Slender PCI 日本語版
究極の低侵襲カテーテル治療のためのTips & Tricks
吉町文暢 編著
B5判 216頁
定価6,600円(本体6,000円 + 税)
ISBN978-4-498-13668-7
2021年06月発行
在庫あり
Slender PCI 日本語版
究極の低侵襲カテーテル治療のためのTips & Tricks
吉町文暢 編著
B5判 216頁
定価6,600円(本体6,000円 + 税)
ISBN978-4-498-13668-7
2021年06月発行
在庫あり
国内外の低侵襲PCIのパイオニアたちが,研究会で情報交換や議論を重ねてきた治療についての基本的な考えやエビデンス,テクニックなどを世界に向けて発信した書籍の日本語版.表題にもある「Slender」なカテーテルを用いた治療をはじめとして,医師とコメディカルが患者のために協力しあうチーム医療を実現するために必要な知識を解説.翻訳にあたっては新たに章を書き下ろし,より本邦のPCI事情に即した書となっている.
Introduction
はじめに
東海大学医学部付属八王子病院
循環器内科准教授
吉町 文暢
血行再建術という治療がある限り,低侵襲な治療をいかに提供するかということは重要なテーマの1つである.
バルーンによる血管形成術の時代,ベアメタルステント時代を経て,薬剤溶出性ステント(drug eluting stent:DES)の時代となり,経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention:PCI)の成功率と結果は安定したものが得られるようになった.しかし,残念ながら合併症は一定の割合で発症する.また合併症や事故に至らずとも,患者の痛みや不快感はもちろん,スタッフの労力,金銭的負担など,治療の侵襲性に関する問題は多々存在する.
これらの問題を解決するために,PCIのアプローチ部位は大腿動脈から橈骨動脈/遠位橈骨動脈に進化し,カテーテルは大径から小径=slenderになった.
言うまでもないことだが,低侵襲治療は細いカテーテルを使うだけでは達成できないことは誰もが知っている.この問題を解決するためには,患者の全身状態・心理状態を把握し,心機能や腎機能のデータ,放射線被ばく,造影剤の使用量に注意を払うことなども重要である.そのためには,看護師,放射線技師,臨床工学士など,いわゆるコメディカルスタッフの協力が欠かせない.幸いにも,日本の医療において,コメディカルが初期からこの低侵襲治療を提供する活動に積極的に関わってきた.言い換えると,医師とコメディカルスタッフが患者のために協力し合うチーム医療がこの低侵襲治療を提供する活動の特徴である.
過去には,我々が入手できる情報は大きな学術集会で著名な医師たちが発表するものだけであった.もちろん,その医師のほとんどは臨床医というよりは科学者であった.そのため,患者のためではなく,科学のための情報が多かったことは否定できない.そして残念ながら,その情報が患者のためではないどころか,コマーシャリズムや発表者の利益のためと感じられることもあった.しかし近年,インターネットを利用することで,地域の医師達やコメディカルスタッフ達と直接的な情報交換を行うことが容易になった.これにより,偉大な科学者にとっては不要かもしれない小さな情報を集積することにより,よりよい患者サービスの提供が可能となった.
低侵襲カテーテル治療の研究グループである「Slender Club Japan(SCJ)」は2007年に設立され,この活動のステップアップに貢献している.所属,職種,立場を問わず,日々の議論がWeb上で行われている.年次学術集会やライブデモンストレーションだけでなく,会員との交流を深めるための少人数のワークショップも日本各地で開催されてきた.そして,我々はカテーテル治療にこだわることなく,どんな低侵襲治療のための話題でも真摯に話し合ってきた.
SCJのメンバーは,日本人医師だけでなく,海外の医師とも積極的に交流を行ってきた.今までも,Slender Club EuropeやSlender Club Singaporeなど,世界中で低侵襲カテーテル治療に関するミーティングが多く開催されており,現地の事情を踏まえた議論が盛んに行われている.
我々SCJのメンバーは,この活動が患者のためになると信じて努力をしているが,残念ながらこの分野に真剣に取り組む医師はまだ少ない.
細いカテーテルを使用することも含め,低侵襲治療には独特のコツや工夫が必要である.医師やコメディカルスタッフが低侵襲治療の実際の方法を理解できれば,より快適で安全な治療を患者に供給するのが容易であろう.そのためには,このコツや工夫をより広く共有しなければならない.
