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書籍詳細

診察のためのアプローチ

診察のためのアプローチ

―日本語と英語による患者への声かけ―

荒井孝子 著 / ババエフ・タメルラン 著 / 天野隆弘 監修

B5判 86頁

定価2,860円(本体2,600円 + 税)

ISBN978-4-498-17506-8

2021年10月発行

在庫あり

診察の時,患者のどこを見て,何を聞くのか…….熟練の医師ならば自然に行っている一連の動作と思考をひも解き,豊富なイラストと共に解説したテキスト.初学者でも短時間で身に付くことを目標に,シンプルだけど有用な流れをステップに沿って学ぶことができる.難しいことは一切なし.読んで真似るだけでプロの目線と手法が身に付く1冊だ.付録にはネイティブが実際に使う英語の声がけフレーズも収載(音声付き).

監修の言葉

 この本を是非とも出版しませんかと荒井先生に薦めたのは,以下のような事情によります.
 前職(慶應義塾大学医学部・医学教育統轄センター長,教授)の時から,臨床の場でいかに学生や若い臨床医に診察をスムースに習得させるか考えていました.それまで30年近く神経内科や内科外来で診療に携わっている中で,時々外国の患者さんが訪れることがありました.さて神経診察をとろうとして,診察するための手の位置や力の入れ方などを英語で説明するはめになりました.しかし,「手に思い切り力を入れてください」がうまく言えませんでした.汗だくになって「strengthen your muscle」などいろいろ言ってみても埒があきませんでした.そこで,身振り手振りでやって見せると「Oh! Make a muscle」と患者さんが返してくれました.手首で上向けにあるいは下向きに伸展,屈曲をしてもらおうとしてもまったく適切な言葉が思い当たらず,同じようにやってみると,「bend up,bend down」と返してくれ診察に必要な言い回しを一つずつ覚えてきました.日本語ではスムースにできていても,英語になると適切な指示ができず,診察もままならず,とりわけ神経診察は鬼門であったと振り返ります.こんな経験をいろいろしてきて,適切な声かけが診察の第一歩だと強く意識しました.
 後に,慶應義塾大学医学部を退官して現職の国際医療福祉大学グループに再就職し,大学院長時代に著者である荒井先生と共に当時開設されたばかりのナースプラクティショナー養成分野の教育を充実するのに苦楽をともにしました.
 その後,荒井先生が,静岡県立看護学部の教授,副学部長として栄転し,看護学生に身体診察を教えることになったので協力してほしいと頼まれご縁がつながりました.荒井先生が最初にやったことは,教授内容を研究すると称しボランティア学生を相手に私が診察する様子をビデオで録画していきました.次に授業の手伝いに行くと,診察の手順とともに患者への声かけが書かれた資料が図とともに学生に渡っていました.学生はあらかじめ私の診察風景をビデオで見ていたそうですが,短い演習時間の中で,看護学生同士が資料を見ながら診察の声かけをして,瞬く間に診察の第一歩をマスターしている様子を見て,「これだ!」と思わず心の中で叫びました.こんな経過があり,荒井先生に是非とも声かけを中心にした身体診察の本をまとめたらどうですかと薦めた次第です.
 私は,その頃から国際医療福祉大学の医学部設立準備委員会の委員長として,仲間と新しい医学部のあり方,教育法,カリキュラムなどを検討しました.卒業時に医療の実践力を備え,スムースに英語で診察もできる,国際レベルを意識した医学生を育成する医学部とは何かの議論を繰り返しました.幸い,特区として2016年に医学部の設立が許可され開設されて現在に至っています.そこに共著者のババエフ先生の赴任が実現しました.ババエフ先生には4年間にわたり,医学英語,英語での診察の教育,英語でのディスカッションをご担当いただきました.彼に,私の過去の経験を話し,「本書に英語の声かけも同時に記載したいので一緒にやってみませんか?」と声をかけたところ,「日本語の英訳ではなくnativeな医師が英語で声かけするときの英語のフレーズを場面に合わせて作りましょう」と提案してくださいました.まさにそこがポイントだと意見が一致し,本書の完成に至ったのです.嬉しいことに,本書の購入者にはババエフ先生の発音をネットで聞けるようご尽力いただきました.
 これまでにはない切り口で書かれたこの小著が,日本語でも英語であっても診察の第一歩を踏み出す学生諸君の後押しをしてくれるように願っています.

