巻頭言
皆さん,こんにちは.
2020年(令和2年)となり早々に『心電図の読み“型”教えます! Season 2』をお届けすることができました.自身の著作としては8冊目,振り返ってみればボクの最初の著書が2010年発刊ですから,丸十年,日々の苦労は尽きませんが,何とか同じ業界で頑張れていることを誇らしくも思います.
本書は,2019年(平成31年)3月,日本循環器学会学術総会に合わせて出したSeason 1の続編で,株式会社ケアネットのWebサイト(http://www.carenet.com)にて2019年3〜9月までに公開した,
『Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター』(通称:“ドキ心”)
の計14回分のレクチャーの内容を土台に加筆修正したものです.前作同様,Web公開の準備段階から出版を意識して作成した読み応えのある12章構成となっています.
前置きはこれくらいにして,ここ何回かの著作で定着してきた,「巻頭言」まで“完全セルフプロデュース”,これを今回もやってみます.
前述のように,本書は『心電図の読み“型”教えます!』シリーズの第二弾であり,著者としてはSeason 1から読んでいただきたいというのが本心ではあります.というのも,“〜法”や“〜の法則”といった,他書には登場しないオリジナル読解法や説明に用いる独特な“言い回し”(Dr.ヒロ語録)が登場するからです.
前作で扱った内容については,“ご存知の”的に登場しますが,編集・校正の過程でSeason 2から本シリーズを手にしてくれた読者の方への配慮が必要だろうということになりました.ボクなりのアンサーは,「Dr.ヒロ流!心電図判読メソッド」として端的にまとめたページを作成することでした.もし勉強する途中で「何これ?」と感じる部分があったら,是非こちらを参考にして下さい.
はじめの2つの章,Ch.1とCh.2では,ふつうの教科書ではあまり取り上げられることのない,QRS波形の名付け方について扱いました.「〜型」と呼ぶ方法ですね.僕自身,これがキッチリできるようになって心電図波形に親しみが増しました.
R波を基軸に,陰性波をどう呼ぶか,複数あったり,高さ・深さが小さいときにどう表現するか知っておきましょう.また,正常波形が「右室パターン」,「左室パターン」の2つのアレンジである点,脚ブロック波形の診断ポイントについても述べています.これらの基本的な命名ルールに加えて,Q波や波形の“ギザギザ”(QRS fragmentation)の病的意義についても扱ったので参考にして下さい.
Ch.3とCh.4では「ST部分」について扱いました.といっても,多くの皆さんが予想する心筋虚血に関する話ではなく,よりベーシックな点を解説しています.
Ch.3前半では,ST計測の手法に続いて,オリジナル語呂合わせの“スタート”の部分でST偏位を漏れなく拾い上げるための目の動かし方(“ジグザグ運動”)を学びます.そして,後半は正常亜型と見なせる,若年男性を中心に認められる右前胸部誘導のST上昇と,それに関連して性別や年齢を考慮したSTEMI(ST上昇型急性心筋梗塞)の診断基準についても触れました.これは臨床的にも重要な点であり,“ニッコリ兄さん”や“イチゴ(苺)”の登場するボク流の覚え方にも注目です.
Ch.4のテーマは「男女におけるST部分の違い」としました.言ってみたら,これも「性差医療」の一つで,成因には性ホルモンの関与が大きいともされています.この違いを知ることは,心電図だけを見て患者さんの性別を“当てる”ためではなく,冠動脈疾患,特にSTEMIの診断精度を高めるために知っておくべき内容です.他書ではあまり触れられることはありませんが,細かな事項を暗記せずとも,概略を知っておくと良いでしょう.Ch.3とも関連した内容ですが,男女差が現れやすいV1〜V4誘導に注目し,J点とST部分の“傾き”(ST角度)で3つの「型」(パターン)に分類しています.特に加齢とともに男性のST部分が推移してゆく様子は知っておいて損はなく,当然ながら前章で扱った若年男性の猛々しいST上昇もこの一部分として理解することができます.
Ch.5は一部Season 1の内容も含みますが,本書の前半に扱った内容の確認です.忙しい日々の“すき間”にクイズでもどうぞと気軽に作ったのですが,実は2019年にドキ心で扱ったレクチャーの中で最も,しかもダントツに閲覧数が多かったコンテンツでした.これを知り,実践的な症例問題を通して「心電図の読み“型”」を伝えることの重要性を認識するとともに,もっと“現場のニーズ”に応えたいと思いました.「思い立ったら“すぐ”実行」がボクのモットーですので,一気呵成に準備して2020年初頭より日本医事新報にて連載開始したばかりの『すき間ドリル! 心電図〜ヒロへの挑戦状〜』企画につなげることができました.数千にも及ぶ“杉山ライブラリー”の心電図を用いてどんどん発信してゆくつもりですので,ドキ心と同様にこちらもご愛読下さい.…って,ちゃっかり宣伝してしまった(笑).
