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脳血行再建術 2版
寳金 清博 編著
B5判 200頁
定価19,800円(本体18,000円 + 税)
ISBN978-4-498-02951-4
2016年04月発行
在庫あり
改訂にあたって この度,本書「脳血行再建術」の大幅な改訂を行った.本書の初版は,2000 年に発刊された.従って,16 年ぶりの改訂となった.この16 年間で,筆者らの初版時の小さな望みを遥かに超え,本書は,脳血行再建の外科技術の代表的な教科書として,望外に多くの後輩に利用され,教科書として評価されたことを耳にしている.この点に関して,改めて,本書を企画して下さった中外医学社,そして,愛用してくれた多くの読者に感謝申し上げる. 改訂に際しては,第一に,何よりも改訂の必要性に関して,関係者の間で十分に検討を行った.初版の序文に書いたように,外科の技術は,一旦,確立すると,日進月歩というような速度で変化するものではなく,頻繁な改訂は本来不要である.教科書は,改定は必要であるが,本質的でない小さな個人的なこだわりや些末なことをいちいち追加すべきではない.また,公的な教科書レベルを出版するもの側としては,意義のある改訂を目指すことは,社会的責務であり,趣味的な出版とは一線を画すべきものである. こうしたことを熟慮して,なお,本書の大幅な改訂を必要とした一番に大きな理由は,「血行再建術」を取り囲む状況が,この15 年間に大きく変化したことにある.「脳血行再建」の技術的な進歩という点では,根底を揺るがすような革新はなかった.また,この15 年間の間に,脳血行再建術の適応である脳主幹動脈の狭窄・閉塞による慢性的脳虚血に対する適応が確立された.しかし,このことにより,皮肉にも,結果として,血行再建術の適応範囲は極めて限定されることになった. また,一方で,治療困難な動脈瘤の外科治療では,失敗の許されない血行再建が絶対的要件となり,そうした治療が完全に完遂できることが,「普通」の脳外科医に要求されるようになった.言い換えると,安全な動脈瘤治療を行うために必須の技術として,「脳血行再建術」は,必要不可欠のものとなった.また,頸動脈の狭窄病変に対する血管内外科治療の進歩は,外科治療(内頸動脈血栓内膜剝離術,CEA)の必要性を減ずることはなかったが,外科治療の非常に高い治療成績を要求することになった. すなわち,通常の血行再建術の母数が減る中で,実際に行われる血行再建術の現場では,高い技術的安定性と確実性が要求されるようになった.これは,本来,一定程度の学習効果を前提とする外科治療の技術にとって,大きなハードルとなった. 本改訂では,こうした脳血行再建術を取り囲む状況を考慮して,特に以下の3 点について大幅な改訂・追記を行った. (1)基礎的な技術習得のための記載(Chapter 1, 2) (2)脳動脈瘤治療のためのバイパス技術の記述(Chapter 6, 8) (3)脳血行再建に必要な脳循環の知識の要点(Chapter 9) などである.また,静脈再建は,教科書に記載される内容ではないと判断し,今回は,動脈の脳血行再建に絞り込んだ. 技術の発展は,ある意味,外科医にとっては,過酷な状況を生み出す.例えば,腹部一般外科領域においても,手術器具・器機の進歩により,内視鏡下手術やダビンチ手術が,従来の開腹術を圧倒するようになった.これにより,開腹術の経験値の極めて少ない外科医が,いきなり内視鏡下手術の治療の責任者となることが起こった. 外科の安全な技術の成熟には,当然のことながら,長い試行錯誤の醸成期間が必要であったし,これからも必要である.それは,時間スケールで見ると,10 年単位以上の年余にわたるものであり,外科医のライフサイクルの観点から見ても,複数世代が必要である,しかし,いったん確立すると,その先端技術は独走することになる.その結果,それを学ぶ若い外科医は,その醸成に至った試行錯誤の歴史を追体験できない事態が起こる.