序
SARS-CoV-2ウイルス感染にともなう新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019;COVID‑19)は2019年12月に中国・武漢で報告されて以来,パンデミックとなった.その後,COVID-19はさまざまな呼吸器外症状を呈することが分かった.そしてさまざまな病期において,多様な神経筋障害が生じ,患者の予後やQOLに大きな影響を及ぼすことが明らかになった.また人類の英知の結晶とも言えるCOVID‑19ワクチンの開発は大きな希望とともに新たな課題をもたらした.
本書はこれまで明らかになった上記の知見をまとめ,臨床現場での対応について解説することを目的としている.具体的には,SARS-CoV-2ウイルスによる神経筋障害の機序と急性期の神経筋合併症,パンデミック禍の神経疾患診療等の注意点と課題,亜急性期以降も持続するlong COVID,そして神経筋疾患患者におけるワクチン接種の問題点やワクチン接種に伴う神経系副反応を取り上げる.
本書は基本的に脳神経内科専門医や感染症専門医を対象としているが,専門医以外もご活用いただけるよう,できるだけ分かりやすい構成と記載を心掛けた.冒頭で本文の要旨・論点を「キーポイント」として明示し,最後に「課題および提言」として未解明の点を明確にし,今後の研究や診療につなげることを目指した.
そして本書の一番の特徴は,各著者の原稿から感じる熱意,意気込みではないかと思う.私も含め多くの著者はパンデミック前にウイルス感染症を専門とはしていなかったが,この未曾有の危機に全力で立ち向かった証が熱意として原稿に現れたものと思う.本書はCOVID-19やこれから遭遇するかもしれない未知の感染症の診療に必ずお役に立つものと確信している.
本文を執筆する現在,感染第7波に突入しつつあり,感染の再拡大が懸念されている.一刻も早くパンデミックが収束することを祈りつつ,素晴らしいご原稿をご執筆くださった著者の皆様にこの場を借りて,厚く御礼を申し上げたい.
2022年4月
岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野
下畑享良