序
スポーツ医学には,実に多様な分野の専門家が関与しており,その活動する場(フィールド)もさまざまです.スポーツ医学に包含される医療分野は,外傷,運動器疾患,内科・婦人科疾患,栄養管理,スポーツ心理,ドーピング,リハビリテーション,メディカルチェック,障がい者スポーツ,競技力向上など多岐にわたります.また,医師,歯科医師,理学療法士,薬剤師,アスレチックトレーナー,基礎医学研究者など多様な職種が関与しています.これらの人々が,医療機関で,競技場で,練習場で,アカデミアで,互いに協力し合い,時には現場の指導者とも連携して医療の実践にあたります.このようにスポーツ医学は,まさしく『総合医学』であると言えます.
本書は,タイトルに「総合スポーツ医学」を掲げました.上に挙げた多様な分野の執筆陣により,わが国におけるスポーツ医学の最新情報と基本事項を多角的・総合的に解説することを目的としました.第I章では,スポーツ医学の最前線で多くのアスリートを診療してきた医師が,スポーツの現場での患者の診かたについて解説しています.第II章からは整形外科,内科,婦人科,脳外科,眼科,皮膚科,耳鼻咽喉科,歯科・口腔外科におけるスポーツ障害の各論が解説されています.治療については,現場での「初期治療」とその後の「専門的治療」に分けて示しました.そして,初期治療における「患者・家族への説明」の仕方についても提示し,実際の臨床場面で役立つよう工夫しました.疾患各論に続き,第X章からは,メディカルチェック,スポーツメンタル,栄養,アンチ・ドーピング,リハビリテーション,パラスポーツの医学サポートについて,それぞれに造詣の深い専門家が解説しています.
執筆陣の多くは札幌医科大学関連のスタッフですが,札幌医科大学からは東京2020や北京冬季オリンピック・パラリンピックに多数の医師・メディカルスタッフが派遣されました.派遣スタッフによる各大会の医学サポート報告では,COVID-19パンデミックの中での大会における奮闘ぶりが臨場感をもって描かれています.
本書を,スポーツ医学に携わる医療スタッフ・研究者の皆様,そしてスポーツ医学を志す学生の皆様に,ぜひ手に取っていただきたく思います.本書を介してスポーツ医学に関係する異なる分野の医療者・研究者間のコミュニケーション・連携が促進され,『総合医学』としてのスポーツ医学が,ますます発展することを願っています.
2022年10月
札幌医科大学理事長・学長
山下敏彦