パーキンソン病 認知と精神医学的側面
山本光利 編著
B5判 310頁
定価8,800円(本体8,000円 + 税)
ISBN978-4-498-02978-1
2003年04月発行
在庫なし
パーキンソン病 認知と精神医学的側面
山本光利 編著
B5判 310頁
定価8,800円(本体8,000円 + 税)
ISBN978-4-498-02978-1
2003年04月発行
在庫なし
パーキンソン病には種々の精神症状,自律神経症状,認知機能障害が伴うが,本書はそれをいかに理解して,診断・治療するかを解説した初めての書である.
パーキンソン病特有の運動症状だけでなく,こうした非運動症状を理解しなければ,正しい治療を行うことは出来ず,本書はその基礎的研究から臨床の実際までを現時点での第一人者が解説にあたったものである.
パーキンソン病の診療や研究に携わる方々に新たな視点を与える貴重な1冊である.
序
1960年にパーキンソン病の基底核でドパミンの減少が発見され,ドパミンの前駆物質であるレボドパの大量療法により運動症状改善が得られ,パーキンソン病の問題は解決したかに見えました.しかし,レボドパの様々な問題点が出現してきました.その後の研究ではパーキンソン病はドパミンだけではなく脳内の様々な神経伝達物質の変化が明らかにされてきました.同時に,運動症状だけではなく,精神症状や自律神経症状などの非運動症状を理解しなければパーキンソン病を理解していることにはならず,治療上にもこれらの問題が生じてきました.このような事実から欧米では20世紀の最後の20年間はレボドパに象徴されるように,パーキンソン病は運動障害の病気であるとの理解から大きく転換し,21世紀の現在ではパーキンソン病はneuropsychiatric disorderと明確に認識されるに至っています.この点では我が国の認識はまだ十分であるとは言えない現状です.
我が国のパーキンソン病の研究治療の先駆者でありかつ第一人者であった故楢林博太郎順天堂大学名誉教授は早くからパーキンソン病のこうした側面に注意を向けなければならないことを警鐘として指摘されていました.しかし,ことの重要性には十分な関心が集まったとは言い難いと思われます.
本書は楢林教授の警鐘に対する,現時点での我が国における第一人者による回答とも言うべき書であり,本書を故楢林教授にささげたいと思います.執筆者は神経学及び精神医学を担う我が国の新進気鋭の専門家,臨床医です.外国からの二人の執筆者はパーキンソン病の精神症状に関しては世界的権威者でありかつ,優れた臨床医でもあります.また,楢林教授とは交誼深き神経内科医でもあり本書をより意義深いものとしています.本書はよい意味での神経学と精神医学の境界領域を融合したバランスのとれた書であると自負します.本書は基礎から臨床までの研究の書として,実用の書として多くの方々が利用して頂くことこそ本書の目的であり,患者さんのよりよい人生に寄与するために,そして,パーキンソン病の更なる研究の発展に貢献できることを強く希望するものです.
2003年3月
山本光利
目 次
第1章 パーキンソン病の精神障害の基礎
1.パーキンソン病における精神機能障害〈Stoffers D Bosboom H Wolters E Ch〉
A.精神機能障害とうつ
B.認知機能障害ならびに痴呆
C.精神病
2.パーキンソン病における大脳基底核と辺縁系の相互関係…〈宮下暢夫〉
A.大脳基底核と辺縁系
B.PDの進行性の病像変化
C.PDの病理学的および生化学的背景
D.淡蒼球手術と辺縁線条体
E.PDにおける辺縁系の関わり
3.パーキンソン病の精神症状の病理学的背景…〈小阪憲司〉
A.レビー小体病とレビー小体型痴呆について
B.PDの精神症状
C.レビー小体病の痴呆の責任病巣
1.PD+アルツハイマー型痴呆
2.皮質下病変による皮質下性痴呆
D.レビー小体型痴呆の臨床診断
E.レビー小体型痴呆の痴呆の病理学的背景
4.パーキンソン病の精神的側面についての臨床薬理学的背景…〈野元正弘〉
A.解剖学的側面
1.ドパミンニューロンの分布と機能
2.セロトニンニューロンの分布
3.ノルアドレナリンの分布
4.アセチルコリンの分布
B.PDでの変化
第2章 パーキンソン病とdepression
1.パーキンソン病におけるうつ…〈山本光利〉
A.診断と頻度の問題
1.頻 度
2.診 断
3.初発症状としてのうつ
4.うつの危険因子
5.オフ期におけるうつ
B.PDにおけるうつの症候論
C.うつの生化学的背景
D.うつとニューロンネットワーク
E.臨床薬理学からみたうつの理解:治療薬の効果との関連
1.ドパミン系
2.セロトニン系
3.ノルアドレナリン系
4.アセチルコリン系
5.GABA系
6.ペプチド,その他
2.うつ病の生化学的研究の進歩…〈樋口輝彦〉
A.うつ病の臨床的事項
B.うつ病治療の現状
C.うつ病の生物学的研究の進歩
1.うつ病の生物学的研究は薬理研究から始まった
2.ヒトを対象とした仮説の検証
3.内分泌研究の成果
4.海馬の障害を視野においた研究
5.セロトニン系とHPA系の相互作用
6.薬の作用機序研究の新段階細胞内情報伝達系への影響
7.リバース・ファーマコロジーによる新規抗うつ薬発見に向けて
第3章 パーキンソン病と睡眠
1.パーキンソン病と睡眠…〈立花直子〉
A.歴史的にみたPDにおける睡眠研究の展開
B.PDの睡眠障害の頻度とその内容
C.PDにおける睡眠障害の複雑さ
1.PD自体の症状により引き起こされる睡眠障害
2.一次性の睡眠障害の合併
3.抗PD薬の影響による睡眠障害
4.うつに起因する睡眠障害
5.概日リズムの問題に起因する睡眠障害
D.PDにおける眠気をとらえる上での問題点
E.睡眠によりPD症状は改善するか,また睡眠奪取によりPD症状は改善するか?
