はじめに
学会発表や論文発表などの学術活動の場での互いの情報交換のためには共通して使用できる標準用語が不可欠である.下部尿路機能およびその障害に関する標準用語としては,International Continence Society (ICS,国際禁制学会)が2002年に標準用語基準1)を発行し,本学会が2003年にその日本語訳の用語基準2)を発刊しているが,その後今日まで改訂されずにいた.
ICSは,その後,いくつかのカテゴリーに関して標準用語報告書を出版し,国際的に共通して使用できる標準用語を提示している.今回,その中から主なものを選出して,原則としてそれらに準拠した一冊の標準用語集にまとめることになった.対象とする報告書としては,比較的最近発刊されており,重要度の高いと思われる,Adult Male Lower Urinary Tract Symptoms(LUTS),Adult Neurogenic Lower Urinary Tract Dysfunction(LUTD),およびNocturiaに関する3編3-5)を選出し,それらにInternational Children's Continence Society(ICCS,国際小児禁制学会)が作成したChildren and Adolescentsに関する1編6)を加えることとした.本標準用語集の作成目的は,下部尿路機能障害の診療・研究に携わる本邦の専門家が,学術活動の場で共通して使用できる標準用語を提供することにある.ICSならびにICCSの標準用語に原則として準拠することよって,国内外を問わず共通して活用できるものを目指して作成した.そのため,日本泌尿器科学会(JUA)や日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会(JSSCR)などの関連学会が編集した用語集や本学会ならびにJUA,日本小児泌尿器科学会などの関連学会が発刊している診療ガイドラインや手引きで用いられている用語との整合性は,ある程度考慮したものの,必ずしもそれと一致するとは限らない.
なお,「排尿症状」,「排尿(機能)障害」という用語は,「尿排出症状」,「尿排出(機能)障害」のみを指す“狭義の排尿症状,排尿(機能)障害”を意味するが,一般に広義では,「蓄尿症状」,「蓄尿(機能)障害」を含む“下部尿路症状,下部尿路機能障害”を指す慣習がある.そこで,本用語集では,このような混乱を避けるため,症状,機能,機能障害を修飾する用語としては,誤解を生みかねない「排尿」という用語を単独で用いることを避け,「排尿[時]症状(尿排出[時]症状)」,「尿排出機能(排尿機能)」,「尿排出機能障害(排尿機能障害)」と併記した表記を使用することとした.
ICS標準用語報告書の中では,既出の報告と区別するために,既出の報告を変更したものを“CHANGED”(変更),新しく作ったものを“NEW”(新規)として記載されている.それに倣って,本書でも,2002年に発刊されたICS標準用語基準を基に,「変更あり」には,「新規」にはの記号を用語の後ろに付記した.
文献
1)Abrams P, Cardozo L, Fall M, et al; Standardisation Sub-committee of the International Continence Society. The standardisation of terminology of lower urinary tract function: report from the Standardisation Sub-committee of the International Continence Society. Neurourol Urodyn. 2002; 21: 167-78.
2)本間之夫,西沢 理,山口 脩.下部尿路機能に関する用語基準:国際禁制学会標準化部会報告.日排尿機能会誌.2003; 14: 278-89.
3)D'Ancona C, Haylen B, Oelke M, et al; Standardisation Steering Committee ICS and the ICS Working Group on Terminology for Male Lower Urinary Tract & Pelvic Floor Symptoms and Dysfunction. The International Continence Society (ICS) report on the terminology for adult male lower urinary tract and pelvic floor symptoms and dysfunction. Neurourol Urodyn. 2019; 38: 433-77.
4)Gajewski JB, Schurch B, Hamid R, et al. An International Continence Society (ICS) report on the terminology for adult neurogenic lower urinary tract dysfunction (ANLUTD). Neurourol Urodyn. 2018; 37: 1152-1161.
5)Hashim H, Blanker MH, Drake MJ, et al. International Continence Society (ICS) report on the terminology for nocturia and nocturnal lower urinary tract function. Neurourol Urodyn. 2019; 38: 499-508.
6)Austin PF, Bauer SB, Bower W, et al. The standardization of terminology of lower urinary tract function in children and adolescents: update report from the standardization committee of the International Children's Continence Society. Neurourol Urodyn. 2016; 35: 471-81.