この本を手にとった全ての人へ
整形外科疾患の診断にたどりつくための1冊
この本を手に取ったあなたは,どんな方でしょうか.救急外来で整形外科疾患をみるプライマリケアの先生や研修医でしょうか,なりたての若手整形外科医でしょうか,または志高い医学生でしょうか.整形外科領域における診断学に興味のある方だと思います.整形外科で働く看護師や理学療法士の方も大歓迎です.
「肩痛や腰痛の患者さんを診る時にどのように対応してよいかわからない」
「膝痛を訴える患者さんで見逃しちゃいけない疾患はなんだろう」
こういった課題を解決するためにこの本はあります.
私は今,11年目の整形外科医です.総合病院で外来,入院,手術を担当し,救急外来で全科当直もしています.整形外科外来を始めた3年目のときは,ほとんど鑑別疾患もあがらず不安でした.
当時,様々な書籍やweb上の二次文献をあたりました.そこには整形外科疾患そのものを解説するものは数多く存在するものの,病歴や症状,身体所見からどのようにその疾患にたどり着くのかを解説するものはほとんどありませんでした.
この書籍には私の10年分のノウハウを凝縮させました.このノウハウはこれまでの診療経験に加え,200を超える文献,院外の勉強会等で総合診療や救急の先生方と関わる中で溜まった知見を基にできています.
内容は大きく症候編と特別編に分かれていて,症候編では頚部痛から足痛まで8つの部位に分け,「疼痛」を主訴に来院する患者さんの診断プロセスをフローチャート(整形外科医が頭の中で考えていること)を用いて紹介します.特別編ではよく使う鎮痛薬の使い分けとシーネ固定を解説します.
難易度は,専門医向けではなく,
・整形外科診療に携わるプライマリケア医
・救急外来でwalk in症例を診る初期研修医
・卒後3年目の駆け出し整形外科医
に向けたものです.したがって熟練した整形外科医にとっては当たり前の内容です.
ただ,わかりやすさを追求し,たとえ初めて整形外科疾患を診る医師でも「できる」内容に絞り込んで記載しました.特に解剖と鑑別疾患のつながりがわかるようイラストは骨だけでなく体表から内部の骨がイメージできるようにしました.
また,整形外科と言えば,開放骨折を緊急手術で創外固定……という三次救急を想定される方もいるかもしれませんが,今回は地域の一次二次救急病院の救急外来やER,クリニックなどを想定しています.本文に出てくるRはそんな地域の病院で働く初期研修医.●は経験ある整形外科医をイメージしました.
扱う症例は比較的頻度の高い疾患やよく見逃される疾患を多く選びました(一部小児疾患も含む).チャンピオンケースというよりは,地味ですが,大切な症例です.
この書籍をきっかけに,少しでも整形外科疾患の診断に近づく体験をしてもらえたらと思います.私自身まだ修行の身です.みなさんと一緒に研鑽を積めたら最高に嬉しいです.
最後に,これまでお世話になった総合病院国保旭中央病院,千葉大学医学部附属病院,習志野第一病院,国立病院機構千葉医療センター,成田赤十字病院,小見川総合病院,医療法人社団翠明会山王病院,坂総合病院の先生方,コメディカルスタッフのみなさんには感謝の気持ちを伝えたいです.そして師である古志貴和先生には多くのことを教わりました.その内容は本書にも色濃く反映されています.本当にありがとうございました.
2020年12月
藤井達也