6版の序
「ゆく河の流れは絶えずして,しかももとの水にあらず.よどみに浮かぶうたかたは,かつ消えかつ結びて,久しくとどまりたるためしなし.〜」と鴨長明の方丈記にある.
世の変化はうたかたのように留まることはないが,本書は大幅に揺るがされない身体的・精神的発達に視点を置き基本枠を示した.回復を促していくセラピストの思考過程は,螺旋状の発達過程を重要視し,段階を踏んだ対応を実践していると思う.
人間の発達は,幼児教育の発達過程にある子どもや発達障害関係の分野にのみ必要と思われがちである.しかし多くの小児科医,精神科医, PT,OT,ST,CP,幼児教育者,小中学校・高校・大学の教育者,障害者雇用の関係者達から,対象者と接していて,幼児期の発達が参考となると伝えられることが多い.人間発達学が,人の生涯を考えての学問であることを再認識するような評価である.
執筆者の方々は,螺旋的で連続的な発達過程の文章表現を模索しながら筆を運んで下さっている.
第6版の特徴は, 厚労省と文科省の最新のデータ,現代のニーズに応えられるよう「コラム」で示し,社会的な問題や健康に関する考え方を示し,客観的な視点が持てるよう新たな尺度も含めた.
人が辿ってきた生活の過程を大切にし,対象児・者の動作・行動・行為は,必ず何らかの意味があって行ってきたことを理解し,二次障害を最小限に留められる対応を心がけられたら,この本に思いをこめた意図が達成される.
人を理解するには,身体の構造と機能と環境との相互関係で判断することが大切である.心身の構造や機能を把握して第6版を読んで頂けるとありがたい.
日頃の業務や学会などで大変お忙しい中,快諾しご協力頂いた執筆者の方々と,中外医学社の宮崎様,編集の沖田様に,第6版が出版できたことに感謝致します.
2022年7月
福田恵美子