序文
認知症は高齢者の要介護となる原因の第1位にあげられ,健康寿命の延伸には認知症への対策が最も大きな課題となります.2012年に本邦で行われた大規模疫学調査によれば,認知症高齢者数は約462万人と推定され,2020年の現在では約600万人,そして2025年には700万人を超えるであろうと推測されております.これは65歳以上の高齢者の5人のうち1人に相当します.さらに,前段階の軽度認知障害もほぼ同数いるものと推定されるため,3人中1人が認知症またはその前段階ということになります.したがって,認知症は誰でもが関わりをもつ最もcommonな疾患ということになり,医療従事者としては避けてとおることができません.
認知症の中で,最も多いのがAlzheimer型認知症ですが,その他にも様々な原因疾患が知られており,それぞれ症状や経過に違いがみられます.したがって,治療やケアもそれぞれ異なってまいりますので,正しく認知症を理解し,早期に診断,鑑別を行い,適切な対応が求められます.
本書は,認知症の総論につづき,各論では認知症をきたす代表的な疾患(Alzheimer型認知症,血管性認知症,Lewy小体型認知症,前頭側頭型認知症,その他の認知症),そして最後に認知症の政策,制度,に分けられて構成されております.臨床の現場で疑問に答える形式で,最新のトピックスも加えられ,図表を多く用いてコンパクトにまとめられております.はじめて認知症を学ぶ医学生や看護学生から,実際に認知症者の診療や看護,介護にたずさわる臨床医,研修医,看護師,薬剤師,その他の医療スタッフなど多くの方々にご活用いただけるものと思います.
本書を通じて,認知症診療のスキルアップにつながることを切に願い,多くの患者さんの診療に役立つことができれば幸いです.
2020年7月
東京医科大学高齢総合医学分野特任教授
南東北グループ総合東京病院認知症研究センター長
羽 生 春 夫