実際には,その追体験を望んでも,実際の臨床現場には,その場そのものすら失われてしまう.すなわち,技術の進歩は,教育における重要な歴史的段階をスキップすることを強要することになる.これは,外科技術の急激な発展が,個々の外科医の教育課程の中で,再現されないという本質的な問題を意味している. 脳血行再建術は,この間,大きな技術的パラダイムシフトはなかったという点では幸福であった.しかし,血管内外科治療成績の急速な向上と適応の拡大は,脳血行再建においても,同様の大きな変革が起こる可能性は決して低くない. 本書が,そうした先人の外科医の地道な研鑽のステップを忠実に再現し,その上に基礎力と応用力のある脳神経外科医の教科書として,さらに一段と高いレベルのものとなることを目指した.そして,どんなに新しい技術が導入されても,基本揺るがない外科技術のバイブルとなることと確信している. 平成28 年3 月26 日 北海道大学大学院医学研究科脳神経外科教授 寳 金 清 博
出版にあたって この本を出版する企画が出た当初,約半分は私自身が執筆する計画でしたが,「恥はよくかくけれど,論文はちっとも書かない」怠惰な私に業を切らして,ほとんど全てを宝金先生をはじめとする後輩達が書いてくれました.結果的には,私の稚拙な文章力では表現し得なかったものができ上がった次第です. 私のバイパスの原点は,今は亡き伊藤善太郎先生(前秋田脳血管研究所脳神経外科部長)に始まります.前大脳動脈の血行再建も橈骨動脈を用いた血行再建も全て,伊藤善太郎先生から手取り足取り教えてもらったものです.しかし,症例を重ねる毎に,自分なりの工夫を加えてきたため原法とは随分異なっています.宝金先生は,私が北海道大学で,血管障害班のチーフになった時に最初にチームに加わった,いわば一番弟子です.しかし,実際には彼の海外留学などもあり,ともに仕事ができた期間はごく短いもので,私のやりかたを何度か見せた程度しか,教えた記憶がありません.彼は典型的な「一を聞いて十を知る」タイプの優れた感性のもち主で,8 年前に私が旭川赤十字病院脳神経外科へ赴任以後は,この本に示されているような視覚的に卓越した血行再建を行っています.実際の方法に関しても,現在私が行っている方法とは異なっている部分も多いのですが,そもそも手術方法には絶対的なものはなく,多くは単なる経験法則に基づいていることが多いので,敢えて細部にはこだわらず,現在彼らが行っている方法が記されています. 最後に,私どもの血行再建に関する基本原則をいくつか列挙しておきます.まず,血行再建において最も重要なことは,長期のpatency を得ることです.一方,less invasive という観点から捉えると,遮断時間をいかに短縮するかが最も重要になってきます.また,手術の適応やどのような血行再建を行うべきか? の答えも術者毎に異なっております.卓越した技術を有する術者にとっては有用な方法でも,未熟な術者ではかえって危険が伴うこともあり,全てが相対的であり絶対的なものではありません.私ども臨床医にとって何よりも優先されるべきものは患者の予後であることを,真摯に受け止める必要があります. 血管を吻合する技術そのものは決して難しいものではありません.しかし,有効に運用するには,多くの経験と適切な判断が必要になり,必ずしも容易ではありません.これは血行再建に限らず手術全般にいえることですが,誰がやるかが重要なのではなく,どうやるかが重要なことです.この本に示された血行再建を全ての脳神経外科医がマスターする必要はありません.血行再建が好きでこの部門のスペシャリストを志す若い先生達に少しでも参考になれば幸いです. 2000 年3 月28 日 上山博康
