いか?」という議論です。私の意見としては医療安全の役に立つのであれば、レポートは患者と共有すべき、というものです。ただし、ここには重要な限定条件があります。それは画像診断レポートだけではなく、電子カルテも同時に開示すべき、という条件です。このような意見を述べると多くの場合、会議室は静まり返ってしまいます。つまり医師には一般論として「診療記録の共有」を忌避する傾向があるわけです。
こういった姿勢の背景にあるのはカルテ開示へのいわれのない恐怖感です。自身の手の内がすべて白日の元に晒されることへの漠然とした不安感といっても良いのかもしれません。このように大多数の医師が消極的だった事業に対し、群馬大学は日本の大学病院としては初めて実行に移しました。その成果がこの書籍に詰め込まれています。私はこの本を読んで、そういう〈開かれた医療〉がすぐ目の前にやってきたのだ、という実感を持ちました。一人でも多くの医療従事者が本書に触れるべきだと思います。