総合診療グリーンノートをはじめて手にとられる皆さんへ
全身を診る,そして病気よりも人を診ることに興味がある専攻医・研修医の皆さん,そして医学生の方々にもぜひ,一度手にとって読んでもらいたいと本書を企画しました.この本を読み始めた皆さんは,総合診療医についてどのようなイメージをお持ちでしょうか?
総合診療医は疾患ごとの専門性を追求するのではなく,患者や地域を包括して幅広い視野で患者と地域を診る医師です.予防医療から急性期医療,回復期から慢性期・終末期までの時間軸を見据え,臓器別の疾患・病態から心理社会的側面を含んだ問題を捉える奥行きをもち,日常臨床からパンデミックのような非日常までの変化,地域によって異なるニーズに対応し,解決策を練ることのできる応用力を持つことが理想です.その理想はとても高いのですが,少しでもリアルな総合診療医に近づけるためのポイントを,我々の教室員それぞれの得意技を発揮して本書に纏めてみました.
総合診療で遭遇する頻度の高い疾患・病態への医学的アプローチのみならず,患者さんとどう向き合い,疾患とどう対峙するかの思考プロセスを学びやすいようなChapter設定としました.まずChapterI(総論)では,コモンな疾患・見逃してはいけない疾患についてのアプローチを,ChapterII(各論)では,やや困難な事例をどのように診断・治療していくか,症例ベースのプロセスを解説しています.さらにChapterIII(番外編)として,一般的な臨床推論で診断・治療が難しいときのトラブルシューティングから,新型コロナウイルスへの対応まで展開しています.
総合診療力は全診療科に通じる気概のある臨床力です.全人的・総合的視点で行う診療は,実は臓器別・分野別の専門科を超えた新たなる専門性といえます.総合診療の現場では,患者自身が抱える一つひとつの症候・症状に向き合い,患者背景を深く考察することで,全人的・総合的ケアを実践します.そのプロセスには疾患へのアプローチのみではなく,省察的実践,多職種連携や社会心理学的側面からのアプローチも大切です.医師は患者さんの人生を見守る,あるいはともに人生について考える役割も担っています.さあ皆さん,これからこのグリーンノートを読破し,総合診療力を身につけ,医療学と人生学の両者を学びとりましょう!
2022年9月
岡山大学病院 副病院長
総合内科・総合診療科 教授
大塚文男