本書刊行にあたって
このたび,第71回日本アレルギー学会学術大会の会長という大役を仰せつかり,2022年10月,東京国際フォーラムにて開催することとなりました.本学術大会では,先人,そして今を生きる我々の知恵がアレルギー学の未来を切り拓くという願いから「英知を辿り,未来を拓く」をテーマとして掲げました.本学術大会中,皆様方に大いに語り,知り,耳を傾けていただきたいと想い,大会ロゴには日光東照宮の三猿をモチーフとした「見る・言う・聞く」の「新三猿」を採用するなど,願いや想いを込めた学術大会としたいと思慮しております.また,この学術大会の準備を通じ,主催者として皆様の臨床の場で役立てていただける成果物を何か残せないかと考えておりました.
そのような折,中外医学社から,小児気管支喘息診療を網羅する一冊を出版してはどうかというお話をいただき,意義深いものと感じたため本書を編むこととなりました.
ご存知のとおり気管支喘息は,気道過敏性と可逆性の気道狭窄を伴う慢性呼吸器疾患であり,他のアレルギー疾患であるアレルギー性鼻炎や感染症などを合併することから,個々の症状に合わせた対応が必要となります.そして,発症時期一つをとっても乳幼児期,学童期,成人後で要因・経過が異なるなど,一括りにできない疾患といえます.小児科診療に目を向ければ,乳幼児と学童期・成人移行期で薬剤の種類・用量が異なるなど,ガイドラインを横断して抑えておくべき論点があるとともに,生活上の注意点など患者教育の視点も欠かせない分野といえます.そのため,患者の日々のコントロールを診る小児科医に限らず成人移行後を診療する内科医・プライマリケア医にとっても,基本的な病態から年齢による推移・成人期移行まで幅広い知識が求められるものと考えます.
そこで本書では,実臨床に即応できる1冊を目指すべく,気管支喘息の定義から,病態生理,フェノタイプ,危険因子・重症度分類といった総論的な解説を経た上で,診断・治療上の留意事項を,乳幼児期・学童期・思春期・移行期に分けて詳述するとともに,患者教育や一歩進めた専門知識・Q & Aまで網羅しました.
本書は,当科小児科学教室アレルギー・呼吸器班,当科にアレルギー診療の勉強に来て下さった先生方および栃木県小児アレルギー研究会世話人を中心に,先人からの知見を踏まえ蓄積した臨床経験を基に執筆して頂きました.また,執筆陣に成人移行後の診療を担う呼吸器・アレルギー内科医,患者教育を担う看護師・薬剤師の方々も迎え,偏りなく小児気管支喘息の実臨床を描くことを目指せたものと自負しております.最後に本書の執筆に携わられた著者の皆様,協力いただいた方々に,この場を借りて厚く御礼申し上げます.
本書が,気管支喘息診療にあたる小児科医をはじめ全ての医療関係者の診療の一助となることを心より祈念しております.
2022年9月吉日
獨協医科大学医学部小児科学講座主任教授/獨協医科大学病院アレルギーセンター長
吉原 重美