序
2020年より世界中に拡大しているCOVID-19肺炎の重要な鑑別診断に間質性肺炎があげられる.間質性肺炎は研修医や一般内科医,時に呼吸器内科医にとっても苦手意識がある.その理由に略語,概念の頻繁な変遷,画像所見や病理所見の複雑さなどがある.そこで研修医・総合内科医・呼吸器内科医を対象に,間質性肺炎の重要な鑑別診断,診断のピットフォール,必要な検査の意義,薬剤の用い方など現場に即した内容を意識して本書を企画した.
前半の総論では,間質性肺炎の概要,諸外国との対比や生命予後を含めた疫学,胸部CTでは特発性間質性肺炎を代表するIPFとNSIPを中心に読影のポイントと重要な鑑別診断,肺機能では項目別に実践的な結果の解釈と応用,気管支鏡・肺生検では診断における意義,施行する際の重要事項,TBLB・クライオ生検・VATSの適応などを中心に解説し,病理ではIPF・NSIP・CHP・膠原病肺などの最重要疾患を中心に診断の鍵や国際ガイドラインの解説などを盛り込んだ.前半の章の読破で間質性肺炎の診断過程での必要事項の確認と意義を確実に辿れるようにした.
後半の各論では,まず特発性間質性肺炎の中でIPF,NSIP,OPの全体像を俯瞰し,最新のガイドラインにも準拠しながら解説してもらった.また,びまん性肺疾患の診断の軸になる多職種でのMDDについても文献reviewと現場での応用について触れていただいた.さらに希少疾患を疑うポイントも解説している.膠原病・血管炎については個別に診断に至るポイントと鑑別診断をわかりやすくまとめてもらい,特異的な検査,BALの意義,予後予測因子など実際の現場で悩む,あるいは患者への説明に重要な情報も盛り込んでいる.日本人で多い薬剤性肺障害に関しては,頻度の多い薬剤をカテゴリー別に,専門家の先生方に留意事項,診断のポイントなどを明解にまとめていただいた.肉芽腫性疾患では,現在国際的にもトピックになっている過敏性肺炎・サルコイドーシス・塵肺などについて線維化性病変の捉え方,国際ガイドラインの解説,鑑別診断などを網羅してもらった.ウイルス性肺炎では忘れてはならないインフルエンザウイルス肺炎の特徴を解説いただいた.最後の章では進行性間質性肺炎のoverviewをまとめていただいた.
以上のような構成で,読者に間質性肺炎が身近な疾患として感じられるようになれば幸いである.本書の編集にご尽力いただいた中外医学社の皆様,COVID—19診療でご多忙な中,ご執筆いただいた先生方に感謝して序文とする.
2022年8月
喜舎場 朝雄