序
消化器内科医の仕事というと,多くの人は内視鏡検査や内視鏡で治療をする姿,あるいは超音波検査やCT検査などの画像検査を前にして症例を検討する姿を想像するのではないでしょうか.また,そういう仕事内容に憧れて消化器内科医を志す若い医師も多いと思います.それを反映してか,書店の医学書売り場の消化器のコーナーを見ると,内視鏡関連,放射線検査関連の本,あるいは消化器各疾患について詳細に記述された専門書がぎっしりと並んでいます.しかし,消化器内科をローテートする研修医や,消化器内科の研修を始めたばかりの医師,あるいは一般内科医として診療する医師にとっては,もっと総論的な解説をした本が必要なのではないか.そう思ったのが,この本を執筆したきっかけです.
本書では,消化器関連の症候に対するアプローチについてかなり詳細に解説しました.なぜならば,医師の仕事は患者の訴えを聴いて診察することから始まるからです.症候に対するアプローチを理解することは,例えると知らない土地の地図を手に入れることだと思います.地図がないと効率よく目的地にたどり着けないのと同様に,症候に関する理解が乏しいと診断にたどり着けないばかりか,無駄な検査を乱発してしまいます.消化器症候の理解は,すべての内科医が知っておくべきことで,内視鏡を手にするより先に身につけるべきことです.
本書の後半では,日常の診療で比較的多く遭遇すると思われる疾患や知っておくべき疾患について解説しました.初期研修医や一般内科医が,各疾患の概略を理解し治療にあたることができるように記述しました.
本書はコンサイスではありますが,消化器内科のエッセンスを詰め込んだつもりです.この本が初期研修医,消化器内科を学び始めた医師,消化器内科を専門としない内科医の方々の診療の一助になれば幸いです.
2017年2月
小林健二