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書籍詳細

糖尿病合併症―どう対処するか

糖尿病合併症―どう対処するか

岩本安彦 編著

B5判 244頁

定価7,480円(本体6,800円 + 税)

ISBN978-4-498-12410-3

2002年06月発行

在庫なし

多種多様な糖尿病の合併症をいかに予防し,管理・治療するかは糖尿病診療の大きな課題である.
本書は第一線で糖尿病の診療に当たる医師のために,経験豊富な専門医がその診療実践のための知識を伝授したものである.
種々の急性合併症から糖尿病性腎症・糖尿病性神経障害・眼合併症・高脂血症・肥満症・動脈硬化症・足病変・妊娠と出産・皮膚病変・歯と歯周病にわたって,それらの予防・診断・治療・管理についてを具体的に解説している.
臨床に関わる最新の知識,ノウハウ,アドバイスが豊富に盛り込まれており,得るところの多い実用の臨床書である.

序にかえて

 わが国の糖尿病患者数は,近年,生活習慣の大きな変化と高齢化社会を背景に急激に増加している.1997年秋に行われた厚生省(当時)の糖尿病実態調査によれば,「糖尿病患者」は推定690万人に及び,その予備軍というべき者を含めると1,370万人に達する.さらに注目すべきは,「糖尿病患者」の内,受療している者は45%にすぎないことである.半数以上は糖尿病を持ちながら診断されていないか,診断されていても放置していることになる.糖尿病患者の大多数を占める2型糖尿病は,初期にはほとんどの場合無症状に経過する.たとえ合併症をひき起こしうる程度の高血糖状態が持続していたとしても,自覚症状が乏しいために,受診せず,かなり合併症が進行してから初めて「糖尿病」と診断されるケースも少なくない.すなわち,受療していない糖尿病患者が発症早期の軽症な者ばかりであるとはいえず,未受診糖尿病患者の中にもすでに重症の合併症をもつ者が相当含まれていると考えなければならない.
 糖尿病の治療の目標の第一は,長期間にわたって良好な血糖コントロールを継続することによって,網膜症,腎症,神経障害など特有の慢性合併症(細小血管症)の発症・進展を抑えること,併発しやすい動脈硬化症の発症・進展を抑えることにある.それらが達成されれば,糖尿病患者のQOLの低下を防ぐことができ,糖尿病をもたない者と同様の寿命を全うすることができる.しかし,現実は厳しく,目標達成からはほど遠いことを示している.すなわち,わが国の後天性の失明原因の第一位が糖尿病網膜症であるといわれて久しい.1998年には,新規透析導入患者の原腎疾患の第一位に糖尿病性腎症が躍り出た.今後,糸球体腎炎との差は開くばかりとなりそうである.
 近年相次いで発表されたDCCT,Kumamoto Study,UKPDSなどの前向き臨床試験の結果は,これらの合併症の発症の抑制には血糖コントロールの重要性に加えて,血圧コントロール,体重や血清脂質のコントロールの重要性も示している.良好な血糖コントロールの達成には食事療法,運動療法の実践が極めて大きな効果をあげることは言うまでもない.それに加えて薬物療法も有用であり,経口糖尿病薬,インスリン製剤ともに次々に新しい製剤が開発されてきている.患者の示す病態に応じて適切な薬剤を選択しうる時代を迎えたといえよう.
 合併症の成因については,高血糖に基づくグリケーションの亢進,ポリオール代謝異常,Protein Kinase C活性の異常,酸化ストレス,血液凝固・血小板機能異常など多岐にわたる学説がある.近年,分子生物学,発生工学などの手法を駆使した優れた研究が展開され,複雑な成因の解明にも着実に近づきつつある.糖尿病自体の発症に関わる遺伝因子のみならず,合併症の発症に関わる遺伝因子の解明に向けての研究も精力的に進められている.近い将来,糖尿病の疾患感受性のみならず,慢性合併症の疾患感受性遺伝子がそれぞれ明らかとなり,遺伝子診断に基づいてオーダーメイドの医療を行うことが可能な日も来るであろう.合併症の遺伝子治療については,すでに一部は実現しており,今後大きな飛躍が期待される分野の一つであろう.
 本書は,糖尿病の合併症について,臨床の第一線で活躍している多くの先生方に診療,研究,教育でご多忙の中,ご執筆いただいた.この場をお借りして厚く御礼申し上げる.本書が糖尿病の合併症に苦しむ多くの患者の診療に従事している医師や療養指導スタッフに広く読まれ,役立つことを願ってやまない.

