序
2年前,カリフォルニアのサンディエゴ大学病院を訪れた時,私は大変なショックを受けた.というのは,火傷患者治療ユニットでの輸液の種類,速度および量が完全にコンピューターによってコントロールされていたのである.患者の性別,身長,体重,火傷の程度,合併症等の基本データをインプットする.すると検査室で測定された血清蛋白,アルブミン,電解質,血液ガス等のデータが直接オンラインでテレビモニター上に表示される.さらに尿量および心拍出量が間欠的に自動的にモニターされていて,それも表示される.そういった情報を総合して,輸液の種類,速度および量が自動的に算出され,医師はコンピューターのオーダーを受けて処置をすればよい.
それより10年前,私が米国の病院で臨床研修を受けていた頃は,輸液と電解質のバイブルとも言ってよいGOLDBERGERのテキストをかいま見ながら,乏しい能力を振り絞って体液バランスの計算を行ったものであることを考えると,隔世の感を禁じ得ない.
数年後には,日本でもこのようなコンピューターシステムが応用されるようになることが予測されるが,十分な基礎知識がないと人間がコンピューターに使われるロボットになる可能性が少なくないと思われる.
体液,電解質および血液ガスについての成書はすでに多数出版されている.しかし,まったく予備知識のない人が読んでも理解でき,しかも電解質と血液ガスの両者を包括したテキストは極めて少ない.そういったことで本書は企画され,これから勉強してみようと思われる看護学生,看護婦,医学生,研修医,検査技師,さらに知識の再確認を望まれる一般医家の方々に気楽に読んで頂けるものと思っている.
本書はわかりやすさ,読みやすさを第一目標に書かれているために,内容的に簡略化しすぎている点もあり,物足りないと思われたり,疑問を持たれることがあったら,ぜひその場ですぐにさらに高度の成書を参照し,御批判,御意見を伺えたら大変うれしく思う.
なお,前半の体液と電解質は腎臓専門の柴垣先生が,後半の血液ガスと酸塩基平衡は呼吸器専門の私が担当しているために,前半は腎臓中心的,後半は呼吸器中心的な内容になってしまっているので,その点を予め念頭においてお読み頂きたい.
最後に,本書の発刊に多大な御尽力を頂いた中外医学社の青木三千雄社長を始め,中田久夫,山口由紀子両氏,およびその他のスタッフの方々に心から感謝申し上げる.
昭和60年7月
塚本玲三