はじめに
講義,講演会,学会などで話す機会がありますが,ひと通り話し終えたら,司会者あるいは私自身が,聴衆の方々に向かって「質問はありませんか」と尋ねます.たまに活発に質問が出ることもありますが,ほとんどの場合は「し〜ん」としたままです.司会者が再度質問を促しても,下を向いたままの方が多い.
しかし,演壇を降りようとすると,“待ってました”とばかり何名かの方が寄ってきて,たくさん質問が来ます.もちろん,皆の前で尋ねるには個人的すぎる事柄(ご自身の病気のご相談など)であれば仕方がないのですが,多くの場合は非常に良い質問をされます.
なぜ,そういう質問をコッソリとするのでしょうか.自分だけ賢くなりたいのでしょうか.それとも,そんな“しょうもない”質問をほかの聴衆に聞かれると恥ずかしいからでしょうか.
皆で考えれば,本人だけでなく,もっと皆の勉強になるのに.講演者も非常に勉強させてもらえるのに.
私はかつてアメリカで勉強していたことがありますが,ある知り合いの先生が講演をしました.非常に示唆に富む内容でしたので,質問の嵐が起こります.質問どころか,質問者が自分の意見や経験を滔々と述べる,ということも普通の光景です.
さて,それが終わっていったん講師が壇を降りたら,講演はもう「終了」です.もちろん“質問タイム”も終わったということです.私は一度そこでモソモソ聞きに行ったことがあるのですが,この講師に,こう叱られました.
Yoshi, asking makes one appear foolish, but not asking makes one foolish indeed.
同じことは皆さんもよく言われたのではないでしょうか.「聞くは一時の恥,聞かぬは一生の恥」と.
大衆の面前で,というのが恥ずかしければ,本書にどんどん質問をぶつけてください.本書とディスカッションをしてください.
2017年春 入江祥史