Ch.5で扱えなかった内容に関しては,Season 1同様,章末クイズ(Quiz)を随所に入れ込みましたので,知識が定着しているか確認してみて下さい(Ch.2, 7, 9, 11).
Ch.6〜Ch.10までの後半戦は「期外収縮」を扱っています.特に「心室期外収縮」(PVC)に重点を置いています.5つもの章を割いたのは,循環器専門医でなくともキッチリ診断できるべきとボクが考えている二大不整脈のうち,単発性の不整脈として最も多いものが「期外収縮」だからです.ちなみに,もう一つは「心房細動」(AF)で,持続性の不整脈における“王様”です.こちらはすでにSeason 1で解説しています(☞[Season 1]Ch.4).
Ch.6では規則正しい洞収縮の連続から突然タイミングが狂う様(さま)を“しゃっくり”に例え,「補充収縮」との違いを解説しました.「期外収縮」はどちらかというと“おせっかい”なイメージがある一方,「補充収縮」は“安全網”で,放っておくと心臓が止まってしまうのを防いでくれる“ありがたい”存在だという認識を持ちましょう.また,基本調律が心房細動におけるPVCについては,鑑別として「(心室内)変行伝導」という難しい話もはさみましたが,こちらは頭の片隅に,ひとまずはPVCをきちんと診断しましょう.
Ch.7は,PVC心電図の満たす性質を扱います.洞周期に干渉しない性質を“上品さ”と言ったのは,たぶんDr.ヒロがはじめてじゃないかな!?
「連結期」や「回復周期」(休止期)は言葉としてはややとっつきにくい気もしますが,これらの名称よりも実波形でどの部分に相当するものかを知って下さい.
ボク自身はまだまだ若手・一兵卒のつもりでいますが,医師になりたて,またはレジデント真っ盛りの年の若い先生方に“ニバイニバーイの法則”の背景(TVコマーシャル)がどこまで伝わるか,若干心配しております(笑).こんなこと言ってること自体がオッサンなのかな.
もう一つ本章に登場する『線香とカタチと法被が大事よね』という語呂合わせについて.ドキ心の原稿で当初ボクが出していたのは『線香はカタチとハッピー(happy)が大事よね』だったのですが,ケアネットの土井女史が見事にアレンジを加えてくれました.今や法被・ハチマキの“お祭りガール”のイラストの方がシックリくるようになりました(ちなみに“部屋とYシャツと私”のオマージュだそうです).
これらを意識することで,おおむね期外収縮の起源が「心房」か「心室」かを区別できるでしょう.その意味では,このCh.7は非常に重要な章だと思います.
そして,Ch.8〜Ch.10で扱ったのは,「ラダーグラム」です.なぜか最近の教科書ではほとんど取り上げられませんが,一般的に難解とされがちな不整脈心電図の“見える化”に役立ちます.専門医にも敬遠されがちな「心臓電気生理学」の入門とも言える「ラダーグラム」は,循環器の世界を本格的に学び始めたレジデントの先生方に是非とも習得して欲しい内容です.
すべての基本である洞調律(収縮)のラダーグラムに関しては,Ch.8で解説した“地下4階”建てよりは,Ch.9の“地下3階”からなる簡易版がふだんはオススメですが,洞結節あたりの刺激伝導を考えることで見えてくることもあります.「心房期外収縮」(PAC)の“茶々入れ”の結果,回復周期(休止期)が「非代償性」になること,「回復周期>洞周期」,「PACをはさむR-R間隔<2×洞周期」…闇雲に暗記しようとしても挫折しそうに感じたり,「<」か「>」かどちら向きかわからなかったりしそうです.かつてのボクも同じでしたよ.
でも,大丈夫.ラダーグラムを通して“水面下”,いやもとい“地下”の世界で生じている電気の流れを理解すれば,もはや覚える必要などないことがわかってもらえたらいいな.
そして,いよいよCh.10では,PVCの“上品な”性質,つまり“ニバイニバーイの法則”がなぜ成り立つのか,これを“トリセツ(取扱説明書)”としてラダーグラムを用いて解説しました.「不応期」という聞き慣れない言葉も,心筋の“昼寝”で理解すれば良いでしょう.ただの“茶々入れ”と言われてしまうPAC(Ch.9)と,他人(洞結節)に干渉しない“大人な振舞い”ができるPVCの違いを理解できたら,『線香とカタチと法被が大事よね』とあわせて,もはやどんな心電図であっても,期外収縮の起源がどこかを言えるようになっているアナタがいるはずです.
