ER・ICU診療を深める2 リアル血液浄化
小尾口邦彦 著
A5判 292頁
定価4,400円(本体4,000円 + 税)
ISBN978-4-498-06684-7
2015年10月発行
在庫なし(2020年2月 改訂版刊行)
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ER・ICU診療を深める2 リアル血液浄化
小尾口邦彦 著
A5判 292頁
定価4,400円(本体4,000円 + 税)
ISBN978-4-498-06684-7
2015年10月発行
在庫なし(2020年2月 改訂版刊行)
序文
本書をご購入いただいた読者のみなさま,ありがとうございます.
ヒトは日常を受け入れる 全ての事象は形骸化する
「ありがとう」という言葉は「有り難し」という言葉の連用形「有り難く」が変化したとされます.「有る」ことが「難しい」ということで,「滅多にない」という意味でした.現在,「滅多にない」感情をもって「ありがとう」と言うヒトは少ないでしょう.世界に誇る「新幹線」も同様です.「新しく」日本を貫く「幹線」を思い浮かべるヒトはいないでしょう.あくまでシンカンセンです.
筆者が住む京都の京都駅前には京都タワーがあります.京都を照らす灯台をイメージしたとも,ろうそくをイメージしたとも言われます.9階建ビルの上にろうそくが載り「古都 京都」のイメージからほど遠い奇妙なデザインです.「京都に京都タワーは似つかわしくない」という意見は建築当時からあり,是非を問う「京都タワー論争」が今も続きます.筆者自身,通学途中に目にするようになった高校生時代から京都タワーのデザインに違和感を持ち続けてきました.
先日,慌ただしい東京出張がありました.帰路,新幹線が山科のトンネルを抜けまもなく京都駅のホームに滑り込む直前,京都タワーが目に入りました.違和感しかなかった京都タワーに懐かしさ・暖かさ・純朴さといった感情,出張の疲れを癒すものを感じました.自身が「京都タワーを受け入れた」と感じました.
時間が経過するとヒトは日常を受け入れます.それはよい面もありますが,「形骸化」といえる部分もあります.
CRRTが日常の医療となって約四半世紀
1990年頃CRRT(持続的腎代替療法,CHD・CHF・CHDFの総称)が日本に導入され,わずか数年で全国の多くの施設に広まりました.今や 「体の血液を一旦抜いて浄化し戻す作業を数日,長ければ数週間行う」というすごい治療が「日常の医療」です.「すごい」治療であるにもかかわらず今更「すごい」と思われないところに「形骸化」した面を感じます.また,多くの病院においてME(臨床工学技士)が管理をするようになり,お任せ治療となった面もあります.
・「すごい」治療を達成するために様々な工夫があります.安全装置もついています.
・「すごい」治療のパフォーマンスを引き出すためには,CRRTの仕組みを知らなければなりません.
・CRRTの能力には限界があり実は「すごくない」面もあるのですが,「形骸化」した故に「すごい」能力
と思われがちです.
・血液浄化にはコストがかかります.コストに関心を持つことも非常に重要です.
血液浄化の説明は難しい数式・議論になりがちです.それ故に「形骸化」が進んだ面もあると筆者は感じます.本書においては,多少乱暴であってもエッセンスが読者のみなさんに届くことを重視しました.本書を通じて,日常化・形骸化した面がある急性期血液浄化を,CRRTを中心に改めて見つめ直していただくことを目指しました.
本書の前編『ER・ICU診療を深める 救急・集中治療医の頭の中』では2つのテーマ「シンプルに考える」「イージーに考えない」を提示しました.
本書においてもテーマは同じです.
急性期血液浄化の理解・実践において
・シンプルに考える
・イージーに考えない
ことの重要性が読者のみなさまに届くことを望みます.