平成14年4月
岩本安彦

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目 次

1 急性合併症の診断と治療
  A 糖尿病性ケトアシドーシス…〈佐倉 宏〉
  B 高浸透圧性非ケトン性昏睡…〈佐倉 宏〉
  C 乳酸アシドーシス…〈内潟安子〉
  D 医原性低血糖…〈内潟安子〉
  E 急性感染症…〈北原光夫〉

2 糖尿病性腎症
  A 成因と病理(総論)…〈高橋千恵子〉
    1.成 因
    2.病 理
  B 疫学―頻度,予後(1型,2型)…〈横山宏樹〉
  C 病期分類と診断,検査…〈横山宏樹〉
  D 糖尿病発症から早期腎症期の治療…〈宇治原典子〉
    1.血糖コントロール
    2.食事療法―蛋白制限食,食塩制限
    3.血圧のコントロール
  E 顕性腎症期の治療…〈高橋千恵子〉
    1.血糖コントロール
    2.食事療法―蛋白制限食
    3.血圧コントロール
    4.その他の治療―低蛋白血症への対処
  F 腎不全期の治療…〈朝長 修〉
    1.血糖コントロール
    2.食事療法―低蛋白食
    3.血圧コントロール
    4.その他の治療―【溢】水,心不全への対処
  G 末期腎不全に至った糖尿病患者の治療…〈長谷美智代,馬場園哲也〉
    1.至適透析導入時期
    2.透析方法の選択
    3.注意すべき合併症
    4.腎移植

3 糖尿病性神経障害
  A 成因と病理(総論)…〈八木橋操六〉
  B 疫 学…〈鈴木研一〉
  C 病期分類と診断,検査…〈鈴木研一〉
    1.分類,病期分類
    2.診断,検査
  D 症候学と鑑別すべき疾患…〈馬場正之〉
    1.糖尿病性ポリニューロパシーの症候学的特徴
    2.鑑別すべき主な病態
  E さまざまな病態と治療…〈高橋良当〉
    1.多発神経障害
    2.有痛性神経障害,治療後有痛性神経障害
    3.無痛覚症
    4.起立性低血圧
    5.胃腸症―胃アトニー,下痢,便秘,肛門アトニー
    6.膀胱障害
    7.勃起障害(erectile dysfunction:ED),射精障害
    8.アミオトロフィー(糖尿病性筋萎縮)
    9.無自覚低血糖
    10.単神経障害

4 眼合併症の診断と治療
  A 眼合併症の種類と成因(総論)…〈北野滋彦〉
  B 糖尿病網膜症…〈船津英陽〉
    1.疫学―頻度・予後(1型,2型)
    2.病期分類と診断,検査
    3.内科的治療と予防(血糖コントロール)
    4.眼科的治療と予防
    5.内科と眼科の連携,フォローアップの頻度
  C 白内障…〈加藤 聡〉
    1.成因,疫学,検査
    2.眼科的治療
  D 緑内障…〈加藤 聡〉
    1.成因,疫学,検査
    2.眼科的治療
  E その他の合併症―診断と治療…〈加藤 聡〉

5 糖尿病と高脂血症
  A 高脂血症の成因…〈山田信博〉
    1.危険因子としての高脂血症
    2.病態生理
  B 分類,診断,検査…〈山田信博〉
  C 高脂血症の治療…〈飯塚陽子,石橋 俊〉
    1.高脂血症の食事療法
    2.高脂血症の薬物療法

6 糖尿病と高血圧…〈稙田太郎〉
  A 糖尿病患者における高血圧
  B 診断基準
  C 治 療
    1.治療目標
    2.非薬物療法
    3.薬物療法

7 糖尿病と肥満症…〈河原玲子〉
  A 肥満症の成因と病態
  B 分類,診断,検査
  C 治 療

8 糖尿病と動脈硬化症(大血管障害)
  A 成 因…〈川上正舒,黒木昌寿〉
  B 糖尿病と動脈硬化症の疫学…〈川上正舒,黒木昌寿〉
  C 虚血性心疾患…〈佐藤麻子〉
    1.虚血性心疾患の診断
    2.治 療
  D 脳血管障害…〈内山真一郎〉
    1.臨床症状
    2.検査所見
    3.診 断
    4.治 療
    5.糖尿病を合併した脳梗塞患者の注意点

9 糖尿病と足病変…〈新城孝道〉

10 糖尿病と妊娠,出産…〈佐中眞由実〉
    1.糖尿病網膜症を合併した妊婦
    2.糖尿病性腎症を合併した妊婦
    3.妊娠中の血糖コントロール
    4.分 娩

11 糖尿病と皮膚疾患…〈大川 司,勝岡憲生〉
    1.総 論
    2.成 因
    3.分 類
    4.糖尿病に特異的な皮膚病変(直接デルマドローム)
    5. 糖尿病に合併しやすい非特異的な皮膚病変(間接デルマドローム)

12 糖尿病と歯と歯周病…〈桑澤隆補〉
(附)糖尿病の分類と新しい診断基準…〈岩本安彦〉
    1.診断基準
    2.病型分類

索引

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