序文
本書は,術中写真やイラストを使って手術のコツや注意点を解説したアトラス形式の技術書になっています.滋賀医大チームが,手術を通じて気がついたことや,失敗した経験からわかったことなどを解説しています.若い時から書きためた手術ノート(写真)からたくさん抜粋しました.手術を行ううえで必要な解剖知識も多く載せております.
いまさらながら改めて思いますが,不勉強で未熟な心臓外科医ほど恐ろしいものはありません.メスを握らせてはいけません.誠実で信頼のおける心臓外科医になるのは大変難しいことだと認識しなくてはいけません.
読者の皆さまは,私と同じように,“心臓外科医”という響きにあこがれてこの道を選んだ仲間だと思います.私も,「お仕事は?」と聞かれ「心臓外科医です」と答えたい,それだけで選びました.
外科医はたくさん借金をします.
患者さまから借金します.一人前になるまでに,皆さまの成長に協力してくださった患者さまを思い出してください.病院から借金します.病院は優秀で経験豊富な外科医だけが欲しいはずです.しかし,若手も雇ってくれます.先輩から借金します.外科医は先輩から指導してもらわない限り先には進めません.先輩が後輩に教える理由は,将来立派な外科医になってもらいたいから,ではありません.仕事を覚えさせて自分を楽にするためです.国民に借金します.皆さまが医学生から一人前になるまでにどれだけの税金がかかっているでしょう.そして……,ある時期になると借金を少しずつ返せるようになります.一人前になった外科医は,患者さまの力になり,後輩の指導ができ,病院に貢献し,国民の幸せに寄与できるようになります.そこから借金返済スタートです.体がもつ限り返済し続けて定年までに完済できるかどうか,といったところでしょう.外科医人生はそれで完結です.多くの外科医が借金を残します.返済をやめた外科医もいます.メスのために借りた借金はメスで返すしかありません.
本書が,先生方の借金返済に役立つことを願います.
2022年5月
鈴木友彰