そして,Ch.11は“検脈法”と名付けたオリジナルの心拍数計算法(☞[Season 1]Ch.3)の改良計画(笑).端っこに“見切れた”QRS波をどうカウントするか…こんなこと誰も教えてくれませんでしたが,ひょんなことからのボクの“気づき”がキッカケになりました.多くのケースでは“検脈法”(原法)で十分ですが,個人的には,徐脈の心電図では“新・検脈法”を用いて心拍を丁寧に拾うことで心拍数計算の精度が向上すると思っています.100枚の心電図を使って実際に“やってみた”的な検証をしたのは,ある程度の客観性を持ってお伝えしたかったからです.
そして最後.これはオマケですが,学生時代から心電図に悩まされ続けてきたボクが,お恥ずかしながら,どのように弱点を克服してきたのか語った“自伝的エッセイ”です.いつしかWeb上で閲覧不能になっていた『心電図の壁』を復刻し,こうした書籍の一部として残せたことは嬉しいですし,皆さんが心電図とうまく付き合っていくためのヒントとして,何かを感じてもらえたら“ポイント2倍”です(笑).
だいぶ長目になったため,最後にお世話になった方々へ謝意を表して「巻頭言」を終えたいと思います.
本書のすべての元になった“ドキ心”は,ボクの原稿の編集・校正から公開までをケアネットの土井舞子女史が連載開始時から変わらず支えてくれています.自分としては“渾身”のエピソードがズバッとカットされたりして時に悲しくもなりますが(笑),彼女の目を通ることで,一般的に取っつきにくい心電図レクチャーが,実に魅力的な内容に変身するものだなぁと毎回驚かされています.
出版元の中外医学社には,今回も多分にお世話いただきました.企画部 鈴木真美子女史は,Ch.12の『心電図の壁』エッセイにも登場しますが,『心電図のみかた,考えかた』から数えて5冊目,今回も企画から各種の渉外,細かな面も含めマネージして下さいました.ボクの循環器・心電図・不整脈に関する執筆活動を発展させる“場”を作ってくれた恩人の一人です.また,編集部の中畑謙氏の“コダワリ”の作業が今作でも光っていることを特筆しておきましょう.Season 1では,出稿から完成まで3カ月以内という,通常は考えられない急ピッチでの作業を強いてしまいましたが,今回はSeason 1で培ったノウハウをもとに,Season 2では,すきのない洗練された仕事をしてくれました.図表やレイアウトなどDr.ヒロの心電図講義が魅力的なスタイルで提供できているのも中畑“現場監督”のおかげだと思います.
また,他社にはなりますが,医学書院の面々にも『心電図の壁』(Ch.12)の件ではお手間をとらせました.とくに医学雑誌部 坂元祐太氏に取り次いでいただき,出版総務課の緒方美穂女氏にお世話いただきました.医学書院では,編集部 中根冬貴氏にお力添えいただいて2019年に出した『熱血講義!心電図:匠が教える実践的判読法』が好評いただいておりますが,それとは異なるスタイルでもDr.ヒロのレクチャーの魅力をお届けしたいという熱意が本書を作っていることも付しておきます.
そして,家族,親戚の支えにも感謝.内気なボクが,唯一心を解放して接せられる存在だと思っています.こればっかりは実際にやった人でないとわからないと思っていますが,ただでさえ多忙になりがちな循環器医が“作家”として執筆業を営むには,プライベートの時間はもちろん,他にも多くのモノ・コトを削らざるをえません.
時に(いつも?)多大な“迷惑”ばかりかけていますが,“心電図の伝道師”として天命と信じる教育業・作家業を皆やさしく励ましてくれます.東京・浅草の両親にもなかなか会いに行けませんが,また一冊,粘り強く仕上げた“勲章”を素直に褒め,喜んでくれる存在は他にはありません.
そして,また,内科医,循環器医,不整脈医…いろいろな場面,立場で仕事をしますが,常に目前にいるのは患者さんです.“患者が医師を育てる”—その言葉に間違いはありません.診療技術はもちろん,研究や教育,そして新しい挑戦まで…すべてのチャレンジをボクに与えてくれていると考えるようにしています.
これからも,より多くの患者さんに信頼してもらえる医師になれるよう,医道に邁進する所存です.
2020年2月 令和最初の冬 雪化粧した京都修学院より
杉山裕章