はじめに
Aクリニック 朝の診療前のスタッフ達の会話
「今日は朝から院長の機嫌が悪そう…,ああ,今日の診療はこっちも憂鬱だな」
「院長なんだから不機嫌になるとかやめてほしいですよね.いい迷惑ですよ」
Bクリニック 朝の診療前のスタッフ達の会話
「今日は朝から院長の機嫌が悪そう…,体調でも悪いのかな? ひとまず診療に極力集中してもらえるように,診療外の確認事項などは緊急のもの以外は午後か明日に回しましょう」
「まあ院長も人間だし,ご機嫌斜めのときもありますよね.診察のサポートは従来予定していた新人の〇〇さんには荷が重いと思うので,今日は私が交代して担当します.先回りして動くようにしますね.余計なストレスがかからないようにしてきましょう.」
…さあ,AとBのクリニックは何が違うのでしょうか? そしてその違いはどこから生まれてきたのでしょうか?
医療機関向けの経営コンサルティングを行っているクレドメディカルの代表,志賀嘉典です.
私たちは主にクリニックの「開業してから」以降の経営のお手伝いを行っています.
私たちの仕事は患者さんに来てもらうこと,患者さんに適切な医療を提供して満足していただくお手伝いをすること,医療機関にマッチしたスタッフを採用すること,採用したスタッフがイキイキと働ける環境を整備すること,等々多岐にわたります.
現在数百件のクライアントの経営〜運営までをサポートしていますが,いつも院長先生方の悩みの種となっているのは「人の問題」です.医療機関は原則として物を売る仕事ではなく,医療を提供する職場です.そしてその医療を提供するのは「人」です.
だからこそ「人の問題」が院長先生を悩ませるのです.
その中にあって,今回「院長の取扱説明書」を弊社のコンサルタント陣の執筆により出版する運びとなりました.
『人で悩んでいるのは院長なのに,なぜ「スタッフの取扱説明書」ではなくて「院長の取扱説明書」なの?』と思われたかも知れません.しかし,医療機関における人間関係の問題は「院長はスタッフへの理解が不足している場合が多いが,逆にスタッフも院長のことを理解していない場合が多い」ことで生じている場合が多いのです.そしてこれまで院長向けにスタッフへの理解を促す書籍はあっても,スタッフが院長を理解するための書籍が世の中にほとんどないため,この本を執筆することといたしました.
この本には医療機関で働くすべてのスタッフの皆さんにあらかじめ知っておいていただきたい,「院長の取扱説明書」が記されています.
新人で新しく医療機関に就職されたスタッフの方はもちろん,中堅からベテランの方や,リーダー,マネージャークラスの方に読んでいただいてもとても参考になる内容に仕上がったと自負しています.
だからといって,この本は「院長を上手く操るノウハウ」が書かれた本ではありません.実は,むしろ院長先生方のために書いた本なのです.
どういうことか?と言いますと,多くの院長先生方は「自分はどういう性格なのか?」「自分は何を考えているのか?」「自分はスタッフの皆さんにどうしてほしいのか?」を細かくは語りません.
だからこそ,院長先生方が考えていること,スタッフの皆さんに対して思っていることをいくつかパターンに分けて記載することで「スタッフの皆さんが院長の考えを知るきっかけになり,結果的に院長先生とスタッフの皆さんのコミュニケーションが円滑になってほしい」という目的で出版しています.(院長先生方も自分がどのようなタイプか?を知る貴重な機会ですので,是非読んでいただき,ご自身がどのようなタイプなのかを宜しければスタッフの皆さんに伝えてあげてください.)
コミュニケーションが円滑になることで,結果的にクリニックの運営が良好なものになっていくのです.
日々,医療機関という職場で,院長先生とは毎日顔を合わせていることでしょう.毎日顔を合わせるのであれば,相手のことを知っておいて損はないですよね?院長先生の考えや性格,行動パターンを知ることで「互いを思いやる」「考えに共感する」そんな関係性が築けることを願っています.
冒頭で紹介した,院長を思い遣って普段と違うオペレーションを採用していたBクリニック.あのような臨機応変の対応は,スタッフが院長のことを理解し,「院長をサポートしたい」という主体的な心構えから生まれたものです.
この本を通じて皆さんが働く医療機関の院長への理解が深まり,冒頭のBクリニックのような医療機関が少しでも増えることを願っています.
株式会社クレドメディカル
代表取締役 志賀嘉典