このような理由で,ミーティングに出席できない仲間たち,Web上で交流ができない仲間たち,そして今後のこの分野に参入してくる仲間たちのために本を出版することにした.この本はslender PCIの知識を凝縮した内容である.世界中の低侵襲治療のスペシャリストとパイオニアが,基本的な考え,エビデンス,特殊テクニック,新しい話題,マニアックな工夫など,自らの知識と経験について考えたことをまとめた書籍である.
この本は,あなたとあなたの患者のための,究極の低侵襲性治療の世界への入り口である.
追記
この本は,世界に向けてslender PCIを紹介すべく作成された「Slender PCI:Extremely Minimally Invasive Percutaneous Coronary Intervention」の日本語訳である.
オリジナルの「Slender PCI:Extremely Minimally Invasive Percutaneous Coronary Intervention」は2020年Springer社より世界に向けて出版された.国内外の医師がそれぞれの得意分野をまとめた,低侵襲治療へのメッセージである.
しかし,英語の出版物は本邦では言葉の壁に阻まれてなかなか手に取って頂けないのが現実である.せっかくの良い内容が我々日本人にとってわかりにくいと言うことは本末転倒である.そのため,あえて英語で執筆した内容を日本語に戻すという手順にて日本語版を作成することになった.
日本語版にするにあたって,追補するセクションも加え,より日本の低侵襲治療の実際に寄り添った内容になると期待する.
執筆している我々も,英語を日本語に翻訳するという初めての試みに戸惑っている.普段よりギクシャクした表現になっているかもしれないがお許し頂きたい.
国内の医師・コメディカルの皆様に,低侵襲カテーテル治療の世界に浸って頂けることを祈念する.
目 次
Chapter 1 はじめに〈吉町文暢〉
Chapter 2 Slender PCIとは〈舛谷元丸〉
Chapter 3 低侵襲PCIのエビデンス〈松隂 崇〉
3.1 はじめに
3.2 TRI創世期と問題点
3.3 ガイディングカテーテル内腔径の拡大
3.4 ガイディングカテーテル外径の細径化
3.5 肉薄シースの開発
3.6 各種テクニックの考案
3.7 TRIとしてのエビデンスの確立
3.8 細径カテーテル使用におけるエビデンス
3.9 出血性合併症に関する知見
3.1 今後の展望
Chapter 4 低侵襲な介入:前腕橈骨から遠位橈骨へのアプローチ〈齋藤 滋〉
4.1 はじめに
4.2 経橈骨動脈アプローチ後の橈骨動脈閉塞の重要姓
4.3 遠位橈骨動脈アクセスの歴史
4.4 DRA穿刺法
4.5 DRAアクセスの経験
4.6 DRAアクセスの合併症
4.7 結論
Chapter 5 冠動脈造影とインターベンションのための遠位橈骨動脈アプローチ;オーバービュー〈Ferdinand Kiemeneij,翻訳:吉町文暢〉
5.1 はじめに
5.2 理論的根拠と背景
5.3 準備とテクニック
5.4 どのようにしてldTRAをはじめるか?