F.RBDとPD
1.RBDの概念とその歴史
2.PDにおけるRBD
3.PDにおけるRBDの発症機序
G.PDにおけるRBDと幻覚との関係
H.将来への展望と課題
2.パーキンソン病治療と傾眠,睡眠発作…〈長谷川一子〉
A.睡眠の生理学的機構
1.上行賦活系
2.視床下部と辺縁系
3.睡眠サイクル
4.ドパミン作動神経系の睡眠への関与
B.主な睡眠障害の診断法と評価法
1.睡眠ポリグラフpolysomnography(PSGs)
2.Multiple Sleep Latency Test(MSLT)
3.Epworth Sleepiness Scale(ESS)
C.PDの睡眠障害
D.睡眠の生理機構からみたPDの覚醒障害
E.PDの睡眠障害とドパミン作動薬−ドパミンアゴニストを中心に−
F.PDの睡眠障害,睡眠発作への対応
第4章 パーキンソン病の性格,心理,行動障害
1.パーキンソン病における異常行動…〈柏原健一〉
A.不安・パニック発作
B.興 奮
C.強迫性症状
D.性行動の亢進
E.常同運動
F.病的賭博
G.抗PD薬乱用・依存
2.パーキンソン病患者の性格および心理特性〈武田 篤,菊池昭夫,松崎理子,長谷川隆文,糸山泰人〉
A.PDの性格特性
B.ドパミンと神経心理
C.PDの精神機能と機能画像
第5章 精神症状の治療
1.パーキンソン病でみられるpsychosisの発症機序及び管理〈Melamed E Djaldetti R〉
A.PD psychosisの発症機序
B.PD精神病の治療における薬理学的アプローチ
C.PD精神病症状の治療に現在適用されているアルゴリズム
2.非定型抗精神病薬“非定型”とは何か?…〈黒木俊秀〉
A.クロザピン:非定型抗精神病薬のプロトタイプ
B.非定型抗精神病薬の薬理作用:受容体結合能
1.in vitro受容体結合能
2.PET研究
3.受容体結合能に基づく非定型抗精神病薬の分類
C.非定型抗精神病薬の薬理作用:受容体結合能以外
1.脱分極阻害
2.神経伝達物質遊離作用
3.最初期遺伝子誘導
3.非定型抗精神病薬の臨床プロフィール主に錐体外路系および他の副作用の発現性について…〈氏家 寛〉
A.臨床薬理
B.副作用
1.錐体外路症状
2.QTc値延長および循環器系
3.プロラクチン上昇
4.体重増加
5.耐糖能異常
6.その他
4.パーキンソン病のうつ症状に対する薬物治療−EBM(Evidence Based Medicine)の立場から−…〈菊地誠志,長谷川一子,村田美穂,山本光利〉
A.抗うつ薬
1.抗うつ薬の種類
2.調査方法
3.結 果
B.ドパミンアゴニスト
1.大うつ病もしくは難治性うつ病に対するドパミンアゴニストの有効性に関する論文
2.PDのうつ症状が改善されたとする論文
C.アマンタジン
1.アマンタジンとうつ症状
2.ボルナウイルス感染との関連
3.PDの抑うつに対するアマンタジンの効果
D.ドロキシドパ(L-threo-DOPS)
ドロキシドパの抗うつ作用
E.塩酸セレギリン
1.臨床試験
2.結 論
5.新しい抗うつ薬の薬理作用の特徴とパーキンソン病に伴ううつの治療〈田島 治〉
A.PDに伴ううつと中枢モノアミン系の変化との関連
B.PDに伴ううつの薬物療法の現状
1.抗PD薬
2.抗うつ薬
C.PDに伴ううつ病の治療アルゴリズム
6.パーキンソン病に対する電気けいれん療法その臨床的意義と作用機序〈三輪英人〉
A.電気けいれん療法の臨床効果について
1.PDのうつに対するECTの効果
2.PDの運動症状に対するECTの効果
3.機能画像によるECTの効果検討
4.ECTの安全性
5.悪性症候群への応用
B.電気けいれん療法の基礎
1.dopamine
2.noradrenaline
3.enkephalin
4.neuropeptide-Y
5.5-HT
