序
この度,高齢者医療のエッセンスを詰め込んだ『老年医療グリーンノート』発刊に至ったことを大変うれしく思っております.本書の企画に至った理由ですが,急性期医療だけではなく,亜急性期,慢性期,在宅医療など様々な医療現場において患者の高齢化が進んでいます.高齢者の診療は単に成人が高齢者になっただけではなく,疾病に加えて,老年症候群や社会的な問題や精神心理的な問題がその診療内容に大きな影響を与え,あたかも複雑なパズルを解き明かすようなスキルが必要となります.依然として成人の診療の延長線上に高齢者医療があると考えている医師が多い状況ですが,本来であれば,そのような医師の診療スタイルを変えるためには老年医学を教育する病院を増やすことが必要です.そしてそのような病院で,初期臨床研修の時期から老年医学をしっかり学ぶ機会が若手医師に提供されるべきであり,その教育現場として老年医学診療のメッカである国立長寿医療研究センターがその中心的役割を果たすべきだとは思いますが,当センターで研修ができる医師の数には限りがあります.そのため,本書を診療の現場で活用していただくことにより,あたかも当センターで老年医学の診療を行っているような感覚をもっていただけるようにという思いを込めてその構成を考えました.すなわち,『老年医療グリーンノート』は高齢者の診療を学ぶうえで欠かすことのできない基礎知識,病態把握,治療の組み立て,患者ケアなどのポイントが簡明に解説されているだけではなく,多職種連携の重要な一翼を担っていただけるような,実際の臨床現場で役立つ実践的なマニュアルとなっています.そのため,医師以外の専門職にも執筆をお願いしています.
このような思いを受けて,本書の作成に関わった当センター老年内科佐竹昭介部長をはじめとして,病院のスタッフに敬意の念を表したいと思います.外来や病棟で高齢者診療の臨床の現場で忙しく活躍されている先生方に,本書が座右の書として愛され,そして活用されることを心より願っています.
2021年10月
国立長寿医療研究センター理事長
荒井秀典