NPPVアゲイン
人工呼吸といえば,侵襲的人工呼吸(挿管を伴う人工呼吸)であった時代に医師人生が始まった筆者にとって,2000年代初頭のNPPV登場は衝撃的でした.従来であれば,肺水腫を伴う急性心不全に対して,鎮静薬を投与しながら挿管し人工呼吸を始めると,それまで高血圧であった患者が低血圧となり慌てて昇圧薬を投与し…といったお世辞にもスマートとはいえないシーンが少なからずありました.NPPVによって,鎮静薬も昇圧薬も必要とせず,わずか数時間で人工呼吸から離脱する患者をみたとき,急性呼吸不全管理におけるブレイクスルーを感じました.
一方,NPPV機器・回路・設定は比較的単純な構造であるにも関わらず,マスクフィッティング,リーク対策,NPPVモード,患者評価などにおいて様々なコツがあります.単純な構造であるからこそコツが必要なのかもしれません.NPPVがデビューしたころ,様々な試みがなされ呼吸関連学会においてもおおいに議論されコツが披露されました.
NPPVが衝撃的なデビューを果たしてから十数年が経過し,NPPVは普通の治療となりました.導入期に苦労して業務をつくりあげた同志は異動によりバラバラとなり,「みようみまね」で使われていると感じるシーンがあります.NPPV運転はコツ次第ですが,乗り手を選ぶこと自体あまり意識されません.
2010年代初頭,新星ネーザルハイフローが登場し,NPPVの存在感がやや薄れたように感じます.NPPVとネーザルハイフローはライバルである面もありますが,補い合う関係でもあります.「NPPVはネーザルハイフローに劣る」とする報告がみられますが,「NPPVを使いこなせているのか?」と問いたくなります.逆説的にいえば,「NPPVを乗りこなせないのならネーザルハイフローの方が優れている」のかもしれません.
筆者自身,あらたな気持ちでNPPVを見直すこととし,筆者の経験からえたNPPVにまつわる様々なコツを本書にもりこみました.本書を通じて,NPPVを上手に乗りこなす仲間が増えることを望みます.
2017年7月
小尾口邦彦