序文
65歳以上の人口が社会全体の21%を超えた社会を超高齢化社会と呼ぶそうです.2017年10月1日の国勢調査では,日本の65歳以上の人口は27.7%と超高齢化社会に達していています.2025年には約30%に達すると推計されており,少子化も影響して小児科医の活躍の場が次第に減ってきていると感じている小児科医は少なくないと思います.
実際のところ,都市部では比較的若い小児科医が薄給で頑張っている施設が増えている印象があるという感想はしばしば耳にします.小児科の診療所も多く,小児患者だけを診ていては採算が合わないとの理由で「小児科・内科」を標榜するところもますます増えるものと思われます.また,様々な社会環境の変化から,親子受診や家族受診が可能な環境に対するニーズも増えてくると感じています.最近では,小児科専門医で子どもたちを集めて,そのお母さんたちに自由診療で美容サロンまがいのセールスをする施設もあります.正直言って,年をとると採用してもらえる病院小児科はかなりレアでもあります.
しかし,小児科医が「ついでに高齢者の内科疾患を診る」というのは,それほど簡単ではありません.小児は月齢や年齢が進むに従ってその特性が変化しますが,同様に高齢者は非高齢成人が単純に老化という機能的劣化をしただけの存在ではなく,個々の高齢者ごとに個別対応せざるを得ないことがたくさんあります.
私は,小児科医として働きはじめて3年目から,障害児医療から障害者医療,そして一般の成人や高齢者の診療にも職場の環境上の理由から携わるようになりました.その経験の上に立って,老年医学ないし高齢者診療についてこれまで学習してきたことをいくらかでもまとめてみたいと思いました.それが本書だというわけです.
高齢者診療にとって重要だと思うことを中心に記載したつもりですが,まだまだ未完成な部分が多々あり,改訂の余地はあると思います.それでも,これから高齢者診療をはじめようと考えておられる先生方のお役に立てるものと信じています.本書は高齢者総合診療という立場で書いていますが,疾患ごとに高齢者を振り分ける総合老人内科という意味ではなく,高齢者を総合的に診療しようという立場を重視して書いています.したがって,本書の対象読者は,研修医や内科,総合診療科の若手医師が主であり,加えて小児科医も対象に考えました.
ただし,小児科と意外と関係がある高齢者の話もコラムを中心に読み物として記載しています.案外お役にたつのではないかと考えている次第です.
2022年3月25日
橋本 浩