巻頭言
ついに腎臓内科グリーンノートを上梓できることになり,編集者としては重責を果たせたので,ホッと一息ついております.本書は,常に臨床最前線で頑張っているレジデントの先生方の白衣のポケットに入る最強の腎臓系診療マニュアルを目指して編集が始まりました.透析分野の詳細まで書き込むとかなり分厚くなって携帯には不向きであろうと考え,透析篇は別冊に分けさせていただきました(透析内科グリーンノート).透析関連のマニュアルも同時に必要という場合には,逆サイドのポケットに入れていただき,2冊持ちでお願い致します.
本書は,系統的な解説をする教科書を目指したものではありません.診断基準,治療ガイドラインなどについて,短時間であっても十分な情報が得られるマニュアルを作ろう!ということで編集された診療マニュアルです.レジデントの先生方から,腎臓領域は難しくて理解しにくいというご批判は常にいただいているので,記載は簡潔でわかりやすく,を徹底しました.各項目,重要なポイント(=結論)は最初に明示するようにして,読者の先生方にじれったい思いをさせないよう配慮しました.執筆者は全員腎臓分野の専門家ですから,どうしても専門家向きの記述になりがちです.編集者自身が原稿全部に目を通し,複雑な部分は平易に,情報過多な部分は極力減らすように指示して,書き直してもらった部分もあります.執筆者からは相当うるさい編集者だと恨まれたかもしれませんが,スッキリと理解しやすい診療マニュアルを完成させるという信念に揺らぎはありませんでした.また臨床現場で使うものですので,処方についても可能な限り具体的に記載するよう努めました.医師国家試験の腎臓分野の項目はすべてカバーしましたので,結果的には医学部生が臨床実習で病棟に出たときに疾患概念を手早く把握するのにも最適な本に仕上がりました.もちろん国家試験対策にも十分役に立つことでしょう.
さまざまな診療ガイドラインが頻繁に改訂されていますが,本書は業界の最新ガイドラインを参照しつつ執筆されましたので,現時点では最新の腎臓系診療マニュアルです.また腎臓領域で新しく処方できるようになった薬剤についても網羅しましたので,類書に対しては大きなアドバンテージがあると自信を持っています.しかし時間経過とともにそれがなくなっていくのは仕方のないことです.今後も腎臓領域の医療の進歩にcatch-upしていかなければならないので,少なくとも3〜4年に1回の改訂を目指したいと思います.本書は自治医科大学の腎臓内科だけではなく,附属病院腎臓センターでのパートナーである腎臓外科の先生方,附属さいたま医療センター腎臓内科の先生方にも全面的に協力していただき,“オール自治医大”体制で作成しました.今後の改訂の際にも,仲間の先生方との連携をさらに強固にしつつ,引き続き努力を重ねて参ります.
最後になりますが,私が研修医,レジデント時代を通じて腎臓診療の奥義を懇切丁寧に指導して下さった前三井記念病院腎臓内科部長・杉本徳一郎先生が本書の編集中にご逝去されました.私が臨床教室の責任者として勤務できているのは偏に杉本先生の教えのおかげであり,少なからず本書を編集するためのパワーを頂いたと感じております.杉本先生から授かったものを,本書の発刊を通じて腎臓領域の医療に還元できて,後輩の先生方のお役に立てるとすればこれに勝る喜びはありません.
2021年6月
自治医科大学内科学講座腎臓内科学部門教授
長田太助