序 文
2013年に非侵襲出生前遺伝学的検査(NIPT)がわが国でも臨床研究として導入され,それを契機に,さまざまな議論を通じ,出生前遺伝学的検査を受ける妊婦には遺伝カウンセリングが必要であることの共通認識が広がった.そしてその時期に,出生前遺伝学的検査を行う医療者が理解するべき臨床遺伝の知識や,実際に妊婦さんに説明する際に使う資料が欲しいなどの意見があったことから,その情報を整理した『周産期遺伝カウンセリングマニュアル』を2014年11月に発刊した.同書では,産科医療に必要な臨床遺伝の知識を整理してわかりやすく記載したことと,遺伝カウンセリングで使用する資料を付録としたことで,大変ご好評をいただいた.また,2017年4月には改訂版を発刊することができ,多くの皆様に臨床の場でご活用いただいている.
一方,婦人科領域のがん診療においても遺伝カウンセリングは重要である.2013年にハリウッド女優が,遺伝性乳がん卵巣がん症候群に対するリスク低減乳房切除を告白したことから,遺伝性腫瘍に関する関心が高まった.遺伝性腫瘍が疑われる症例における遺伝学的検査やPrecision medicineとしての治療法選択のための遺伝学的検査などが臨床に導入されることにより,この分野は今後大きく発展すると同時に,婦人科医療においても大きな転換点を迎えると予想される.今後,婦人科腫瘍に携わる医師には臨床遺伝学的な知識は必須となり,また,患者にも適切な情報の提供を求められる場面が増えるものと思われる.そこで,『周産期遺伝カウンセリングマニュアル』のノウハウを活用し,その婦人科腫瘍版として『婦人科腫瘍遺伝カウンセリングマニュアル』を発刊することになった.
本書では,第I部の総論で臨床遺伝学的知識をまとめ,第II〜III部の各論で各疾患における最新知識を盛り込んだ.それぞれの分野のエキスパートが,CASEを挙げて具体的に遺伝カウンセリングの中で伝えるべきことを整理して解説するなど,臨床の場で活用しやすいように工夫して作成した.また,遺伝カウンセリングではわかりやすい資料を用いて説明することで,クライエントの理解を深めることが重要であるが,そのために活用できる「遺伝カウンセリング資料」を付録として作成した.本書は,一般の産婦人科医のみではなく,婦人科腫瘍専門医,臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラー,またはその資格取得を目指すものなどが活用することを想定して作成されている.本書を通じ,婦人科腫瘍領域における臨床遺伝の理解が促進されれば幸いである.
なお,本書内の遺伝子変異保有率などは各著者の引用文献によって異なるデータが記載されていることをご了承ください.また,本書の発刊に際し,中外医学社の中畑謙氏,岩松宏典氏の多大なご尽力をいただいた.この場を借りて感謝申し上げる.
2018年2月吉日
関沢 明彦
佐村 修
四元 淳子