監修にあたって
この書を手にしてあなたは,シミュレーション教育を含め医学医療教育に興味を抱いておられる,または実践されておる医療従事者の一人と思います.
現在の医学医療教育においては,医学生から多職種の医療従事者教育にまで幅広い分野でシミュレーション教育の占める割合が増しています.また,日本医学教育評価機構が認める医学生教育にはシミュレーション教育が必須となってきています.しかし,シミュレーション教育を行うにも,その教育法を学んだ医師,医療従事者はまだ少なくこの書の出演者のように試行錯誤しているかたが多いのではないでしょうか? あなたはどうですか? 教育に自信がありますか? そもそも,医師も含めた医療従事者養成のプログラムでは教育学は学ばない.そのため,教育手法を学ばない医療従事者にとって効果的な教育は難しいのは当然なのです.教育の重要性を再認識したかたのなかには,あらたに医療教育学を専門教育卒業後に履修するかたもおられます.
この本の企画・制作を行った駒澤伸泰先生は医学教育,シミュレーション教育,多職種教育において若手医療教育者を牽引している医師であり教育者です.駒澤氏が自ら行ってきた,また作成してきた多くのシミュレーション教育の経験をもとに書かれており,そのため理解しやすい優しい文章,文脈で構成され読みやすい書となっております.筆者の意図通り,この書を読むこと自体が頭の中でアクティブシミュレーションを行っていることになります.読者自身がこの書中の人物に加わり,登場人物とともにシミュレーション教育を考え,より効果的なシミュレーション教育が実践されることを期待します.
2018年12月
東京女子医科大学集中治療科
野村岳志
プロローグ
現代の医療者教育においてシミュレーション教育は必須とされています.しかし,「教育資源を投資した割には,教育効果が上がっていない」,「学習者や周囲の教育者の理解が得られていない」ということはありませんか?
卒前教育は,高価なシミュレーターやシミュレーションセンターがあるのに形骸的な使用しかなされていない,卒後教育では,制約された時間と教育資源へのアクセスの悪さが問題となっているのがしばしば見られます.
皆さんがシミュレーション教育を活用したいと考えていても,その意義と方法論を理解していないと円滑に進まないかもしれません.さらに,成書を紐解いてみても,難しい横文字やイメージしにくい教育概念が多いかもしれません.
この本は,会話形式で,シミュレーション教育について気軽に学び,その意義と必要条件,教育設計とフィードバックなどについてできる限り実践的に記しました.対象としては,シミュレーション教育専門の方ではなく,シミュレーション教育法を活用しようとする全ての医療関係者です.できる限り,即時に皆様が行われる教育にプラスになるようにまとめました.
全体の流れは下記の通りです.この流れを元にシミュレーション教育を見直していただければ必ず教育効果は上がります.
ステップ1 シミュレーション教育を理解しよう
Chapter 01 シミュレーション教育とは何か?
Chapter 02 シミュレーション教育の教育工学
Chapter 03 シミュレーション教育の流れ
事前準備⇒ブリーフィング⇒デブリーフィング
ステップ2 シミュレーション教育を作ってみよう
Chapter 04 シミュレーション教育の学習目標を定める
Chapter 05 シミュレーション教育の評価
Chapter 06 シミュレーション教育におけるデブリーフィングの意義
Chapter 07 シミュレーション教育における教育者の役割
ステップ3 シミュレーション教育の可能性
Chapter 08 医学教育の中におけるシミュレーション教育
Chapter 09 医療安全のためのシミュレーション教育
Chapter 10 多職種連携教育のためのシミュレーション教育
各論編
Chapter 11 部署内で行う二次救命教育
Chapter 12 PBLDで学ぶ医療倫理・医学問題トレーニング
Chapter 13 医療安全のためのPBLD
Chapter 14 産科心肺蘇生訓練のためのin situシミュレーション
物語は,医療総合シミュレーション室の黒澤先生が,医学教育センターの林先生と病院看護部の嘉納先生,薬学部の北村先生から相談を受けるところから始まります.