平成27年10月
小尾口邦彦
目 次
テーマ01 CRRT原理・効率理解
Chapter 01 ■血液浄化をお題にしようと思った理由
若手医師の中にみたかつての自分, 敗血症治療の幹と枝を明確に分ける
コラム 椎体椎間板炎の診断・治療
Chapter 02 ■「CRRT原理・効率理解」パートを読み進めるために
基本略語, 本書における小分子・中分子
Chapter 03 ■拡散とは?
Chapter 04 ■HDを復習し,CHDの仕組みと効率を理解する
●血液透析(HD:hemodialysis)のしくみ
透析における物質移動を説明するにあたっての前提条件(透析開始前), 透析による物
質の移動, HDのポンプ
● Let’s try“血液浄化紙上シミュレーション” !!
以後のシミュレーションのお約束, 設定(1), 設定(2), 設定(3), 設定(1)〜(3)のま
とめ
● 血液流量を上げて効率アップ?
設定(4), 設定(5), 設定(6), 設定(4)〜(6)のまとめ
Chapter 05 ■HD(血液透析)・CHD(持続的血液透析)の違いを理解する
血液流量, 透析液流量, HDとCHDはなぜ似て非なるものなのか理解しよう, HDの
透析効率の上げ方, HDをお見合いパーティーにたとえて考えてみよう, CHDの透析
効率の上げ方, CHDを男女のお見合いパーティーにたとえてみよう
Chapter 06 ■現在のHDはかつてのHDにあらず……
初期の血液透析(HD)において重視されたのは小分子除去, 現在のHD≠かつてのHD,
なぜハイパフォーマンス膜で中分子が抜けるのか?, 血液透析(HD)によって中分子
が抜けることにより生じた問題, HDにより中分子が抜ける話をCHDにそのまま当て
はめることはできない
Chapter 07 ■血液ろ過(HF:hemofiltration),ろ過とは
血液ろ過(HF:hemofiltration)のしくみ, ろ過による物質除去, ろ過はところてん
パワー
●持続的血液ろ過(CHF)シミュレーション
設定(1)
●CHFによる小分子除去
●CHFによる中分子除去
設定(2), 設定(3)
●ふるい係数
in vitroでのふるい係数, ふるい係数の実際
Chapter 08 ■CHF(continuous hemofiltration:持続的血液ろ過)の最大の弱点
ヘモフィルター内血液濃縮, CHFにおいては血液流量も問題となり……
●CHF(後希釈法)
●CHF(前希釈法)
設定(1), 設定(2), 設定(3)
Chapter 09 ■なぜ透析室ではHF(血液ろ過)をあまり行わないのか?
HFの開発は遅かった, HFは特に小分子除去においてHDより効率が非常に低い, 水
道水による汚染, サブラットⓇなどは「もともとはHF目的の薬剤」, 透析室における
HF, On-line HDFとは?
Chapter 10 ■混乱しやすいCRRT機器ポンプ名称・流量
CHD, CHF, CHDF
Chapter 11 ■CHDF(continuous hemodiafiltration:持続的血液ろ過透析)とは
CHDFの基本原理, 設定(1), 設定(2), 設定(3), 設定(4), 設定(5), 設定(6),
CHDFによるパフォーマンスのまとめ
Chapter 12 ■CHDFシミュレーション
Chapter 13 ■CHF・CHD・CHDFの効率はなぜ正しく理解されないか?
誤解の原因は?
CHF・CHD・CHDF比較の正しいグラフは?
Chapter 14 ■CHD・CHF・CHDFは設定変更の考え方にも違いがあり……
● (1)脱血不良
CHD(continuous hemodialysis:持続的血液透析), 後希釈法CHF(continuous
hemofiltration:持続的血液ろ過), CHDF(continuous hemodiafiltration:持続的
血液ろ過透析)
●(2)血液系回路凝固
●(3)膜の劣化
CHF, CHDF
Chapter 15 ■なぜ日本においてCRRTのスタンダードはCHDFとなったのか?
吸着原理についても理解しよう
●日本ではなぜCHDFが主流となったか?
