序
視床下部は脳内で間脳腹側部に位置する非常に狭い領域である.しかし,その内部は多くの神経核に分けられ,大脳辺縁系,下位脳幹,脊髄などと相互に線維連絡を有し,下垂体とも綿密な関係をもち,内分泌,自律神経,情動など生命維持やホメオスターシスの維持に中心的役割を果たしている.1940年代後半に下垂体前葉におけるホルモン産生が視床下部内で産生される物質によりコントロールされること,すなわち,releasing hormone/inhibiting hormoneの存在仮説をHARRISが提唱して以来,1960年代後半からそれらの物質の抽出,同定が行われ,視床下部-下垂体系の研究は飛躍的に発展した.それにはラジオイムノアッセイ,免疫組織細胞化学,分子生物学,遺伝子工学などの研究方法の飛躍的発展が大きく貢献している.すなわち,視床下部内に多数の神経活性物質,それらの前駆物質,遺伝子など次々と同定され,それらの生理作用についても詳細に調べられている.本書では,視床下部-下垂体系に焦点をあて,著者が現在まで携わってきた神経内分泌における形態学を中心として,それに生理学,生化学,分子生物学などにより明らかにされている機能的側面を加え,本書を読まれる方々が視床下部-下垂体系がどのような形態学的特徴をもち機能的役割を果たしているかを系統立てて把握できることを執筆の主旨とした.しかし,著者が直接専門としないホルモン分泌機構などについては常に新しい所見が加わっている領域であり,より詳細な専門書を参照されたい.また,前述のように視床下部-下垂体系は分子生物学,遺伝子工学の恩恵を非常に多く受けている領域であり,それらについての所見にもできるだけふれるよう努めたが,詳細については参考文献を読まれたい. 本書を読まれ,一人でも多くの方が視床下部-下垂体系に興味を持たれ,この分野の研究者が一人でも増加すれば,著者として望外の喜びである.
本書の執筆にあたり貴重な写真資料の提供や助言をいただいた群馬大学内分泌研究所 黒住一昌名誉教授,昭和大学医学部 中井康光教授,和歌山県立医科大学 仲野良介教授,神戸大学医学部 千原和夫教授,岡山大学医学部 村上宅郎教授,東北大学医学部 渡辺建彦教授,明治鍼灸大学 松浦忠夫教授に深謝するとともに,写真の提供や図譜の作成をしていただいた京都府立医科大学解剖学教室 河田光博教授,岡村均助教授,上田秀一助教授,由利和也講師,一谷幸男助手(現筑波大学助教授),田口淳一助手,王田善堂助手および脳・血管系老化研究センター神経内科修練医 平川誠氏に深謝する.なお,本書の出版にあたっては中外医学社の高橋衛氏,森本俊子氏に大変お世話になり厚くお札申し上げる.
平成6年2月 京都にて
著者