序
はじめまして.自衛隊医官で血液内科医をしております.血液内科医として医療や血液疾患に関するblogを書いて10年になります.もともと医師不足が顕著な埼玉県にいるためか,今の医療制度では将来的に医療は成り立たないだろうと考え,若手医師の目線から医療制度などに関する考えを発信し始めたのが最初になります.一時期は月に10万以上のアクセスをいただき,更新頻度が週1回以下になっている今でも月に6〜7万件ほどblogを見に来ていただいております.
血液専門医を取得してからは,患者さんにわかりやすく参考になる記事を,若手血液内科医が説明をする際に参考になるような記事を書くこともありました.その中で患者さんや家族からのご質問などへの受け答えなどをしておりましたところ,中外医学社から『血液内科 ただいま診断中!』という本を執筆させていただくことになりました.
この話をいただいた際に「医師13年目でしかない自分が教科書を書くなどとんでもない」と思いました.blogをそのまま本にするようなものでよいというお話をいただきましたが,患者さんを対象に書いているblogと医師向けではかなり内容が異なってきます.しかし,現場の中堅医師の目線で本を書くことは若手から中堅の血液内科医のメリットになると考えました.
まず,私自身若手であり,様々な患者さんを前にして疑問を調べながら診療をしております.調べてよかったと思う知識もいろいろあります.オピニオンリーダーの先生が作成する教科書と違うかもしれませんが,現場で役に立った知識を多く含んだ教科書も良いと考えました.
また,中堅医師ということで初期・後期研修医の先生と接する機会が多く,「何に迷っているのか.どういったことを考えているのか」を知る機会が多いことがあります.各病院の上級医の方々から若手医師が直接指導を受けるのは,カンファレンスなどの場が多いだろうと思います.その中では上級医も「これは知っているだろう」というような話は質問したり,教えたりされないかもしれません.経験値の高い医師が「可能性が低い」と判断する材料を若手の先生は持っていないことも多々あります(上級医の常識が若手の常識でないことも多い).今回は診断学に関してということでしたので,症状や疫学情報,1時間ほどで出る血液生化学検査・血算・凝固検査などから「可能性が高いか,低いか」を判断できるものをできるだけ集めております.
この教科書の目的は「血液内科専門医」ではない医師,血液内科を研修中の初期研修医,新内科専門医制度に伴いスーパーローテートをしている後期研修医,血液専門医を志望する医師,一般病院・クリニックで血液疾患が疑われる患者を診た医師,病院実習中の医学部学生が血液疾患の診断過程をイメージしやすくなり,診断までたどり着くことができるようにすることです.それに伴い,血液内科を志す医師が増えたり,紹介時の緊急性などを理解していただけたりするとありがたいと考えております.また,血液専門医を取得されている先生に「備忘録」的な本というものを作成したいと考えました.
この本の構成は主訴や症候から始まるフローチャートによる目次と総論・各論に分かれております.各論は各診断の疫学情報・論文などの生存曲線や結果をまとめた表を記載しました「Summary」のページ,各疾患の簡単な紹介と診断のポイントを述べた「Introduction」のページ,そして「若手の医師」がイメージしやすいように会話形式で診断までの過程を書いた「Case」のページで作られております.
「Summary」のページは若手の先生も含め,中堅以上の先生の備忘録的なものになれば幸いです.「Case」のページは実際の患者さんを参考にしておりますが,年齢・性別は疫学上おかしくならない程度に調整しております.また,個人データにならないように血液検査のデータは10%未満の範囲で数字を変えております(切りがいい数字が多いです).できるだけ典型的な患者さんを選んでおりますので,若手の先生の参考になればと考えております.
また,資料として血液難病リストと個人調査票等をつけました.申請に必要な検査の確認など,診療のお役に立てば幸いです.
この本を執筆中の2016年5月末にWHO ClassificationのUpdate(4th edition)がBlood誌に発表されました.今後のことを考え,この考えを「まとめ」のページに取り込んではおりますが,症例部分など大部分に関しては混乱を避けるため,また理解しやすいようにWHO 2008 4th edtionに準じております.Updateされたものが定着しましたら,それらを上書きしていただけますとうれしく存じます.
この教科書が若手の先生や血液学を専門とされていない先生を中心に,専門医を取得されている先生にもお役に立てば幸いです.
2017年3月
渡邉純一