目次 Chapter 1 血管吻合の基本 〈杉山 拓 寳金清博〉 1 バイパス手術の分類 2 バイパスに必要な基本的技術 1.donor の剝離 2.donor の断端形成 3.Recipient の選択 4.準備完了(バイパスにとりかかる前に) 5.動脈遮断 6.動脈切開 7.縫合の手順と基本的技術 8.顕微鏡操作と吻合動作の連動 9.深部縫合 Chapter 2 基本練習と理論 〈杉山 拓〉 1 トレーニングの意義 2 予備的練習 1.針糸の把持 2.運針 3.糸結びの練習 4.顕微鏡操作との連動 5.その他の練習法や工夫 3 実践的練習 1.手術の概要 2.セッティングとラットの頸部解剖 3.前頸正中切開 4.頸動脈の確保 5.喘側吻合 6.Half‒ring bypass 4 手術の実 Chapter 3 中大脳動脈・前大脳動脈領域に対する血行再建術 〈杉山 拓 寳金清博〉 1 浅側頭動脈-中大脳動脈バイパス手術 1.皮膚と浅側頭動脈の外科解剖 2.体位と皮膚切開 3.STA 剝離 4.側頭筋切開と開頭 5.Recipient の選択と手術計画 6.Recipient の処理,バイパスの準備 7.吻合 8.遮断解除と縫合の完成 9.バイパス完成後の閉頭 2 その他の特殊なバイパス 1.静脈を介在した浅側頭動脈‒中大脳動脈バイパス術 2.中大脳動脈‒中大脳動脈吻合術 3 前大脳動脈への血行再建 1.A3‒A3 side to side anastomosis 2.STA‒RA(STA)‒ACA Bonnet bypass Chapter 4 椎骨動脈領域に対する血行再建術〈中山若樹 数又 研 寳金清博〉 1 STA‒SCA 吻合術(浅側頭動脈‒上小脳動脈吻合術) 2 錐体骨先端部削除の活用 3 後大脳動脈再建 1.PCA に対するhigh flow bypass 2.PCA に対するmiddle flow bypass 4 OA‒PICA 吻合術(後頭動脈‒後下小脳動脈吻合術) 1.後頭動脈の解剖 2.手 術 Chapter 5 もやもや病に対する血行再建術 〈数又 研 寳金清博〉 1 間接的血行再建とは 2 間接的血行再建単独による治療 3 複合血行再建術 1.皮切 2.浅側頭動脈の剝離 3.筋肉剝離 4.Burr Hole 5.開頭(STEP 5) 6.Pterion 部の骨切除(STEP 6) 7.硬膜オープン(STEP 7) 8.直接的バイパス(STEP 8) 9.硬膜の折り込み(STEP 9) 10.EDAMS(STEP 10) 11.閉頭(STEP 11) 12.変法 13.追加手術 Chapter 6 Radial artery graft を用いたhigh flow bypass 〈杉山 拓 寳金清博〉 1 橈骨動脈の解剖 2 手術手順 1.橈骨動脈の採取 2.頸部内頸動脈,外頸動脈の露出 3.開頭 4.橈骨動脈の通過ルートの確保(1) 5.橈骨動脈の通過ルートの確保(2) 6.アシストバイパスの作成 7.RA‒M2 吻合 8.ECA‒RA 吻合 9.バイパス完成後 10.閉創 Chapter 7 内頸動脈血栓内膜剝離術(CEA) 〈寳金清博 中山若樹〉 1 頸部の血管外科に必要な表面解剖 2 頸部の血管外科に必要な深部解剖 3 手術手順 1.患者体位,セットアップ 2.皮切 3.広頸筋のカット 4.静脈の処理 5.動脈確保 6.血管遮断と内シャント挿入 7.血栓内膜剝離 8.動脈縫合 9.シャントチューブ抜去,遮断解除 10.終了 4 術後のトラブル回避 1.虚血性の合併症 2.出血性合併症 Chapter 8 脳動脈瘤手術のためのアシストバイパス 〈中山若樹〉 1 幅広の中大脳動脈瘤に対するアシストバイパス 2 中大脳動脈瘤に対するアシストバイパスから分岐血管alteration への移行 3 Radial artery による腕挙げアシストバイパス 1.コンセプト 2.手術の手順 3.腕挙げアシストバイパスの意義 Chapter 9 脳血行再建術に必要な脳循環動態の知識 〈数又 研〉 1 もやもや病 2 脳動脈瘤手術のアシストバイパス 1.血栓化,大型中大脳動脈瘤におけるアシストバイパスについて 2.内頸動脈瘤 文献 索引
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