序 文
中外医学社から,「爪の本を出版したい」とのお話をいただいた時に,真っ先に頭に浮かんだのが,東先生の『爪 基礎から臨床まで』(金原出版)という爪疾患のバイブルのような素晴らしい本が,すでに出版されていることだった.東先生の本は,爪の基礎的な生理学から各種疾患までを全て網羅している.そのような立派な本が存在しているのに,新たに爪の本を刊行する意義はあるのだろうか,と心配な気持ちがあった.しかし,すでに教科書的な本が存在していても,もっと簡単に手に取って読める実用書の需要はあるのではないか,臨床にすぐに役立つことに特化した本なら作る意義はあるのではないか,と考え直した.
まずは臨床の現場でよく遭遇しなおかつ治療に苦慮する疾患として,巻き爪・陥入爪があり,これらについて詳しく書かれた本にしたいと考えた.その治療法にはさまざまな考えかたがあるため,複数のエキスパートの先生方に執筆をお願いした.その内容には,異なる意見が載っていることもあったが,全てそのまま掲載して,その代わりに私が総括としての文章を書かせていただいた.5人の先生に6章にわたって執筆していただき,巻き爪・陥入爪だけで半分近いページを割くことになってしまった.
その他にも臨床の場で非常に大事な知識にスポットを当てて章立てした.靴は爪疾患と密接な関連があるにもかかわらず,そのことに触れられた成書は少ないため,靴についての章を設けた.最も基本的な爪の切りかた,フットケアも実際の臨床の現場で重要である.爪の腫瘍については知識もなければ臨床の場では困ることになるであろう.近年爪白癬の治療薬が複数開発されていて,最新の知見を書いていただいた.また東先生が報告された,「後爪郭部爪刺し」という疾患は知らなければ見過ごしてしまうため章を設けたが,実はこの本のゲラを手元に置いていたときちょうどこの疾患の患者が受診し,患者にゲラに載っている写真と模式図を見せながら説明するという機会に遭遇し,重要性を実感した.爪のダーモスコピー,全身疾患と爪などいずれも臨床家にとってすぐに役立つ知識だと思われる.それらのことについて,爪疾患の専門家の先生方に執筆をお願いし,診療の即戦力になる本として仕上がったと考えている.
実用書として本書が臨床家のみなさんの役に立つことを願っている.
2018年5月
これえだ皮フ科医院 院長 是枝 哲