5.5 合併症の可能性
Chapter 6 スレンダーPCIにおける橈骨動脈閉塞予防のための究極の止血法〈Ivo Bernat,翻訳:加藤隆一〉
6.1 はじめに
6.2 橈骨動脈閉塞予防の歴史的変遷
6.3 診断と治療
6.4 早期橈骨動脈閉塞の減少における近年の進歩
6.5 短時間で愛護的な圧迫の重要性
6.6 我々のスレンダーアプローチと手技後のケア
6.7 結論
Chapter 7 遠位橈骨動脈アプローチによるST上昇型急性心筋梗塞に対するカテーテル治療〈高橋玲比古〉
7.1 はじめに
7.2 症例
7.3 治療手技
7.4 遠位橈骨動脈アプローチの臨床的意義
7.5 当院での成績
7.6 結論
Chapter 8 Slender GCにおけるバックアップサポート〈吉町文暢〉
8.1 背景
8.2 バックアップを補うslenderテクニック
8.3 まとめ
Chapter 9 橈骨動脈穿刺と止血〈Sandeep Nathan and Rajeev Anchan,翻訳:松隂 崇〉
9.1 序章
9.2 アクセス
9.3 機器類
9.4 TRAの止血
9.5 結語
Chapter 10 FPD時代の冠動脈造影における低濃度造影剤の有用性〈原田 敬〉
10.1 はじめに
10.2 Flat panel detectorによる冠動脈造影での低濃度造影剤の有用性
10.3 低濃度造影剤の有用性を再考する
10.4 おわりに
Chapter 11 Minimum Contrast PCI〈増田尚己〉
11.1 はじめに
11.2 IVUSガイド下minimum contrast PCI戦略の原理
11.3 MINICON PCIの適応
11.4 IVUS-guided MINICON PCIの手順
11.5 症例
11.6 MINICON PCIの限界
Chapter 12 4 Fr診断カテーテルを用いた冠血流予備量比測定の有用性〈兼八正憲,正村克彦〉
12.1 はじめに
12.2 スレンダー診断カテーテルを用いたFFR測定
12.3 FFRFFR-2研究:大口径4 Fr診断カテーテルを用いたFFR測定
12.4 FFRiFR研究:大口径4 Fr診断カテーテルを用いたiFR測定
12.5 考察
12.6 結語
Chapter 13 4 Fr ガイディングカテーテル〈松隂 崇〉
13.1 はじめに
13.2 製品仕様ならびに特性
13.3 Case-1
13.4 Case-2
13.5 Case-3
13.6 おわりに
Chapter 14 3 Fr診断カテーテル〈片平美明〉
14.1 はじめに
14.2 3 Fr診断カテーテルの開発
14.3 3 Fr診断カテーテルの臨床評価
14.4 3 Fr診断カテーテルを用いた血管造影に際し必要とされるデバイス
14.5 3 Fr診断カテーテルの実際の使用法
14.6 3 Fr診断カテーテルに残された問題と将来の可能性
14.7 2.8 Fr診断カテーテルの開発
14.8 結語
Chapter 15 英国におけるシースレススレンダー〈Mamas A. Mamas, Ahmad Shoaib, and Karim Ratib,翻訳:?川芳勅〉
15.1 はじめに
15.2 “橈骨動脈パラドックス”の克服
15.3 英国でのシースレスガイドカテーテルの使用
15.4 シースレスバルーンアシストトラッキング法
15.5 結論
Chapter 16 日本におけるスレンダーシースレス〈高川芳勅〉
16.1 概要
16.2 シースレスシステムの一般的手順
16.3 スレンダーシースレスシステムの適応
16.4 5 Frシースレスガイディングカテーテルキット
16.5 一般ガイディングカテーテルによるシースレス
16.6 バーチャル2 Frシステム
16.7 Virtual 1 Frシステム
16.8 その他のシースレス手法
16.9 プライマリーPCIにおけるシースレスシステム
16.1 遠位橈骨動脈アプローチでのシースレス
16.11 Bipoint Uni-lateral SHeathless Catheter Insertion via Distal and prOximal Radial Artery(BUSHI-DO)
16.12 シースレスシステムの将来展望
Chapter 17 分岐部病変におけるスレンダーPCI〈櫻井 馨〉
17.1 分岐部病変の定義と分類
17.2 1ステント法または計画的2ステント法
17.3 5 Fr スレンダーPCIでできること,できないことは?
