はじめに
漢方の学習では、「傷寒論」で急性感染症について学び、読み終えたら「金匱要略」で慢性疾患について学ぶ、というようなことが王道とされてきた。
この2つの書はともに張仲景(張機:2〜3世紀)によって書かれたといわれ、中国でも日本でも漢方学習の基本書物とされ、現代まで読み継がれている。傷寒論は葛根湯、小柴胡湯、麻黄湯、小青竜湯、芍薬甘草湯、五苓散など、金匱要略は桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、半夏厚朴湯、大建中湯など、いまも非常によく使われる処方の出典であるからだ。
しかし、その原文は2,000年前に中国で書かれ、戦乱等で早くに逸失し、現在我々が手にするものはすべて後に編集されたもの、およびそれを解説したものばかりである。原文が何であったかわからないし、かつてはコピー機もスキャナもなかったので、伝達過程でかなりの誤字脱字が生じ、あわせて後人の解釈が入ったり削除されたりして、相当に手の加わったものになっている。当然、脱落した部分も少なくないだろう。タイムマシンがあったら、原文を見に行きたいくらいである。
本書は、先に出版した「寝ころんで読む傷寒論・温熱論」の続編・姉妹編である。寝ころんで読むには難解かもしれないが、肩ひじ張らずに読んでいただきたい。とはいえ、金匱要略そのものが傷寒論・温熱論ほどすっきりと系統だった本ではないので、本書もすっきりしていないのはご勘弁願いたい。
また、紙面の都合上、最初に出来上がった原稿を相当削らざるを得なかった。これ以上やると理解不能というくらいにまで削ったので、初学者には難しいと思う。どうか別に漢方や中医学の入門書を終えてから取り組んでいただきたい。
2020年9月
著者