序
21世紀の最初のAnnual Review神経をお届けする.本シリーズも16年目を迎え,編集委員も大幅に変り,新しい体制によって編集された第1号である.これまでの高い評価の特徴を維持し,さらに神経科学と臨床神経学の新しい成果を医学の進歩に結びつける方向で幅広いテーマを選んで頂ける専門家に加わって頂いた.
本書の主旨は,重要なトピックスについて新しい進歩をreviewすることにあるが,テーマによっては,歴史的経過も記載される.特に新しく確立された疾患については,本書によって現在までの研究の流れを把握できるように配慮した.
本書の大項目は,基本的に従来の分類を踏襲したが,新たに診断基準,高次脳機能,社会医学を追加あるいは変更した.本書を続けて読んでこられた読者はお気づきであろうが,基礎神経科学,検査,そして特に治療においては,他の疾患分類に含まれてよいものが掲載されることがあり,また特定の疾患に限られた検査や治療は疾患の項に掲載されることもある.
近年の神経疾患の診断,治療,そしてそれにかかわる基礎科学の進歩は,分子生物学の発展に負うところが大きい.本書では疾患関連遺伝子の発見が目覚ましい神経変性疾患について,数年毎に新しい発見と神経変性のメカニズム解明につながる意義を解説してきた.神経学は,遺伝子からこころの問題,社会学までの広い領域をカバーする学問によって,はじめて臓器移植,遺伝子治療から介護保険,難病のケアまで広い範囲の医学,福祉の実践に応えることができる.
また脳科学の進歩における臨床の役割は,近年従来になく大きなものとなった.認知,判断,行動,情緒などにかかわる高次脳機能の解明は,神経心理学,脳画像の進歩なしには考えられない.そして機能的脳外科における深部脳刺激の効果と,それに関連した各種中枢性運動障害の基底核ニューロン活動の記録は,基底核-大脳皮質連関の機能とその障害の解明に,従来想像もできなかった知見をもたらしている.
本書が神経疾患研究の進歩と,脳機能の解明に,まさに脳の世紀とよばれるにふさわしい広範な領域の知見をカバーすることにより,臨床神経の専門家と関連領域の医師および神経科学の専門家にとって貴重な情報源となることを期待したい.
2001年1月
編集者一同