17.4 スレンダーPCIにおけるprovisional side branch stenting strategy
17.5 スレンダーPCIでKBI
17.6 症例1 KBI
17.7 症例2 re-POT
Chapter 18 石灰化病変に対するスレンダーPCI〈高橋玲比古〉
18.1 はじめに
18.2 石灰化病変に対するカテーテル治療機材と治療手技
Chapter 19 慢性完全閉塞病変に対するslender PCIテクニック〈舛谷元丸〉
19.1 症例
19.2 まとめ
Chapter 20 冠動脈慢性閉塞病変の病理〈中野将孝〉
20.1 病理学的CTOと冠動脈造影上のCTO
20.2 CTOのマイクロチャンネル
20.3 柔らかい組織と硬い組織
20.4 CTOの近位部と遠位部の病理
20.5 結語
Chapter 21 Slender CTO:1P1G & Chameleonテクニック〈加藤隆一,大山 亮〉
21.1 CTO治療において,1本のガイディングカテーテルしかアクセスできないとき,順行逆行の両側造影をどう行うか?
21.2 One puncture and one guide catheter(1P1G)テクニック
21.3 Chameleonテクニック
21.4 使用する造影剤量を減量する
21.5 大口径カテーテルを用いたslender PCI
21.6 Slender PCIによるCTO治療の今後
Chapter 22 慢性完全閉塞:レトログレードアプローチ〈吉町文暢〉
22.1 はじめに
22.2 Slender retrograde approachの実際―デバイスの選択およびその使用方法―
22.3 デバイスとテクニックの限界
22.4 症例提示
22.5 まとめ
Chapter 23 Ikariカーブを用いたsingle catheter PCI法によるST上昇型急性心筋梗塞に対するprimary PCI―日本語版のためのPlusセクション―〈伊苅裕二〉
23.1 はじめに
23.2 STEMIの発症からPCIによる再灌流の時間
23.3 PCI手技時間は検討されてこなかった
23.4 Ikari left(IL)ガイディングカテーテルは左右両用
23.5 STEMIへの応用
23.6 症例
23.7 まとめ
Chapter 24 低侵襲性治療における放射線防護―日本語版のためのPlusセクション―〈加藤京一〉
24.1 はじめに
24.2 患者の受ける放射線被ばく
24.3 医療従事者の受ける放射線被ばく
24.4 放射線防護具
24.5 放射線管理
24.6 被ばく線量低減技術
24.7 Diagnostic reference levels(DRLs)診断参考レベル
24.8 個人線量管理
24.9 結語
Chapter 25 Trans‒radial EVT―日本語版のためのPlusセクション―〈篠崎法彦〉
25.1 Trans-radial EVTの意義
25.2 Trans-radial EVTのエビデンス
25.3 Trans-radial EVTの実際
25.4 Trans-radial EVTの将来
Chapter 26 Slender PCIの注意点:限界と特有な合併症―日本語版のためのPlusセクション―〈吉町文暢〉
26.1 はじめに
26.2 限界
26.3 合併症
26.4 最後に
謝辞
索引
執筆者一覧
吉町文暢 東海大学医学部付属八王子病院循環器内科准教授 編著
舛谷元丸 はくほう会セントラル病院循環器内科副院長
松隂 崇 埼玉医科大学総合医療センター心臓内科教授
齋藤 滋 湘南鎌倉総合病院循環器内科主任部長
Ferdinand Kiemeneij Interventional Cardiologist, Bussum, The Netherlands
Ivo Bernat University Hospital and Faculty of Medicine, Charles University, Czech Repuplic
加藤隆一 東大和病院循環器科科長
高橋玲比古 さくら会高橋病院理事長・院長
Sandeep Nathan The Heart and Vascular Center, The Unuversity of Chicago Medicine
Rajeev Anchan The Heart and Vascular Center, The Unuversity of Chicago Medicine
原田 敬 福岡リハビリテーション病院循環器内科部長
増田尚己 上尾中央総合病院循環器内科科長
兼八正憲 中村病院循環器内科副部長
正村克彦 中村病院循環器内科部長
片平美明 緑の里クリニック
Mamas A. Mamas Keele Cardiovascular Research Group, Academic Department of Cardiology, Institute of Primary Care and Health Stroke Hospital
Ahmad Shoaib Keele Cardiovascular Research Group, Academic Department of Cardiology, Institute of Primary Care and Health Stroke Hospital
Karim Ratib Keele Cardiovascular Research Group, Academic Department of Cardiology, Institute of Primary Care and Health Stroke Hospital
高川芳勅 小樽市立病院循環器内科医療部長
櫻井 馨 新百合ヶ丘総合病院循環器内科科長
中野将孝 上尾中央総合病院循環器内科副科長
大山 亮 東大和病院循環器科
伊苅裕二 東海大学医学部付属病院循環器内科教授
加藤京一 昭和大学統括放射線技術部部長/昭和大学大学院保健医療学研究科診療放射線領域教授
篠崎法彦 佐久市立国保浅間総合病院循環器内科部長
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