はじめに
2019 年秋、NHK ホールで山下達郎のコンサートをみた後の渋谷のギリシア料理屋で、結婚式を3 カ月後に控えていた後輩のJ 君(小児腎臓内科医)と食事をしていたときに彼が言った「Na 異常って補正の計算式はあるけど、結局うまくいかないですよね」という言葉が心に引っかかっていました(ちなみに、J 君はとても優秀です)。
ちょうどその頃に「水・電解質の本を書きませんか?」というお誘いがあり、一肌脱ぐことにしました。
水・電解質が苦手な若手を見ていて、「基本ができていない!」ということに気づきました。難しい各論は知っているけれど、「細胞内液と外液の比率は?」「ブドウ糖を100 mL 点滴すると、体の中ではどのように分布する?」なんて基本的なことに答えられない人が結構いるのです。
この本では、難しい理論の話は後回しにして、必ず知らなくてはいけない知識と、診療上どうアプローチするかを繰り返し解説しました。ここに書いてあることができるようになれば、臨床上のアプローチが上手になり、既存の水・電解質の名著をよりスムーズに理解できるようになると思います。
本書をぜひ読んでいただきたいのは、下記の方々です。
・臨床に出る前の学生
・初期研修医
・「 細胞内液と外液の比率は?」「ブドウ糖を 100 mL 点滴すると、体の中ではどのように分布する?」と訊かれて1 秒以内に答えられない人・「 低 Na 血症を見たときにまずしなくてはいけないこと」が2秒以内に言えない人
これらのうち1 つでも当てはまる人は、ぜひ手に取ってみてください。
水・電解質は、医師の基本中の基本だと思います。どんなに専門性の高い仕事をしていたとしても、患者さんを診ている限り、点滴をしないということは少ないでしょう。
時代は変わっても人間の身体の組成はそう簡単には変わらないので、この基本はいったん身につけばずっと使えます。この機会に基本的な知識を整理して、臨床に役立ててください。
今回は、皆さんのパートナーとしてカニ助とカニ子も一緒に勉強していくのでよろしくお願いします。
本書を書くにあたり、声を掛けてくださった中外医学社の岩松宏典様、校正を担当してくださった上村裕也様、カニ助、カニ子に命を吹き込んでくださったイラストレーターの平井きわ様に、この場を借りて感謝を申し上げます。
2020 年 春
長澤 将