はじめに
近年,臨床診療の場では根拠(evidence)が求められ,EBM(Evidence-Based Medicine)という言葉が随所に認められるようになりました.腎臓病の治療に関しても例外ではありません.また,EBMのEには,“experience(臨床経験)やeconomy(医療経済)といった意味も含まれるのではないか”,との意見を耳にすることがあります.EBMは,「目の前の患者さんに対して,その疑問を明らかにしたうえで,それに関連する現在入手できる最新情報を踏まえ,さらにその患者さんの置かれている状況を勘案して,その患者さんにベストな処方を出すための行動指針である」と定義されています(EBM循環器疾患の治療 2001-2002,中外医学社).この定義に照らしてみると,EBMでは医師の十分な専門技能・臨床経験(experience)を前堤として,患者さんの置かれている立場・経済状況(economy)・価値観を参考にしつつ,現在入手できる最新情報を駆使した医療を行うことが求められているものと思われます.最近では,患者さんや家族の皆さんがインターネットやテレビ・ラジオなどのメディアから多くの最新情報を得られるようになりましたので,EBMに則らない旧来の「勘に頼ったさじ加減の医療」は信頼を失っていき,時には医療訴訟にもなりかねないとの声も聞かれます.したがって,このEBMは今後益々求められていくものと思われます.
「EBM腎臓病の治療 2003-2004」は中外医学社の「EBM循環器疾患の治療 2001-2002」と同趣旨のシリーズの一冊として刊行されました.まず,EBMの総論を記載していただいたうえで,腎炎・ネフローゼ,尿細管・間質性腎障害,高血圧と腎障害・腎硬化症,急性腎不全,慢性腎不全,電解質異常,透析療法,移植の8項目に大別しました.編者らは,日常疑問に思っている点を中心に設問(Q)を取り上げ,腎臓病治療の各分野でご活躍中の先生方に現時点でのEBMを記載していただきました.記載しにくいQも多く多大なご迷惑をおかけしましたが,諸先生のご協力により刊行にこぎつけることができ,編者として大変嬉しく思っております.こうしたEBMは日々変化するものであり取り上げる設問を含め,今後検討を重ね版を重ねていくことができればと願っています.
本書を腎臓専門医のみならず,臨床研修医をはじめ臨床に携わる多くの先生にお読みいただき,忌憚のないご意見をいただければ望外の喜びです.最後に本書の刊行にあたり,ご尽力いただきました中外医学社の皆様に厚く御礼申し上げます.
2003年 初春
編 者