6.神経栄養モデルとしての電気ショック
C.電気けいれん療法の現状と展望に関しての考察
1.臨床的意義について
2.作用機序について
第6章 パーキンソン病における認知機能障害
1.パーキンソン病における認知機能認知機能検査法と解釈…〈金澤 章〉
A.認知機能の評価における注意事項
B.簡易知能評価スケールによるスクリーニング
C.神経心理学テストバッテリー
D.PDの認知機能障害と検査法
1.遂行機能
2.記 憶
3.視空間機能
E.将来の展望と課題
2.画像からみたパーキンソン病の認知機能…〈高橋裕秀〉
A.形態画像
B.機能画像
1.ドパミン系
2.コリン系
3.グルコース代謝
4.脳賦活試験(activation study)
5.脳血流SPECTと画像統計解析
3.大脳電気生理学からみたパーキンソン病の認知機能障害…〈立花久大〉
A.脳 波
B.大脳誘発電位
1.聴覚誘発電位
2.視覚誘発電位
3.体性感覚誘発電位
C.事象関連電位
1.P300(P3,target P3)
2.Nontarget P3(P3a,novelty P3,nogo P3)
3.N100,P200,N200
4.mismatch negativity(MMN)(N2a)
5.processing negativity(PN),negative difference wave(Nd)
6.N400
7.CNV
4.パーキンソン病における連続経頭蓋磁気刺激法(rTMS)と前頭葉機能〈眞野行生〉
A.rTMSの歴史
B.PDへの応用
C.rTMSの作用
D.精神科疾患へのrTMSの応用
E.前頭葉機能とrTMS
F.rTMSは何をかえるか
5.パーキンソン病における認知機能障害…〈丸山哲弘〉
A.注意性セット変換機能
B.セット変換障害:学習した無関連か保続か
C.反転変換
D.セット形成か,セット変換か
E.課題切り換え
F.空間性ワーキングメモリー
G.パーキンソン病における認知障害の神経基盤
6.パーキンソン病の外科治療と認知精神機能…〈横地房子〉
A.定位視床VL核・Vim核破壊術(thalamotoy)および視床VL核・Vim核刺激術(視床DBS)
B.定位後腹側淡蒼球内節破壊術および淡蒼球内節刺激術(GPi-DBS)
C.視床下核刺激(STN-DBS)
7.パーキンソン病における痴呆診断と治療…〈葛原茂樹〉
A.PDにおける痴呆の頻度
B.痴呆の神経病理学的背景
C.PDに見られる精神症状の内容と分類
1.痴 呆
2.幻覚・妄想とせん妄
3.抑うつ
D.どのような患者に痴呆や精神症状が出現しやすいか−リスクと臨床病型との関連
E.鑑別診断
1.レビー小体型痴呆
2.進行性核上性麻痺(PSP)
3.皮質基底核変性症(CBD)
4.脳血管性偽パーキンソニズム
5.パーキンソン痴呆複合
F.治 療
1.PDの皮質下性痴呆の治療
2.PDに出現する皮質性痴呆の治療
3.精神症状とせん妄の対策と治療
4.抗精神病薬の併用
8.パーキンソン病の認知機能障害に対するリハビリテーション…〈吉井文均〉
A.PDの認知機能障害
B.認知機能障害に対するリハビリテーション
1.機能回復の立場から
2.アプローチの方法
3.評価と効果判定
4.機能障害別のリハビリテーション
C.PDの認知機能障害に対するリハビリテーション
1.認知機能訓練
2.経頭蓋磁気刺激療法
3.音楽療法について
D.認知機能障害に対する薬物療法
第7章 パーキンソン病とQOL
パーキンソン病のQOL…〈近藤智善,河本純子〉
A.健康関連QOL尺度
B.PDを対象としたQOL調査
C.世界PD調査
D.QOL尺度の臨床応用
E.QOL調査結果から示唆されるQOL向上のための対策
索 引
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