日本におけるCRRTのその後, CHF・CHDFが血液中サイトカインの濃度に影響を及
ぼす因子, “CRRTによるサイトカイン除去の仕組み”説明の変遷
●吸着原理 吸着原理によるサイトカイン除去を重視する考え
PMMA膜使用ヘモフィルターも進化し……, セプザイリスⓇ(sepXirisⓇ)登場
●メインストリームで吸着?
少し脱線して……, さらに脱線して……
●サイドストリームで吸着?
PMMA膜(ヘモフィールⓇCH), AN69ST膜(セプザイリスⓇ), 吸着効率アップ
方法, 吸着能の生体内(in vivo)評価の難しさ, 吸着in vitro評価
● 吸着原理は膜飽和との戦い
コラム oXirisⓇ
コラム 筆者が危険だと思う会話
テーマ 02 リアル血液浄化
Chapter 01 ■CRRT回路・血液系ツアー
●CRRT回路内圧測定
圧力測定用ドリップチャンバー, 陰圧ピロー
● 筆者が考えるCRRT回路が複雑に考えられがちな理由
● “血液系”回路を理解しよう
(1)脱血, (2)抗凝固薬注入, (3)Aチャンバー(動脈側チャンバー), (4)中空糸内を
通過, (5)Vチャンバー(静脈側チャンバー), (6)気泡センサー
Chapter 02 ■CRRT回路・血液系圧アラームを理解しよう
圧評価もできるようになろう
● “血液系”の圧評価を理解しよう
血液系・陰圧ゾーンに問題が発生!!(患者脱血部位〜血液ポンプ), 血液系・陰圧ゾ
ーンの「脱血不良への対処」後の対処, 血液系・陽圧ゾーンの圧はあくまで血液ポンプ
と血液が流れるルートがつくる, 血液系の圧評価においてTMPや液系を考慮にいれな
い, 血液流量とCRRT回路圧の関係, ろ液流量とCRRT回路圧の関係, なぜろ液流量
を変化させても入口圧・返血圧はほぼ変化しないのか?, 圧が及ぶ範囲であれば閉塞部
位より上の全ての部分の圧が上がるルール, 回路内圧形成を理解するために重要なイ
メージ, Pressure Drop(?P)循環パイプにおける圧損失
● 血液系・陽圧ゾーンの圧理解・アラーム理解
血液系・陽圧ゾーン高圧アラーム, 血液系高圧アラーム対応, 血液系・陽圧ゾーン低
圧アラーム, 血液系低圧アラーム対応,
コラム 最新ECMO機器における回路内圧評価
Chapter 03 ■CRRT回路液系ツアー ろ過駆動圧としてのTMP
液系回路を考える, 透析液は血液と逆方向に流す, クジラの舌にある対向式熱交換器,
TMP(transmembrane pressure:膜間圧力差)とは, なぜ中空糸外は下流圧のみ測
定するのか?
●リアルTMP理解
モデル(1)〜モデル(5)
●「ろ過圧」という言葉を考える─
リアルろ過圧, モデル(6), モデル(7), ろ過圧
コラム なぜ血液の流れを下方向(↓)透析液の流れを上方向(↑)になるようにヘモ
フィルターを配置するのか?
Chapter 04 ■CRRT回路液系ツアー 膜孔閉塞指標としてのTMP
●リアル膜孔閉塞・TMP理解
モデル(1)〜モデル(15)
●結局TMP値の解釈方法は?
コラム CRRT機器画面撮影のすすめ・CRRT回路圧解釈の実際
Chapter 05 ■透析液は「さまざまな思惑がこもった」組成
体内から十分に除去したい!!物質, 一定の値を保ちたい!!物質, 体内で不足して
いるので十分補充したい!!物質
Chapter 06 ■世界の急性期血液浄化治療は?