2021年8月吉日
天野隆弘

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はじめに

 この本をまとめようと考えたきっかけは,現在の勤務先であります静岡県立大学への着任時に担当することになった「フィジカルアセスメント」について,どのように展開していこうかと考えたことによります.前職の大学院でナースプラクティショナー養成コースの教員をしていた頃に,看護教育の底上げには,「学部の学生にどれだけ教育の種まきをしていけるか」ではないかとぼんやりと考えていました.看護師が患者さんの身近な存在として患者の異常を見逃さず,適切な判断ができるには,できるだけ最小限の道具と系統診察により身体診察できることが重要だと思います.
 今回,出版の礎となった授業資料の作成に当たっては,もう一度初心に戻って学びなおすことが重要だと考え,前職でご一緒させていただきました天野先生の門を叩きました.改めて天野先生の診察に参加観察し,その技術やコツを「盗みとる」気持ちで勉強させていただきました.録画したビデオを何度も何度も見ているうちに,ある日,ふと気づきました.先生の診察は非常に明快で,何度やっても同じ手技なのです.長年の経験に培われたものであることは間違いないのですが,身体診察は,診察者が明確な目的を持ち,患者への適切な説明と指示があれば,初学者でも短時間でできるのではないかということを発見しました.また,学生さんが実習に行きますと,担当させていただく患者さんの多くはご高齢の方です.そうなると神経診察も欠かせないものとなります.神経系は,マニアックな分野で,正直にいうと私も苦手だなと思ったのですが,この機会に学生がわかるところまで分解してしまえば何とかなるのでは?と考えチャレンジしました.
 本テキストは,完成目標をミニマムであることにしました.看護学生,医学生など初学者が気軽に手にとって,stepに沿って学習していけば自然に身体診察ができるようになってもらえることを期待しています.専門的な内容を追及することについては,フィジカルアセスメントに関する多くの書籍が出版されておりますので,それらの図書に役割を譲りたいと思います.この本は,初学者が知りたい「肝心なこと」や上手くできる「コツ」についてできるだけ解説するように努めました.最終の仕上げとして,日本語による声かけとともにBabayev先生の英語が加わりました.Babayev先生はふつうの表現だとおっしゃるのですが,Babayev先生の英語の言い回しには“なるほど”という表現があります.そういったところを参考にしていただくことで,外国人の患者さんでも臆することなくチャレンジするきっかけとなることを期待します.
 最後に,これまで静岡県立大学看護学部の学生達が一緒に検証してくれましたことに謝意を表します.また,学び直しの機会をいただいたこと,多くの教えをいただきました天野隆弘先生を始めとした前職でご縁をいただきました医師の方々にも御礼を申し上げます.そして2014年の赴任当初より共に学び,フィジカルアセスメント演習の構成について協力してくださった松浦明美さんに感謝いたします.深夜の大学の研究室でデモの構成と練習をしたり,天野先生とSkypeをつないで実技を見ていただいたことも素晴らしい思い出です.

2021年4月
荒井孝子

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目 次

Examination 1 頭頸部・下肢の診察
1.学習目標
2.必要物品の準備
3.演習の進め方
4.評価
5.備考
6.演習の進行 顔面の診察
演習前
  状況設定
  1 全体および顔頭頸部の視診,顔貌,表情を視診する
  2 目の診察
  3 耳の診察
  COLUMN(1) 音叉の謎
  4 口腔内(咽頭・扁桃・舌・口腔粘膜などの診察
  5 リンパ節の触知
  6 甲状腺の視触診
  COLUMN(2) 触診法が異なる甲状腺の触診
  7 頸動脈の聴診
  8 腋窩リンパ節の触知
  9 下肢の診察
 身体診察記録(1)(頭頸部・下肢)

Examination 2 胸部の診察
1.学習目標
2.必要物品の準備
3.演習の進め方
4.評価
5.備考
6.演習の進行 心臓,胸部の診察
  演習1 打診の練習
  演習2 ランドマークの確認
  1 頸静脈の視診
  2 胸壁拍動と心尖拍動の視診
  3 触診(仰臥位または左側臥位)
  4 心臓の聴診
  5 胸郭の視診と呼吸様式の観察
  6 前胸部の打診
  7 前胸部の聴診
  8 背部の視診
  9 背部の打診
  10 背部の聴診
  11 声音振盪
  12 呼吸法の指導
 身体診察記録(2)(胸部)

Examination 3 腹部の診察
1.学習目標
2.必要物品の準備
3.演習の進め方
4.評価
5.備考
6.演習の進行 腹部の診察
  状況設定
  1 患者への問診と説明
  2 腹部全体の視診
  3 腹部の聴診
  4 血管雑音の有無(聴診)
  5 腹部全体の打診
  6 腹部の触診
  COLUMN(3) 腹部触診の体位について
 身体診察記録(3)(腹部)

Examination 4 神経診察
1.学習目標
2.実習室準備
3.演習の進め方
4.評価
5.注意点
6.神経診察の予習
7.演習の進行 脳神経の診察
  打腱器の使い方
  1 脳神経の診察
  2 運動系の診察
  3 反射・感覚・協調運動 座位で実施
  4 髄膜刺激症状・歩行
 身体診察(全身)の手順
 神経診察(系統別)
 神経診察の順序
 実際の診察の流れ

 参考文献
 索引

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執筆者一覧

荒井孝子 静岡県立大学看護学部/看護学研究科教授,看護実践教育研究センター長 著
ババエフ・タメルラン 前 国際医療福祉大学医学部助教(医学教育統括センター) 著
天野隆弘 国際医療福祉大学医学部教授・学事顧問, 慶應義塾大学医学部客員教授 監修

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