序
わが国で透析治療を受けている患者は現在では16万人を超え,年々増加傾向を示している.この理由は糖尿病による末期腎不全患者あるいは高齢者や高血圧による腎機能障害を原因とした末期腎不全患者が増加していることが原因である.この結果,新規に導入される透析患者は年々高齢化し,さまざまな合併症を伴うことになる.良好に透析治療を管理するだけでなく,QOLの上からも大きな問題となっている.
腎不全は大きく急性腎不全と慢性腎不全に区別されるが,いずれも腎機能が廃絶すれば最終的には尿毒症という病像が認められる.腎不全-尿毒症という多彩な症候の病態を理解する上で膨大な知識を必要とする.末期腎不全では尿毒症という共通の病像があるが,これに原因疾患に特有の病像や加齢に伴った病態が加わることになる.さらに透析治療に導入され,慢性的に継続されると治療自体による特別な合併症や病態が加わる.このように腎不全だけの病像ではなく,複雑に修飾された病像や病態が認められるわけである.したがって,透析治療の管理上,腎不全から透析治療における合併症とその病態の基本的な知識を理解しておくことは,透析医療関係者には必須の事柄であるといえる.
本書では,腎不全の病態を中心に,さまざまな合併症についての概念と治療の指針を初心者にも理解できるように簡潔に概論した.透析療法による合併症を含めて,日々の臨床の場でも活用できるように,図表を多用し理解を容易にすることに努めたつもりである.年々進歩する透析治療の最新の知識についていくには並大抵のことではないが,いい透析治療をめざす上では必要なことである.初心者にとってこのような膨大な知識を身に付けることは本人の努力もさることながら,教育担当のスタッフにとっても多大な労力が必要であり,本書が初心者教育に少しでも役立つことを希望する.
平成9年6月 父の命日に
望星病院 北岡建樹