アメリカ, ヨーロッパ, 日本, CRRTに関する世界的調査(1), CRRTモード, 抗凝
固薬, 免疫調節(Immunomodulation), 血液流量, 血液浄化量, 体重による血液
流量・血液浄化量設定, CRRTに関する世界的調査(2)
Chapter 07 ■CRRT保険制限
(1)出来高払い方式, (2)DPC(Diagnosis Proceduce Combination:包括医療支払制
度),保険のしばりを言い訳にせずに……
Chapter 08 ■薬物動態学を少しかじりながら
分子量と透析(HD)・CRRT, ビリルビンは透析で除去される?, カテコラミンは透
析で除去される?, そもそもターゲットは血管内にあるか?, 半減期の有効な利用法
コラム IV Lipid Emulsion(リピッド レスキュー・Lipid RescueTM)
Chapter 09 ■Dr.Roncoを追いかけて……
CHFでサイトカインは抜けるのか? Yes or No?
血液中サイトカイン濃度は減るのか? Yes or No???
血液浄化量アップ作戦の成果は?, 実際,CRRTにより血液中サイトカイン濃度は低下
するのか?, 何故CRRTによりサイトカインは排出されるのに血液中サイトカイン濃
度は変わらないのか?, Peak concentration hypothesis, HVHF(高流量CHF)も結
果がでず……, Dr. Roncoがついに……, 時代の潮流は変わり……, 最後に……
Chapter 10 ■エンドトキシン吸着療法の適応・コスト
エンドトキシンの自然界分布, エンドトキシンは内毒素(endotoxin)なのか外因性ホ
ルモンなのか?, エンドトキシン恐怖症候群, DPC制度におけるエンドトキシン吸着
療法
Chapter 11 ■エンドトキシン吸着療法の仕組み・効率・RCT
●エンドトキシン吸着療法が効果を発揮する仕組み
●どれくらい血中エンドトキシン濃度が低下するのか?
(1)エンドトキシン吸着療法開発者らによる発売開始前の報告(1993年), (2)敗血症
性多臓器不全症例を対象とした報告(2007), (3)その他
● 近年行われたエンドトキシン吸着療法の多施設RCT
●日本のDPCデータを用いた後ろ向き研究
●最終決戦? となるかもしれない多施設RCT
Chapter 12 ■エンドトキシン吸着療法にまつわる議論
コラム スペースシャトルと未来予測
Chapter 13 ■確立したとは言い難いエンドトキシン濃度測定
エンドトキシン濃度測定の歴史, 比濁時間分析法によるエンドトキシン濃度測定, 比濁
時間分析法への批判, ニューカマーESP(Endotoxin scattering photometry), 欧
米では, EAATMとは, 比濁時間分析法とEAAに相関関係はない, 結局どうする?
Chapter 14 ■ナファモスタット(フサンⓇ)都市伝説
“東洋の神秘”ナファモスタットに迫ってみましょう, そもそもナファモスタットの本当
の半減期は?, 当時の多くの論文では, ナファモスタット持続注入中の血中濃度推移,
血液浄化と凝固薬, 透析における抗凝固薬を評価するための採血部位と濃度の関係,
透析中ナファモスタットの回路内濃度・血中濃度の予測, 透析中ヘパリンの回路内濃
度・血中濃度の予測, 局所ヘパリン化療法, 「ナファモスタットは抗凝固作用をほぼ
透析回路内に限局させることができる」の真の意味は?, DIC薬・急性膵炎薬としての
疑問, ナファモスタットの副作用
コラム ナファモスタットと保険適応
Chapter 15 ■抗凝固薬モニタリングと採血部位
CRRTとナファモスタット, CRRTとヘパリン, ACTとAPTT
Chapter 16 ■透析患者が脳出血を合併したら
なぜ持続的血液ろ過が推奨されたのか?, 無凝固薬血液浄化, 本症例のその後の経過
Chapter 17 ■真のエンドポイントとサロゲートエンドポイント(代用指標)
だから治療はどうでもいいということではなくて……, 真のエンドポイントとサロゲー
トエンドポイント, 予後はあくまで長期死亡率で判定
エピローグ 小さなことに魂は宿る
参考書籍
文 献
索 引
執筆者一覧
小尾口邦彦 著
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