はじめに
私は,心臓血管外科医として外科診療に携わる中で,TEEを活用しながらその有用性を追究し,「渡橋流TEE」を作り上げてきました.『経食道心エコー法マニュアル 第4版』を準備中の2011年に高知大学に赴任しましたが,高知県ではすでに「2025年問題」が現実のものとなっており,従来のように治療対象を「群」としてとらえるだけでなく,もっと詳細に「個」として見ていくことが必要になると確信しました.そのためには,マニュアルのように全般を網羅する書籍で基礎を作った上で,症例間の多彩なバリエーションや治療における思考プロセスを学ぶという二段構えが必要です.そこで,症例ごとに異なる状況に合わせ臨機応変に方針を決定していくためにTEEを最大限に発揮するやり方を少しでも伝えようと『実戦TEEトレーニング』を上梓しました.しかし,それでもなおもの足りなさを感じていました.それは,このような伝え方でもまだ一方通行であり,読者が自分でできるようになるのを手助けするには不十分だからです.直伝でしか伝えられない「ものの考え方」や問題に遭遇したときどうやって乗り越えていくかという「課題解決」の方法がまだ伝えられていないのです.そのような教育は,身近にいて一つ一つディスカッションしながら伝えていくしかないものです.しかし,具体的にどうするかとなると,いいアイデアが浮かびません.そんなとき,中外医学社から「これまでにないタイプの本を作れませんか?」というご提案をいただき,いろいろお話する中で,「マンツーマンで教える形式の本」という案が浮かびました.当初,『裏マニュアル』というタイトルも考えましたが,別に隠し事をしているわけではないので,何となくしっくりきません.その後,原稿を書き進めていくうち,『直伝!TEE』がいいな,と思いいたりました.本書は,私が麻酔科医と語りながら,私の思いや考え方,ワザなどを伝えていくという形に仕上げ,私の経験や挑戦をはじめ,将来予測も盛り込みました.しかし,そのような形をとっても,所詮書籍である限り一方通行には変わりありません.そこで,一計を案じ,書籍を提供してそれに関して読者が質問し,それに対して私が答える,あるいは他の読者から意見をいただきながらディスカッションしていくといったフォーラム的なことがHP上でできないかと考えています.この「バーチャル・フロアー・ディスカッション」は,withコロナ時代における新たな試みです.
2022年2月
渡橋和政