改訂の序
“関節リウマチ”の診断,治療は難しい……とお考えの先生は多いかもしれない.確かに関節リウマチの診断,治療にまつわるここ数年の進歩は著しく,診断では抗CCP抗体,MRIや超音波を使用した早期診断法の有用性,治療に至っては生物学的製剤の登場と,疾患修飾性抗リウマチ薬disease modifying anti-rheumatic drugs(DMARDs)を早期から導入することで関節破壊や身体機能障害を予防し,早発死亡など予後を改善する,といったさまざまなエビデンスが出てきて,数年前の常識が今の非常識になり,めまぐるしく情報がupdateされ,我々専門医にとっても簡単な作業ではない.しかし膠原病全般にいえることだが,診断,治療の難しさを認識し,ある一定のルールを習得することで対応でき,あとは何とも楽しい知的作業となる.情報はインターネットで毎日updateされ,1990年後半から生物学的製剤を含めた最新の薬剤が大きな流れをつくっている昨今,リウマチ診療のグローバルスタンダードの達成は急務である.わが国でも生物学的製剤が2003年に認可され,15年以上が経過し欧米と同等の治療が行えるようになっている.実際,筆者の2人がそれぞれ欧州,米国でリウマチ膠原病診療に携わっていた2000年代初頭には,何人もの日本人の患者さんがTNF阻害薬tumor necrosis factor inhibitorの注射を受けるためだけに2カ月に1回はるばる日本から海外に訪れており,我々は“欧米で学んだ最新の治療のノウハウを日本のリウマチ膠原病臨床に貢献したい”と強く願い,2006年に帰国した.
日本では“まれ”とされていた乾癬性関節炎を含む脊椎関節炎に関しても欧米ではcommon diseaseの一つであり,RA同様,治療薬の開発により医師の認知度が高まり,昨今診断の遅れもなくなっている.これを維持するには,各疾患の分類(診断)基準の日常診療での応用法の熟知,治療推奨の最新情報をupdateすることが必要である.特に,乾癬性関節炎においては本邦においても乾癬患者さんの最大で5人に1人でみられ,関節リウマチの鑑別疾患として非常に重要であり,その治療法の進歩も今では関節リウマチをしのぐほどになっている〔表:本邦で承認されている(現在臨床治験中も含む)生物学的製剤の一覧とその適応〕.
リウマチ膠原病専門医,さらには一般臨床医をはじめ研修医も含めた幅広い読者に対して日常診療の参考となるように,関節リウマチおよび脊椎関節炎および乾癬性関節炎を「エビデンス」と「実臨床では」という切り口でできる限りわかりやすく解説した本書を2011年に出版してからすでに9年が経過した.この数年の間に新規経口DMARDsや生物学的製剤も加わり,新しい治療ガイドラインや推奨のupdateが発表された.さらには関節超音波検査など新たなエビデンスや臨床応用が日常診療で広がっている.このような状況を踏まえ,今回の改訂では,前回同様リウマチ診療をより身近なものとして捉えていただけるよう,診断や治療においてわかりやすい構成を心がけ,新規治療薬の解説に加え,挙児希望患者や困ったときのDMARDs選択のupdateを行った.治療推奨やガイドラインにおいてはACR2015およびEULAR2019関節リウマチ治療推奨やACR/SPARTAN2019および2016年ASAS/EULAR体軸関節脊椎関節炎治療推奨を含む最新情報を盛り込んだ.さらに生物学的製剤の選択肢が,RA以上に広がってきている乾癬性関節炎の治療推奨として,GRAPP2015年,ACR2018年および,EULAR2019 updateを掲載した.また,整形外科手術エッセンスのupdate,さらにエビデンスでは図ることが難しい治療効果も重要であり,コミュニケーション法や東洋医学(漢方)のエッセンスも紹介し,診断法においては非侵襲的に行える関節超音波検査についても要点をわかりやすく解説している.
関節リウマチおよび乾癬性関節炎を含む脊椎関節炎の診療のグローバルスタンダードな治療をわが国の患者さんにも幅広く提供できるように,リウマチ膠原病を専門とする内科医および整形外科医ばかりでなく,皮膚科医や一般臨床医にも最新の情報をお伝えすることができれば幸いである.
2020年7月
岸 本 暢 将
岡 田 正 人